第二百五十三話~英雄の誘い~
壁に掛けられたろうそくの火は、決して明るいとは言えないだろう。しかし、薄暗い部屋で、机を囲む者達の視界を確保し、照らすには充分なものだろう。ただ、部屋の壁には幾つかの小さな窓があり、そこには漆黒を思わせる暗き夜空が見えている……。
…………と、暗かったのはその時までであった。その窓からは、唐突に太陽でも覗いたのかというほどの、眩しい光線が射し込み始める。
その光に、館の中はざわめき始める。その光が何を示すのか……それが分かっていても、理解をするには苦労する代物なのだから。だが少なくとも、同じものを一夜前にも見た慣れから、ある程度のざわめきで収まってゆく。
そして…………この館で現在最も重圧を受けているであろうモースらのいる部屋では、その程度のことには反応は薄いものであった。
「レギブスの魔法か…………まぁ、あれがあれば夜も戦えるからな。便利なことに間違いはないが……夜ぐらいは休ませてもらいたいものだな」
「魔法、ですか……これだけの魔法の力を保有するとは、流石魔法に力を入れてきたレギブス、と言うべきですかね」
「……そうだな、魔法という分野においては、我々でさえ遅れをとっている。厄介なことこの上ない」
窓から射し込む光が、前夜と同じ人口的な太陽が上がったことを告げる。その光のお陰で、これまでの若干暗かった部屋もある程度の光により、明るい場での会談となる。
しかし、決して会議の重圧は飛ばず、モースは目の前の敵を睨む。
……一体、ヴァンセルトは何を考えている……何故、英雄とまで言われる人物が、我々の手助けをしてくる……。
モースは決して、その懐疑の目を向けない。ただ自然に、目の前の者と目を合わせる。怪しまれないよう、その瞳の奥を覗かれないように。
「ヴァンセルト卿、この度は我々を窮地から救っていただき、誠に感謝致します。ですが、貴方は帝国の英雄。そんな方が敵国の部隊を助けるというのは、帝国としては問題があるのではないですか?」
モースは先手を取る。この言葉は、事実は含まれている。が、戦う気がないのは現時点であり、ブラッドローズとしては最終的には戦闘になるだろうと踏んでいる。だからこそのブラッドローズであり、この武力である。
そしてまずは、感謝を告げた上で、帝国かヴァンセルトの意思を確かめる必要がある。その回答次第で、今後の動きが変わることとなるが……
「別に気にする必要はない。我々は、君達との友好的な関係な為に、ここに来ているに過ぎない」
「……しかし、一軍の将が部隊を離れ、このような場所にいるのは問題ではないでしょうか。あのイクスの攻撃は、おそらくパラメキア軍にも襲い掛かっているでしょう。こちらではなく、戻った方がよろしいのではないでしょうか?」
「はぁ……その程度のことか……少なくとも、我々もレギブスもイクスの襲撃など想定済みだ。その上で、ロイヤルガードが二人もいれば、あれごときに負ける訳はないだろう」
「あのイクスの実力は見たことがありますが……失礼ですが、前にアイゼンファルツ基地で見た際は、ロイヤルガードである貴方方三人が揃っても、倒すことは出来なかった記憶しています。それが何故、今回は問題ないと?」
「あれはあくまで副体、イクス本体の魔力から作り出した駒にしか過ぎない。まあ、中身はイクスの精神で支配しているが……対した問題でもないだろう。確かに個としてはそれなりな強さかもしれんが、我々をコピーして更に分裂して、個の力は落ちた。あれならば、練度からして殲滅は用意だ」
ヴァンセルトは腕を組んだ状態で目を閉じ、元々決まっている内容を語るように、淡々と告げてゆく。その内容はモースから求めたものであり、知れるのであればそれに越したことはないが
……何故ここまで情報を渡す……普通、これだけの情報は取引に使えるものだ。何故、こちらに対価を要求しない……。
通常、これらの情報を一方的に流すというのは、交渉の席ではあり得ない。無論、相手がそれだけ信用できるか、あるいは後からより大きな情報を一つ引き出す為に、先に餌として出すことはあり得るが
……あり得ない。我々がそれに応じるとは限らない。そんなことをすれば、交渉の余地なしと切り捨てられる故にしないが……何を、何を考えているんだ、この化け物はッ!
モースの中で様々な可能性がめぐるが、どれも根拠は無いと否定される。探りを入れたいが、これ以上施しを受ける側にはいれない。部隊を助けられた借りがある以上、ヴァンセルトの目的を聞くことは必要だ。これ以上、相手の目的が不明瞭なのは危険なのだから。
モースは上がる呼吸を整え、ヴァンセルトの目を見て
「……ではヴァンセルト卿、貴方の我々に対する用件とは、一体何なのでしょうか」
その瞬間、ヴァンセルトは待っていたと目を開き、前へせり出すように座りなおすと
「……私がここに来た目的は一つ。君達に、我々の軍の傘下に加わってほしい」
告げられたのは、モースも、ギーブも、バウルでさえ驚愕し、理解出来ない目的であった。
どうも、作者の蒼月です。
さてさて、交渉シーンとか書くのも、なかなかに楽しいと気付いた今日この頃。
ヴァンセルトは、前にもほのめかしていた勧誘ですね。けれど、これはモース達からしたら考えれないことでしょう。なにせ、圧倒的上位者が自分達を欲しいと言うのですから。これが何を意味するか、また次回ですね。
では、次も読んで頂けると幸いです。




