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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第二百五十一話~賭けられた未来~

 既に日も落ち、目の前を見るのがやっとという状況の中で、灯りに照らされる存在達…………。

 その者達は、円形に陣を組み、全周囲を警戒していた。等間隔で、乱れなく動く兵。そしてその中央に……それぞれ肩を借りて歩く、バウル達の姿。ただ、その表情は決して良くはなく、今にも意識を失いそうな程焦点の合っていない瞳をしていた。外傷は、それまであった傷はふさがっており、穴が空き血で染まった服から血を足らす。これは、現場でなんとか回復魔法で傷を癒し、最低限動ける状態にした結果であった。


 しかし、それでも負傷は完治した訳ではない。歩くだけで防いだ傷口は広がり、また、貫通して空いた内臓まで再生できた訳ではない。回復魔法と、身体強化の魔法、両方の再生能力がなければ、彼らはとっくに絶命していただろう。

 そんなボロボロになった指揮官や、仲間達を守りながら後退することは披露が大きく、彼らも疲れを見せていた。だが、そんな中からぽつりと声が漏れ


「帰ってこれた……」

「あぁ、なんとか全員無事だな……」


 手に持つランプを下げ、見えてきた大きな灯りに安堵の息を溢す。彼らの、この戦争においての仮拠点であり、数少ない一息をつける場所であった。そんな憩いの場とも言える建物を前に、警戒を行っていた者達の緊張感も一気に解け、脱力感と共に重圧から解放されたという空気が広がり始める。


「大丈夫だったか、お前ら!」

「ッ!た、隊長!?隊長は無事なのか!?」

「それより早く!奥の部屋を用意しろッ!」


 建物の周囲に展開していた警戒部隊は、帰って来た仲間達、そしてバウル達の姿に急いで駆け寄った。想像よりも酷い状態であり、それを休ませる為に建物の中へと…………けれど、警戒部隊の殆どは、剣を何時でも抜ける体勢をとり、悪魔が来たと言わんばかりの表情である者に視線を集中させていた。




 その視線を浴びる主――ヴァンセルトは、これは想定範囲内の出来事だとつまらないものを見るように、警戒を向けてくる者を無視して館を見ていた。


 ……懐かしいな。確か昔、北からフィオリスに攻めようとここに来て、フィオリスの兵に止められたことがあったな……。


 ヴァンセルトは、その古く老朽化が進んでいるであろう建物を見上げ、過去の記憶を漁っていた。別段、何か思い入れがあるわけでもないが、帝国の者としてフィオリスの要所は知っている。その内の一つがここ、フィオリス北の駐屯地。ここからフィオリスに進行しようとした際、ヴァンセルトは衝撃を受けるような体験をしたことがあり、その記憶が濃く残っていた。


「あの時の者達が、我らを通したのには驚きだったな……それに、忠告まであったからなぁ……」


 常識的に考えて、軍が国境に置かれるのは敵の進行を防ぐ為である。が、このフィオリス北の国境だけは違い、ヴァンセルトが進行した際には戦闘を行わなかったのだ。ヴァンセルト達を見逃したどころか、更には山脈を進めば死ぬとまで忠告されたのだ。

 当時は、ヴァンセルトも山脈のことは情報でしか知らなかった故に進んだが……


 ……結果的、部隊は壊滅したからなぁ。懐かしいものだ。


 フィオリスの山脈が、入る者を拒むという噂は知ってはいたが、それを体感し、ヴァンセルトが死を覚悟した数少ない事件でもあった。


 そんな、笑い話としては笑えない記憶に耽っていると、ヴァンセルトはブラッドローズの少女――リーシャに声を掛けられる。


「申し訳ありません、ヴァンセルト卿……このような無礼を」


「何も、気にすることでもあるまい。君達の行動は当然のものだ。そうだな……あまり気は進まないが、この大剣を一時的に渡すというのもいいぞ。武装解除をすれば、そっちも少しは安心出来るだろう」


 ヴァンセルトの衝撃的な言葉の内容に、リーシャは目を見開き、そんなことが出来るかと首を左右に振る。確かに、ブラッドローズからすればヴァンセルトを警戒しないというのは不可能。けれど、だからといってそんな無礼な真似をして、後々の交渉に使われても厄介だ。

 そもそも、ここにいる者は、当たり前だがヴァンセルトが協力をしてくれているということを知らないから、こういった対応に過ぎないのだ。リーシャは、そんな必要はないと一言告げ


「ではヴァンセルト卿、こちらへ。モース隊長の意識が戻り次第、会談の席はもうけれるかと」


 リーシャは、これまで必死に培った知識からの中から、ヴァンセルトに敵意を持たれないように接することを心掛け、館へと案内してゆく。

 そして、指揮権がある訳ではないが、ヴァンセルトと話せる人間が館に問題ないと判断して呼び込んだ。ならば、自分達も目に見えた警戒は止めるべきだろうと判断し、周囲の兵達も謝罪の意味も込めて、胸に拳を当てて敬礼を行うのであった。




 そんな、敬礼の列で迎えられ、館に進むヴァンセルトは小さく呟く。


「さて、人間が消えるか生き残るか……期待させてくれ、竜の血を引く者よ…………」


 誰の耳にも届かないその言葉は、ヴァンセルトに微笑だけ作らせて、他の誰にも聞こえずそのまま闇へと消えていった…………

どうも、作者の蒼月です。

まあ、今回はあっという間でしたね。ヴァンセルトが仲間になるのか?(いやまあ、ロイヤルガードという立場があるんで無理ですね)って感じで、彼はどう動くか。そして、セヴランやリーナといった、本来の代表がいないこの状況。ブラッドローズは、こんな綱渡り的な会談は、とっとと終わらせたいでしょうねぇ…………頑張れ、モース!


では、次も読んで頂けると幸いです。

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