第十壱話 ~模擬戦~6
……これ以上長引かせたら負ける、足がもつか不安だが更に速度を上げる!
セヴランは正面から突撃する。速度を今まで以上に上げ、カーリーの対応速度を上回れる作戦に出る。
瞬間的に距離をつめ右の剣で切り上げを放つ。しかし、カーリーは今まで以上の速度に対応し剣で弾く。
速度が上がりセヴラン自身の制御が追い付かなくなってきている、が、弾かれた反動を利用し自身を回転させつつカーリーの後ろに抜ける。
空中で回転しながら高速で回る視界を捉えつつ
……出来たためしはないが、やるしかない
セヴランは新たに言葉を紡ぐ、同時にセヴランの前に氷の壁が現れる。
現れた壁を蹴り返すことによりセヴランは軌道修正を行う。蹴られた壁が砕けちり
……ぐっ!!!!
魔法での加速に耐えられず足の骨にひびが入る。しかしかまわず、蹴り返した反動で更に回転をし、カーリーの背後から迫る。
……速すぎる!まだ速度はあがるのか!
正面からのセヴランの一撃をようやく防いだカーリーは横目で見ていた、氷の壁が形成されるのを。
氷の壁をどうするのか、何をするかは分からないがカーリーは動く。
左足を軸に体を回転させ、後ろに抜けたセヴランに対応するため視線で追う。
……なっ!?
既にセヴランは カーリーの目の前にいた。後ろで地面を蹴ったのであれば、まだセヴランがこの場所に迫れるはずはない。異常な現象にカーリーは一つの可能性を考え
……氷の壁を足場にしたのか!
何をされたかを理解しても状況は変わらない、セヴランの一撃は既にカーリーの目の前まで迫っている。
故にカーリーは動く、右膝を地に着け、左手で刃を支え両手でセヴランの攻撃を受ける構えをとる。
構えるのとほぼ同時にセヴランの攻撃がカーリーの剣に落とされる。
迷いなく動けたことにより、全体重を掛けたセヴランの一撃を間一髪で受け止める。
剣と剣がぶつかり金属音の広がりとともに、カーリーの足元の氷の大地に亀裂が入る。
足場が壊れ始め若干体勢が不安定になりつつも
「うおぉぉぉぉ!!!!」
受けたセヴランの攻撃を力任せに押し返す、瞬間カーリーの腕に激痛が走る。
人一人を無理に腕の力で押し返したことにより、カーリーの腕への負担に追い討ちをかけるが
……空中で体勢を崩したここが好機!
セヴランの正面ががら空きになり、追撃をかけようと剣先をセヴランに向けるがその姿は遠退く、その事実にカーリーは
……まさか、今の攻撃で更に上に上がるのか!
セヴランの攻撃に備えるため、追撃を諦め再度防御の構えに移る。
押し返され体勢を崩したセヴランは更に飛んだ。
……ここで終わらせる!
飛んだセヴランは最高点にまで上がったと理解すると、体をねじり遠心力も含め体を回転させる。全体重に回転の力、持てる全ての力をもってしてもカーリーには効かない、それは今までのやり取りで理解している。
セヴランの剣とカーリーの剣がぶつかり、再度金属音が響く。
しかし、その音は今までの音より軽く小さい。
カーリーは剣を受けたままの姿勢だが、既にセヴランは地に着いている。
セヴランは剣を手放していた。
セヴランの体重もなく、単なる剣の重さだけでは音は響かない。その現象にカーリーもようやく理解をした様子だが、時既に遅し。
セヴランは地に伏せると左足を軸に回転し、無防備なカーリーの足に横から蹴りを入れる。
カーリーが地に倒れ、鎧と氷の大地がぶつかり氷の砕ける音が響く。
カーリーも急ぎ体を起こそうと手をつき上半身を起こまでいたるが
「私の勝ちです」
カーリーの喉元にセヴランが剣を突き付けられ、セヴランの一言で両者の動きが止まる。同時、広間が周囲の仲間の歓声に包まれる。
この瞬間セヴラン、新兵側の勝利が決まった。
「すげぇぇぇ!あの隊長に勝ったぞ!」
「セヴラン、お前ってすげぇ強いのな!」
「これなら、この国で最強になれるんじゃねえか!」
セヴランの周りに周囲で眺めていた仲間達が集まってくる。歓声に包まれ、呆然とするセヴランだが
「すごいものだな、本当なら新兵の心を折るのが私の役目だったというのに。まさか、本気を出して負けるとはな」
倒れていたカーリーが体を起こし、セヴランの周りに集まっていた皆が道を開ける。カーリーとセヴランが対峙し
「いえ、私は貴方にまだ勝っていませんよ」
「どういう意味だ?」
「今の戦いにおいて、一対一での戦いなどそうあるものではありません。集団での戦闘経験では私は貴方に劣りますし、勝つことも出来ないでしょう。私の魔法は、一対多でこそ意味を成すものですから。先程の言葉はそういう意味ですよ。」
セヴランは剣を拾い上げ鞘に納める、カーリーもまた剣を納める。
「お前ほどの逸材が謙遜とは、その実力は素直に誇ってもいいと思うがな。」
カーリーは辺りを見回し
「これにて模擬戦を終了する!各自、朝の部屋に戻り待機せよ!以後の指示はそこで行われる、解散!」
カーリーとともにセヴランの周囲に人だかりが出来る。周りではセヴランの実力や魔法についての議論まで始まり、盛り上がりは終わりを見せない。
大人数に囲まれ、人に誉められるということが人生のなかでもほとんどなかったセヴランは軽くため息をつき
……慣れないんだよな……こういう空気。こういう時はどうしたらいいんだ……
長い修行で人と関わりを経っていたセヴランは、誉められるということに困惑し、話を出来ずにただ呆然と周囲を眺めるのであった。
その姿からは、今まで鬼神と戦っていたとは思えないものであった。
どうも、作者の蒼月です。
前回からの戦闘が想定より長くなり、3分割という結果また文字数が少なくなりました。
次回からしばらく戦闘はなく、日常パートとなります。




