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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第二百三十四話~舞い降りる絶望~

 想定はしていたことであり、むしろ正しいとも思える対応をしてきたハインケル。この戦場のど真ん中で、対話をしようなどという方が、頭がおかしいのではないかとモース自身も思っていた。だが、その頭がおかしい者でなければ、ここまで拡大した戦いを止めることなど不可能なのも、また事実であった。


 ……まさか、ロイヤルガードがこうも話に乗り気だとは思ってなかったからな。これなら、七極聖天も少しは話になるか?


 モースは、七極聖天との対話の為にも、まずは敵意が今はないことを示すため


「七極聖天の皆様、そしてロイヤルガードの皆様、我々はまずは話合いをしたいだけです。よければ、武器を下ろしてもらいただけないでしょうか?」


 モースは、下手に出ることなく、あくまで対等な存在として話をしたいと堂々と構える。内心では、いつ無礼と思われ攻撃されるかとひやひやしていたが、幸いまだ攻撃こそされない。だが、その刃は下げられない。ならば、まだ言葉が足りないのだと、モースは言葉を重ねる。


「私達の目的は、この戦いで無駄な血を流すことを止めること。互いの目的の為にも、まずは話合うことは必要ではないだろうか」


 相手が何を考えているかは、現状モース達……ブラッドローズは把握していない。可能性があるとしたら、バーンズやキル辺りは何かを知っているかも知れないが、それを末端とは言わないが、あくまで兵士でしかないモースには知り得ないことだ。できることならば、彼らを刺激せずに会話に持ち込みたいが、情報が足りない今ではそれを判断するのは難しい。故に、モースはブラフを交えつつ、自身の目的を簡素に伝えたのだった。

 そして、モースの互いの目的という、知りもしない単なるブラフの言葉だったが、それにハインケルの表情に少し動いたことは、モースの目は捉えていた。それがどのようなことを意味するのか、それを判断するにはまだ早かったが、少なくとも七極聖天と話すきっかけにはなると考えれた為


「どうです?よければ、中立である我々の拠――――」



「くだらない……ゴミ風情が戯れるなど、傑作にも程がある…………」


『ッ!?』


 だが、モースの対話を求める言葉は、空から響いた邪悪なる声に書き消された。そして、その声はこの場に集まっていた誰もが知っていた。この世界を掻き乱し、神出鬼没の化け物…………。


「イクスめ、消えたと思えばまた来るかッ!」


 ヴァンセルトは空を見上げて叫び、他の者達も空を見上げる。そこには、それまでの快晴が嘘かのように、大地を薄暗いものとする雲が空を覆い、その雲の裂け目……彼らの頭上にその悪夢のような存在は現れた。

 黒きローブ、フードで顔を隠すその姿はイクス。モース達からすれば、アイゼンファルツ基地で見た、セヴラン達をゆうに上回る実力を持つロイヤルガードを、たった一人で相手をした上で余裕を見せる真の化け物。その悪魔のような存在が、再び目の前に現れたのだ。それを前に、この場では最弱のブラッドローズに出来ることなどなく


「何故、あれがここに…………」


「考えてもしゃあねぇだろ!とにかく部隊を逃がさねぇと」


「しかし、あれから逃げるなどというのは現実的ではないですよ…………」


 モース、バウル、ギーブの三人が至った結論は、逃げることは難しいということであった。たとえ逃げれたとしても、それはそれ相応の被害を伴うものだとも、三人とも理解していた。

 ただ、化け物を前にロイヤルガードと七極聖天は好戦的な構えを見せ


「本体じゃあないようだが、お前一人ごときで何が出来る」


 ヴァンセルトの大剣は強く握られ、既にいつでも刃は振るえるという状態にある。そして、リノームとリターシャも同様であり、それまで見せていなかった気が溢れだし、周囲に風を作っていた。


「七極聖天が揃ったこの状況で、余裕を見せていていいのかイクス……お前が何体来ようとも、その全てを葬ってくれる…………」


 ヴァンセルトが光溢れる気を放っているとすれば、ハインケルが放つのは闇に近い気だ。殺意、憎悪、憎しみ、負の感情から生み出される強い念が渦巻き、七極聖天の周囲を包み込む。


 圧倒的な強者の並ぶこの場。ロイヤルガードの三人と、七極聖天の七人、それに聖獣の七体。ここにいるのは、正真正銘大陸最強の者達だ。この者達で敵わないのなら、人類の負けは決まったようなものであり、また勝てる見込みがあるからこそ彼らも剣を取るのだ。

 こうして並んだ大陸の英雄達を前に、イクスは何も反応しない。虫が何をしようとも、興味を示さない人のように。ただ、イクスは少しの間をあけて、そのフードから覗く口元を笑わせた。

 イクスが笑うという行為に、ロイヤルガードも七極聖天も警戒するが、その警戒は無駄なものであった…………。


「お前達だけで争い、そのまま消えてくれればこっちとしても楽だったが……まあいい、どのみち同じこと。お前達には消えてもらう。この世界の為にもな…………」


「何を――――ッ!」


 イクスの言葉の真意は知りたかったが、それを考えるより先に、見たくもない絶望が迫ったのだった。

 影が…………増えてゆく。


「これは…………」


「ハインケル、これは少し危険ね……」


 ハインケルとタリシアが、その光景を危険と判断する…………それは、イクスの姿が、無数に増えてゆくのだ。ブラッドローズの面々は知らないが、元より複数の体を持っているとロイヤルガードと七極聖天は共に把握していた。しかし、イクスの増える数は、ゆうに百を超え、簡単に国が滅ぶ代物だった。そんな状況に、ロイヤルガードと七極聖天は戦う構えを見せたままである。ただ、イクス一体の相手すら出来ないブラッドローズには、この状況で生き残れる道があるとは、モースもバウルもギーブも、誰一人として思えなかった…………。

どうも、作者の蒼月です。

さてさて、今回はイクスが来ましたねぇ……

しかも、読者の方は分かってたかと思いますが、彼は複数の体を持っている(または操れる)というもの。過去にも、七極聖天に一人のイクスの分身がやられていましたが、今回はその多くが来ました。

さて、分身相手でも複数なら対処可能なロイヤルガードと七極聖天達。彼らは戦うようですが、ブラッドローズはどうするのか。化け物達の戦いの中で、必死に足掻く彼らの姿を、お楽しみにしていただければと思います。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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