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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第二百三十三話~接敵~

「何か来るな……」


「え?」


 戦いの最中、唐突に動きを止めてヴァンセルトから発されたその言葉に、リノームは何事かと同じく南を見た。しかし、そこにはまだ小さい何かしか見えず、それが何かは判別出来なかった。




 また、ヴァンセルトと同じように、ハインケルもまた迫る何かを見つめ


「あれは何だ…………」


「どうかしたの?」


 ハインケルの疑問にタリシアがその視線の先……南を向き、迫る何かを見た。けれども、小さくしか映らないそれが何かは、現状では判断しかねた。




 両陣営共に、迫る何かに動きを止めた。普通、ヴァンセルトやハインケルが興味を持つ敵など、そうそう現れる訳がない。そして互いに、現状目の前に敵がいる状態での戦闘を中断……それだけ重大な敵が来たとも取れるこの行動に、ロイヤルガードと七極聖天は互いに一旦、その刃を引くことを選んだ。




 そんな英雄達の戦いを止め、注目を浴びていた集団とは……


「おいおい、何か動きが止まってねぇか?」


「そうですね、私の目にもそう見えます」


「まさか、俺達に気付いてか?」


 迫る集団…………その先頭を走るのは、バウル、ギーブ、モース。その後ろに続くは、ブラッドローズの面々であった。ただ、彼らは普段の移動手段である馬車を用いず、身体強化の魔法から得られる速度を生かして、自身の足で大地を疾走していたのだった。ただ、それならば、バウルとギーブが付いてこれるのはおかしい…………この身体強化の魔法は、それまでブラッドローズの者しか使えなかったのだから。

 しかし、二人は完璧とは言わずとも使えていた。その理由は…………


「くそっ、やっぱこの速さは苦手だな。足がふわふわして仕方ねぇ」


「まあ、これの訓練も二週間だけの突貫で仕上げたものですからね。無理もないですよ……」


 そう、二人のこの力は、ブラッドローズに編入させられてから培われたものだ。それまで、まともな訓練を受けなかった二人を含めた特別遊撃隊だった面子は、今後の戦いに必要になると身体強化の魔法を、教導魔導師でもあるエメリィらに教わっていたのだ。長い時間を掛けることもできず、力を得るのは難しいことではあったが、そこはエメリィに外部から魔力の刺激を与えて、各自の魔力を強制的に引き出させた。その上で、更に知識も寝る時間を惜しんで叩き込まれ、術式魔法というものを覚えさせられていたのだ。幸い、中にはギーブらのように魔法を使える者達もいたため、基礎中の基礎を教えるのは簡単であった。後は、各自の魔力を操る感覚の問題で、その特訓を王都地下基地にいた際にはひたすら繰り返していた。

 突貫とは言ったものの、バウルとギーブは何とか使用可能なところまでは成長した。けれども、まだ実戦で使用する程までの実力はなく、これも移動の為だけに使える程度だ。また、他の特別遊撃隊だった者達は、まだ使うには不安定すぎる為に、この場には連れてきていなかった。一部の魔導部隊と共に、仮拠点に待機させていた。つまり、今ここにいるのは、モースら指揮官三人と、元々ブラッドローズに所属し身体強化を行える兵で構成されていた。

 馬車を使っての移動では、確かに歩くよりは早いが、それでも戦場では馬を守る必要性からも、無駄な労力を必要とすることになる。それに、拠点がある程度近い現状、身体強化で馬以上の速度で走れる彼らなら、戦場への移動が楽なのだ。魔力の消耗は問題だが、馬を守る労力と天秤に掛ければ目を瞑れる程度だ。

 そうして、彼らは戦場を駆け抜け――ようやく、英雄達の前へと並ぶのであった…………。



 パラメキアとレギブスの本隊の戦いの音が響き渡り、鉄のぶつかる音と兵士の叫び声。そんな血生臭い戦場で、モース達ブラッドローズ二百人程の部隊は、ロイヤルガードと七極聖天を相手に前へとたったのだった。

 突如として自分達に迫ってきた黒き姿の部隊に、始めに口を開いたのはヴァンセルトであった。


「その姿、バーンズのところの部隊だったか。見たところ、バーンズ達がいないようだが」


 堂々と武器を構えることもなく、力を抜いて言葉を口にするヴァンセルト。しかし、その姿でも相当な気が放たれており、敵意とまではいかずとも警戒されているのが、ブラッドローズの面々にはひしひしと伝わっていた。だが、ここで怖じけづく訳にもいかず、冷たい汗が背を伝う感覚を感じながらも、モースは一歩前へ進み


「我々は、フィオリス王国特務部隊、ブラッドローズ。私は、指揮官代理のモース。姫の代わりに、貴方方との対話をする機会をいただきたいと考えている」


「ほう……」


 モースの言葉に、ヴァンセルトは興味を示していた。もとより、フィオリスの戦力を欲していた彼からすれば、興味を示すのは当然であった。しかし、それはあくまでロイヤルガード側の意見であり…………


「貴様のような弱者の言葉に耳を貸せと?狂った連中だな、邪魔をするならお前達から先に消すぞ」


 ブラッドローズなどに興味を持つ筈のないハインケルら七極聖天は、ブラッドローズの面々に武器を構えて、その圧倒的な敵意を見せつけるのであった。

 対話などというのは、彼らからしたら無縁の話である。それを持ち掛けるブラッドローズは、七極聖天を相手に説得しなければならない。そんな無理難題を、これからモース達は行うと決めたのだった…………

どうも、作者の蒼月です。

ようやく話合いの準備に移れました。はやくこの章も終わらせて、セヴラン達の話に戻したいのですが……これ、たった三日間のために、どれだかの文字数書いてんだって話ですよね……


どうにか、うまく纏める術が欲しいものです(切実)


では、次も読んで頂けると幸いです。

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