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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第二百三十二話~超重合戦~

  ロイヤルガードと七極聖天、再び剣を交える為に距離が詰められ、その攻防が再開される。


「予定通りだッ!」


「「はッ!」」


 三人は揃って駆け、七極聖天に刃を向ける。ヴァンセルトを筆頭に、その後ろで一列になるように走るリノームとリターシャ。この並び方では、三人での同時攻撃も出来ず、精々後ろ二人の攻撃の頃合いを悟らせない程度の効果しかないだろう。

 一般の兵ならいざ知らず、自分達を相手に舐めたことをしてくれると、ハインケル達も聖獣らと共に構え


「やれ」


 剣でヴァンセルトらを指し、聖獣に攻撃の命令を下すハインケル。そして、それに応じようとドラゴンはブレスを、不死鳥はその翼から炎を打ち出す。二重の炎は渦となり、ヴァンセルト達へ向かい、三人の通る道を炎の海に変えたのだった。何者も存在することを許さない炎…………だがその炎の海は、次の時には割られるのであった。


「ぬるいなッ!」


 炎を寄せ付けない叫びと共に、炎の海だった大地に一本の道が作られた。そこには、剣を振るった後のヴァンセルトの姿があり、それが意味するのは


「やはり、剣圧だけでこの炎を吹き飛ばすか……」


 想定の範囲内ではあるが、それでも目の当たりにする魔法の炎を物理的な剣圧だけで叩き割る光景は、他では見れない化け物所業と笑うしかなかった。

 だが、ハインケルは即座に次の動きを指示する。左手で指を鳴らし、姿を見せたヴァンセルトへと、オーガストとゼノンの二人を突撃させる。その合図と同時、待っていたと二人ともが割れた炎の間を駆け抜け、その拳と刃を突き出す。


「はぁぁぁ!!!」

「……ッ!」


 いくらヴァンセルトと言えど、剣を振るえば硬直は生まれる。それを見越し、その隙が生まれるのを待っていた。ただ、そんな初歩的な隙をヴァンセルトが対策もしないなどという甘い考えは、七極聖天の誰にもなかった。故に、何かを仕掛けてくると確信しながらも、その懐へ飛び込み…………


「「ッ!」」


 そして二人は気付いた、ヴァンセルトの狙いを。正面から突撃した際には気付けなかった、ほんの小さなの動き……。それは、ステップだった。普通、あれだけの一撃を放つなら、それだけ強く踏み込む必要がある。しかし、ヴァンセルトは踏み込んでいない……どころか、後ろへステップを踏みながら、腕の力だけで爆風とも言える一撃を放ったのだ。普通ならあり得ないという常識から、ヴァンセルトは二人を余計に踏み込ませることに成功したのだ。

 後ろへとステップを取られていたことで、オーガストとゼノンの二人は、攻めるには踏み込みの量が足りず、守るには距離が近すぎるという中途半端な位置に置かされる。もちろん、二人ならばまだ踏み込むことは余裕である。そこからの追撃も、容易に想像できた。しかし、二人の判断は引くことであった。その理由は、ヴァンセルトの背後から、次なる攻撃が飛んできたからだった。


 控えていたリノーム。ヴァンセルトの影を利用し、攻めるタイミングを相手に悟らせないように構え、そしてヴァンセルトの策で攻撃を失敗に終わらせた二人に、追撃せんと一気に跳躍をして迫ったのだった。今攻めれれば、ほぼ間違いなく攻撃を当てられる。オーガストとゼノンは、二人とも優秀ではあるが、一騎当千の実力は伊達ではないと、リノームは剣ならば負ける要素は一切なかった。故に飛びかかり――


「土の精霊よ、その大いなる大地の命を」

「迫る敵の刃を止める為、その力を我らに貸せ」


「「アース・オブ・フェンサーッ!」」


 その語られた言葉によって、大地が牙を突き出した。


 ヴァンセルトへの攻撃が失敗した二人は、迷いなく後退を行った。しかし、それは接近戦で不利を理解してのものだった筈…………。だが違った。実際には、リノームを釣り出す餌だったのだ。わざと不利を見せ、ここぞとばかりに追撃を行わせる。それにより、ヴァンセルトの後ろから擬似的な奇襲を行おうとするリノームには、攻撃をするのは跳躍して抜けてくるしかない。炎の海を割らせ、両側を塞ぎ、進路を限らせる。その上で、リノームに跳躍をさせ……土属性の上級魔法である、アース・オブ・フェンサーをオーガストとゼノンの二人係りで発動。大地を牙のようにせり上がらせ、回避の行いようのないリノームへ、面での攻撃を仕向けた。

 そしてそれは、七極聖天側の作戦勝ちだろう。リノームには、迫る大地を回避する術はない。このままでは、次の瞬間には鋭利な土の牙に貫かれる…………。


 そこでリノームは、今が好機と叫んだ。


「やれぇッ!リターシャッ!!!」


 攻撃は成功した筈、そう確信するオーガストとゼノンだが、リノームの背後から更に上へと跳んだ影が見えた。上へと跳躍を重ね、太陽を背にするそれは……リノームの呼んだリターシャである。彼女は、既に最高点まで達していた。ならば、後は落ちるだけと、垂直に下へと降下し――――一度空中で回転し、姿勢を制御……そのまま、二本の剣をリノームへと迫っていた大地に叩き付けた。


 大地とリターシャの衝突の際、土が砕け爆風が生まれるが、攻撃を防がれただけでは意味がないとハインケルが叫び


「タリシアッ!マリーンッ!」


 名前を呼ばれただけで、ハインケルが何を求めているかが、二人には即座に理解する。リノームを仕留める予定が、それを防がれ掛けている。ならば、止められることを止めるか、または別の者を狙うまでのこと。この場合は後者に辺り、隙が最も多いリターシャを仕留める絶好のチャンスである。ただ、ここで魔法を使う者が呼ばれたのは、この一瞬で攻撃が可能な者故。つまり、求められているのは速攻性の攻撃。いくら無詠唱が可能とは言え、超級魔法の発動にはほんの僅かではあるが、隙が存在する。故に、ここでは使い勝手もよい風属性の魔法が最適であり


『ウイングドランスッ!』


 三人が同じ思考から、目の前で瞬間的に収束させた風の槍を打ち出す。回避の隙を与えない為、即座に放たれたそれは一瞬にしてリターシャに迫り、リターシャも少しでも受け流そうと剣を構えようとするが、それは最早間に合わない。流石のリターシャも、目を瞑り視線を反らす……が


「やらせるか……はぁッ!」


 ハインケルの言葉から、次にリターシャが狙われると判断し、それが速攻であろうと風属性の魔法であることまで予測した上で、大剣を振り抜けるように構えていたヴァンセルトが…………空へと向かって、刃を振り抜いた。全力で振るわれるその刃からは、空気の層を割り、そのまま風の刃へとぶつけられた。

 圧縮した風同士のぶつかり合いに、一度内へと収束した風が外へと放たれた、離れた本隊の戦いにまで影響を及ぼしていた。


 だが、これだけの攻防を行えど、両者の実力は拮抗している。誰一人落ちることなく、戦いに終わりの気配は未だ訪れない。

 ただ、この瞬間にある二人……ヴァンセルトとハインケルは、何かが近付くと感覚を強めた。それまで気にする程でもなかったそれが、近くまで来ている。

 それが何であるかと、二人は煙に包まれた戦場に立ち、南の方角を同時に見るのであった。

どうも、作者の蒼月です。

書いてて思うのは、やっぱりこいつら化け物だ……。書いてはない他の物語もあるので、そこの登場人物なんかと強さを数値化して比較したんですけど、こいつらの強さが異常すぎるのなんの……

これは、早いとこ解説出来るように物語を進めたいです(戦いが楽しくて長引いてるのを反省します……)。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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