第二百三十一話~古き希望に迫る者~
太陽は上りきり、既に昼を過ぎ始める頃。レギブス軍の中衛を包囲をするパラメキア軍は、各大隊内で入れ替わりなども行い、暫く出来ないであろう僅かな休憩を少しずつ行っていた。既に、レギブスの後衛部隊は包囲の為に、横に広がりゆったりと接近しており、休めるのはこれが最後だと分かっていた。故に、攻撃の波を少し弱めてでも休めと、各大隊長の判断の下一時間も掛けずにそれは行われた。また、対照的にレギブス軍の中衛は、魔導部隊の疲労もあり、パラメキア軍の攻撃の波が弱まった今、どうにか突破出来ないかと一部の近接部隊が攻撃を強めていたが、いくら攻撃の手を弱めたパラメキア軍相手でも、突破となるとそう易々とはいかなかった。
被害を増やし、互いに死者も増えてゆくこの戦場。ただ、それでもこれだけの人数が動員されたこの戦い、数百人が死んだ程度で止まるものでもない。それが分かっているからこそ、ロイヤルガードと七極聖天は、休むことなど知らずに戦い続けていた…………。
「リノーム、リターシャ、二人とも無事のようだな」
「あの程度の相手に、負けはしませんよ」
「いいわねぇ、そんな余裕が言えるなんて。私はギリギリでしたね、やはり力と速度、両方を持つあれらには苦戦しました」
ロイヤルガードは分散して戦っていたが、ここで合流を果たし、少しばかり戦いながらの休息をとろうとしていた。ここまで、半日以上を自分達と同様の力を持つ者達相手に戦い続け、更に終わりは近くないこの戦い。三人での連携で戦いを行い、その間肉体的にも精神にも休めようというものであった。
「しかし、やはり七極聖天もやりますね。数年前までは、あそこまでの強さは無かった……執念、というやつですかね」
リノームは、七極聖天の強さの変化を僅かながら畏怖していた。元々、七極聖天という組織は名前はあったが失われていた。しかし、十六年前にハインケルが現れ、レギブスという一国家を変えた際に復活させられた組織。魔法の才能に見入られ、伝説と言われた聖獣と契約する者達。伝説として伝えられていた彼らの出現により、それまで脅威とは言えなかったレギブスが、突如として急激な成長を見せたのだ。
パラメキアも、それに伴い領土拡大、計画の為に戦い続けこれがその互いの戦線の初の接触である。これまでにも、ロイヤルガードの三人でレギブスの軍事行動に介入し、力は把握していた。だが、その力は年々増大し、今ではロイヤルガードと並ぶ程。
その成長速度に、リノームは畏怖を抱いたのだ。そしてそれは、ヴァンセルトも同じであり
「だが、恐れるだけではどうにもならん。奴らとて、我らと同じく抱える目的がある。なら、それに我らも応えるしかあるまい」
ヴァンセルトは空を見上げ、自身の敵でしかあれない七極聖天に、唯一出来ることとせめてもの全力の戦いを望んでいた。
そんなロイヤルガード三人に対し、七極聖天は余裕は無かった。いくら彼らが強大な力を持ち、ここまで計画を進めれてきたとしても、それは強大な敵と戦わなかったからだ。ただひたすらに、周囲の国を取り込み国力増大、力を蓄え……そして遂にきたこの戦いで、自分達の弱さを痛感させられた。彼らの求める未来を考えれば、この程度の壁は簡単に打ち破る必要がある。しかし、今の彼らにはそれは不可能だったのだ。
「くそッ……誰もやられてはいないな」
ハインケルの不機嫌なその態度に、七極聖天は誰も口を開けない。ただ、この怒りは彼らに向けられているものではないと、皆が理解していた。ハインケルは、自分の弱さに、その怒りを向けているのだ。それが分かっている彼らとしては、それを支えきれなかった自分が許せない。この空間にあるのは、感情の負の連鎖であった。
しかし、そこに唯一とも言える正の感情を持ち続けるタリシアは、手を叩いて全員の気を引く。
「は~い、皆落ち込むのはそこまで。反省は、やるべきことをやってからにしましょう」
タリシアの場違いとも言える笑顔、その喜の感情、前向きな思考。それにはハインケルも頭が痛いとタリシアに言葉を向けるが
「タリシア……あくまで事実としての――」
「黙って」
言葉を遮り、殺意の波動さえ感じるその瞳に、ハインケルは言葉を控えるしかなかった。タリシアは感情が消えたような、冷たい言葉を綴り
「ハインケル、貴方が何怖じけづいているのかしら?……私達に、もう帰る場所なんてない。この鳥籠を壊して、巣から旅立つ…………その為に、私達は戦うのよね?たかだか実力で勝てないからって、こんなところで想いで負けるつもりなの」
場を凍らせるタリシアの言葉…………誰も言葉は返せず、七極聖天の中には暗く重い重圧がのし掛かる…………。
だが、ハインケルは細く笑ったのだった。
「……確かに、違いないな…………俺は、未来を見るあまり、今をおざなりにしていたな……気付かせてくれて感謝する、タリシア」
ハインケルの中では、そのキツイ言葉が転機となった。彼は、自分の役割に心が疲れていたのだ。しかし、タリシアの言葉でそれを取り戻し、自分の進むべき道に戻れたのだ。
戻った冷徹な英雄の仮面を被り、ハインケルは告げる。
「なら行くか。後少しで、敵本隊を包囲できる。そうなれば、後はこっちの勝ちだ。それまで、ロイヤルガードに好きはやらせん。向こうも合流した、ここからは連携して戦うぞ」
「うっし!やってやるぜッ!」
「……仕方ないな……」
「「あの白い奴、今度こそバラバラにしてやろう~」」
「やれやれ……どうしてこう、血の気の多い奴ばっかりなのかしら」
オーガストにゼノン、ライラとライル、マリーンはそれぞれハインケルの言葉に納得を示す。
そして、タリシアも元の人を包む笑顔に戻り
「それじゃあ、行きましょうか」
「……あぁ」
ロイヤルガードと七極聖天、互いに次なる戦いと剣を振るう用意を行った。ただ、彼らの中でも、ヴァンセルトとハインケルだけは、何か奇妙な感覚を得ていた。自らの戦場に近づく、希望溢れる想いを持つ意思達の存在を…………
どうも、作者の蒼月です。
なんか、パラメキアとレギブス、双方の計画がまだ見えてないからなんとも言えないんですよねぇ……しかし、そろそろそれも見えてくる頃合いです。それが見えれば、彼らをまた違った見方が出来るかなと。
では、次も読んで頂けると幸いです。




