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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第二百三十話~弱さ故の支え合い~

 心の奥に押し殺していた復讐心、それを見抜かれていたモースは、最早指揮を執ることなど不可能に思えた。指揮官としての役目を放棄し、無意識ながらも私怨に刈られていたことが分かったのだ。そんな指揮官に、ついてくる兵など普通はいないだろう。

 自分の中から、自信を失っていく感覚が生まれるのを感じる。力が抜け落ちるような、そんな感覚だ。モースはそれまで込めていた手の力を抜き


「……なら、お前達はどうしろと言うんだ……確かに、俺はあの時、復讐心の感情に踊らされていたのは違いないさ……ただ、今度は仲間を置いていくのも違うと言うのか…………」


 その声に暗さが宿るモースの言葉に、また困ったとバウルは苦笑し


「悪い悪い、そんなに困らせるつもりはなかったんだが……つまりな、さっきまで部屋でも話してたが、お前はもう冷静に戻ってたよな?その状態で考えた上での行動だ。これなら、むしろ部隊を使っていいと思うぜ。前に止めたのは、お前が冷静じゃ無かったってだけなんたからよ」


 更にギーブも続けて


「貴方は真面目過ぎるんですよ。初めて会ったときもそうでしたが、真面目に物事を捉えすぎるあまり、考えが空回りすることがあるだけなんですよ。考えが悪い方向にばかり向くのであれば、我々と共に決めればいいんですよ」


 二度目となる、二人からの真面目という評価。そんなものはもう、モース本人からしてみればどうでもいいものだ。ただ、こんな様の自分に付いてきてくれる者など、いる筈がないと――――


「モース隊長って、いっつもそうですからね~」


「……え……」


 誰から上がっただろうか、隊員からの言葉がモースの耳に届いた。そしてそれは、一つに留まらない。


「だよな~まあ、今更なんだけどな」

「その真面目さに、一体何人が指導されたことか」

「それに、隊長が復讐心で動いてるのなんて皆知ってるしな」


 聞こえてくるのは、バウルとギーブ以外の、モースを工程する声であった。それは、本人が思っているよりも信頼されていた証明であり、自分が否定されないことにモースは驚くしかなかった。


「お前達……なんで……」


「なんでって、今更その程度のことで文句言う奴がいると思います?」

「この五年間、共に捨てられた者同士、同じ釜の飯を食ってきた仲間だろうが」

「隊長以外にも、復讐心を持ってる奴はいるし、その気持ちは皆よく分かってるんすよ」


 仲間は、自分をみかぎっていなかった。その安堵感は、不安定だったモースを冷静にさせ……


「……すまない……また、私は迷惑を掛けたな…………」


 何度目になるか、謝罪を述べるモース。しかし、その表情は少しだけ柔らぎ、心のゆとりが出来たことを周囲に見せていた。


「ふぅ……お前の相手すんのも、ギーブの相手する並みに面倒だなぁ~」


「貴方の馬鹿さに付き合うのも大変なことも、理解してくれると助かるんですが」


 意図してなのか、バウルとギーブは名物とも言える軽い口論を始め、その場はまたかと笑いが起きていた。

 そんないつもの日常に、モースも考えを少しは改め


 ……そうだな、どのみち俺一人とバウルにギーブだけじゃ、出来ることは限られるよな…………冷静じゃなかったな。


 モースも、自分の力量が分からない程愚かではない。冷静になった今、対話の為にも戦力が必要なことは理解している為、辺りを見回し


「なら全員、対話の為に付いてきてくれるか?」


 周囲にある視線は、そのどれもがモースに向けられている。そして、視線が合った者は揃って頷き、まだ自分に付いてきてくれることを確認した。その期待を裏切らない為にも、リーナやセヴランに任された役目を果たす為にも、モースは再び覚悟を固め


「……全部隊に告げる!これより、当初の予定通りこの戦争を止める為、対話の足掛かりをつくる!向かう先はパラメキア軍とレギブス軍の中心点。最後の準備として、館前広場に各小隊ごとに整列!これからの動きをそこで指示する……以上ッ!」


『はッ!』


 仲間は散ってゆき、それぞれの場所へと移動する。仲間への伝達や、物資の運搬だろう。

 その様子を確認したモースは、そのまま目の前の扉を出てゆく。そして、目の前に広がる青空を見上げ


「これからが本番か……」


 腰に下げられた剣の柄に手を起き、最後の心の準備をする。深呼吸をし、冷静さを意識し、自分があるべき姿を想像する。正直、考えれば考える程、目の前の状況は悪いものにしか思えない。ただ、重圧が肩に乗り掛けたその瞬間、背後側から両肩に手が置かれ


「楽しくなったきたじゃねぇか。この戦いを止めて、皆笑顔になれる世界をつくる。その歴史の分岐点に俺達がいるなんてよ」


「一人では困難かもしれませんが、我々は一人じゃありません。仲間となら、こんな困難でもなんとか出来るでしょう」


 バウルとギーブ、二人の微笑みは、緊張をしそうになるモースを支えるのだった。そんな二人に感謝をしつつ


「あぁ…………やれるよな、俺達なら…………」


 ただ青い空を見つめ、自分達の行く末が明るい未来であることを、彼らはただ望んだのだった…………

どうも、作者の蒼月です。

書いてて思うこと……あれ、ここ最近モースが主人公してね?

いやほんと、群像劇は書けないですが、皆が主人公ですからね。今の私の技量だと、数人のことぐらいしか書けないので(まあ、基本的に書いたらネタバレになるキャラが多すぎるのが理由の一つなんですが……)


皆が主人公、そんな作品を書きたいものです。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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