第二百二十五話~広がる力~
パラメキア軍、レギブス軍、双方共に先方たるロイヤルガードと七極聖天が衝突し、互いの勢いは拮抗した状態が続けられる。そんな中で、次に動きがあったのはレギブス軍の騎兵隊だろう。彼らは七極聖天と共に進み、途中までこそ間に合っていたものの、中間からは完全に置いていかれていた。しかし、ロイヤルガードとぶつかるのが目的ではない故、三ヶ所で戦う七極聖天達を追い抜き
「進め!我らが七極聖天が開いたこの道、決して無駄にはするなッ!」
『おぉぉぉぉぉ!!!!』
数少ない騎兵大隊は、その千人程からなる数列で、大隊指揮官の号令に合わせて駆け抜けてゆく。
これには、個人的戦力としては破格と言えるヴァンセルトも、頭を押さえられた状況で見逃すしかなく
「流石に、この状況では止めてやれんな……仕方ないッ!」
獅子とドラゴン、そこに加わる天使と魔法の援護。それだけの絶えない攻撃の波を受けつつ、一度大きく後方へ下がるように跳躍した。それまで、強きに前に出ていた動きを続けた故に、ハインケル達はヴァンセルトの動きを警戒し、一瞬だが攻撃の波を止めることとなった。
その隙を意図的につくり出させたヴァンセルトは、自身の少し離れた左を駆け抜けていくレギブスの騎兵隊に目をやる。その僅かな仕草で、ヴァンセルトが何を狙っているをハインケルは理解し
「……ッ!奴を止めろッ!全力で攻撃を叩き込めッ!!!」
しかし、気付いたとしても既に手遅れ。ヴァンセルトは跳躍の最中で大剣を振り上げ
「はぁぁぁッ!!!」
狙いを騎兵隊に定め、大地に空振りの一撃を叩き込む。その刃からは、大気をも割る剣圧が放たれ、大地を抉りながら騎兵隊へと迫った。
「私が出来るのはここまでだ、後は各自に任せるぞ……ッ!」
剣圧を飛ばした直後、すぐに動きに気付いたハインケルの指示で、再び聖獣達の猛攻にヴァンセルトは動きを封じられることとなる。
常識外れな動きをするヴァンセルトから放たれた剣圧は、そのまま騎兵隊に牙を向いた。馬を列走らせている為、騎兵隊は急激な進路変更が叶わない。更に言えば、攻撃は一瞬で迫り、それを回避するなど到底無理な話だ。
剣圧は騎兵隊の先頭に近い部分を襲い、騎兵隊を吹き飛ばした。人間が空を舞い、馬が悲鳴を上げて血を流し、部隊の一部が瓦解した。死骸が先頭付近で生まれたことも相まって、それに巻き込まれた一部も倒れることとなる。
「ぁぁ……たす……」
「ひぃぃ!ひぃぃぃッ!」
「がはッ!……嫌だ……こんな……」
部隊の一部が瓦解した影響は大きく、レギブス軍は進行の阻害をされる。だが、そんな程度でこれまでの地獄を生きてきた精鋭が止められる筈もなく……
「止まるなッ!そのまま右に進路を取れッ!動けない者はそのまま置いていく。全員、このまま魔導部隊の為の道を切り開けッ!!!」
『了解ッ!!!』
騎兵の足は止まらず、瓦解した左翼前方の部隊を切り捨て、そのまま疾走する。死を覚悟の上で挑む軍勢は、何よりも恐ろしい敵として、パラメキア軍の目に映ったであろう…………。
それだけの被害を受けようと、止まることを知らないレギブスの騎兵隊は突進してくる。それを、最前線中央で構えるパラメキア軍第二大隊は、重盾を構えて壁をつくり、いつでも敵を受け止めるという意気込みであった。
大隊指揮官も、馬の上から剣を掲げて高らかに叫び
「ここまで、ロイヤルガードと第一大隊がが支えてきた戦線だ!次は、我々が迫る敵をここで食い止めるッ!重盾で奴等を止める!前衛が持ちこたえる隙に、矢の雨を食らわせてやれッ!全弓兵構え!…………ってぇぇぇ!!!」
大隊指揮官の檄で士気は上々、更に先手として弓兵の矢を降り注がせる。人数の差から言っても、今は間違いなくパラメキア軍の有利である。しかし…………
「ッ!駄目です!騎兵隊の動きを止められませんッ!」
観測をしている兵から、容易に想定出来た事態か起きていた。先手で放った矢は、まだ距離があることもあった敵を止める決定打などにはならない。更に言えば、敵の指揮官はそれを利用し…………
矢の雨を避けつつ、レギブス騎兵隊は数を減らしながらも進み続ける。中でも、速度も出せ指揮をも行う大隊指揮官は、中間から先頭へと移動し、仲間を先導し
「敵の矢は所詮、我々との正面衝突を恐れて逃げた戦い方だッ!我らに崩せぬ牙城はなし、このまま敵を食いちぎってやれッ!!!」
『うおぉぉぉおおぉぉぉ!!!!』
先制した攻撃を避けれることを精神を保つ事実にし、大隊は更に速度を上げてパラメキアに突撃をしてゆく。その速度により、遂には近距離故の、弓の射程範囲から逃れ、後は前線を崩すだけというところまで迫る。
そして見る。敵が選んだ手段は、自分達を止めるに値しない戦法だと。
「全体、敵は重盾で壁をつくり、我々を物理的に止めようとしている。しかし!そんな戦法は、既に時代錯誤のものと教えてやれッ!」
レギブス騎兵隊大隊指揮官は、その手を真っ直ぐに上へと上げた。次の瞬間、騎兵隊は揃って手を前でかざし、言葉を紡ぎ始める。
『我ら敵を穿つ尖兵、その城壁を崩すこの一撃、我が力に従い応えよッ!』
緑の魔法陣が全員の手元に展開され、それは言葉と共に輝きを増していく。そして、その紡がれた言葉が終わる時、大隊指揮官は手を振り下ろし
『ウイングドランスッ!』
並では使えないとされていた中級魔法を、部隊全員が当たり前のように使用し、強大な魔法の力がパラメキアの大隊へと放たれたのであった。
どうも、作者の蒼月です。
今日は間に合いましたが、実は寝落ちして投稿時間が遅れたのはナイショ……
さてさて、本編は遂に大隊どうしのぶつかり合い。これまでの常識とは異なる、新しい時代の戦いと言えるのではないでしょうか。
また、この戦いに動員されている人の数が、あまりにも現実離れしていると思う方も多いのではないでしょうか。実際、これは現実ではあり得ませんからね。
ただ、これは文明のレベルが第一次世界大戦よりも前でありながら、やってるのは世界大戦を軽くこえる戦いですので。大陸の国が、既にほぼ二分されての最後の戦い。全員が戦闘員ではないですし、兵站としての人員も相当いますので。
まあ、戦争なんてないにこしたことはないのですが、皆未来の為に必死なのだなと思ってもらえれば
では、次も読んで頂けると幸いです。




