第二百十六話~捧げられし命~
自分達の後ろを、白い閃光が照らすのをモース達は感じた。ブラッドローズの動きは止まり、皆が振り向いた。そして見た、パラメキア軍が光に飲まれるその光景を…………。
「な、なんだぁぁぁッ!」
光から爆風が迫り、モース達は風圧に耐えながらもその眩しさに目を閉じる。何が起きたかの理解が追い付かないのが殆どだが、その光にギーブは叫び
「あの光はッ!」
「……間違いない、サファクイル基地の時と同じッ!」
バウルとギーブの二人は、その光に見覚えがあった。それは、レギブス軍と戦ったサファクイル基地での戦いで、第三防壁の城門を一撃で破壊した光……しかし、二人の記憶よりそれは強大なものになっており、桁違いの破壊を見せていた。
二人の言葉から、モースも過去に報告で聞いたものだと分かり
「これが……だが、聞いていたものよりも、威力が大きすぎるッ!」
ブラッドローズは、その光を眺めて動きを止めるしか、今は出来ることがなかった…………。
ヴァンセルトは、白い煙が舞う中でその目を開ける。静かな、音が取り残された世界。周囲に音はなく、自身の鼓動が響いてくる。それ故に、自分が生きていることを感じ
「…………皆、生きているか」
音が遅れる世界は、その声を始まりとするように音を取り戻す。周囲の煙も晴れていき、辺りの様子も見え始める。そこには、盾を構え、隊列を維持したままの第一大隊の壁、ロイヤルガードの二人と魔導部隊……そして、祈りを捧げるように座る二十二人の姿。ただ、その者達の足下には、彼らから流れている血で大地が染められ
「……ヴァンセルト卿……対処は間に合いました。部隊に被害はなし、敵の攻撃で敵の先攻してきていた部隊は壊滅状態、ここは我々の勝利かと」
リノームの何かを押し殺すかのような声に、ヴァンセルトは目を閉じ、自身の内にも沸き上がってくる感情を抑え
「あぁ、これで、暫く向こうも様子見に移るだろう……第一大隊諸君、付近に残る敵の残存部隊を排除後、速やかに本陣まで後退!暫くは、第二大隊以下第一陣に任せ、君達は休みたまえ」
『はッ!』
ヴァンセルトの命令に、第一大隊の戦士達は応え、周囲に残る僅かな…………数百人を相手に殲滅戦を行い始める。
それまで十万人の部隊、少なくとも接していただけでも数千人のレギブス兵はいたが、それが一瞬にして姿を消していた。迫った光が何をもたらしたのか、それは立っている地面を見れば一目瞭然であった。
「ヴァンセルト卿……これが、レギブスの純正魔法」
ヴァンセルトに、現状を信じれないといった風貌のリターシャが話し掛ける。その目に映る光景は……部隊が並んでいた部分を、魔導部隊の周囲を円形に残して、大地が抉れて――いや、消滅と言うのが正しいだろう。レギブス軍の陣地から一直線に、その地面ごと自分達のいる地点まであったものが消えていた。主にそれは、レギブス軍の第一陣の兵士達が…………
それが、情報にあったレギブス軍の純正魔法の攻撃なのだろう。一瞬で、距離もある陣地から陣地へ向けての攻撃。それも、相当な範囲を持つ大規模なもの。従来の術式魔法では考えれない威力に、ロイヤルガードであるリノームとリターシャも驚きを隠しきれず
「こんなものを量産されては、我々でも勝つのは至難になりますね……」
リノームの言葉はどこか暗さが滲み出て、その拳が震えていた。
確かに、レギブスの純正魔法は脅威であり、放置できるものではない。ただ、パラメキア側はそれを防いだのだ。被害もほぼなく、この前哨戦においては完勝と言っても過言ではないだろう。………………ただ、それは一般人の被害を考えなければ、の話である。
円状に並んだ魔導部隊の中心には、血を流して倒れる二十二人の者達。彼らは、この守りの為に犠牲となっていた。その者達を、リターシャは見つめ
「守りの障壁……私達も、純正魔法を使えるまで研究を進めていたことは、レギブスにとっても想定外であった……けれど、私達の技術では、今はこうするしかないのですね…………」
そう、レギブス軍の純正魔法にパラメキア軍が無傷で済んだ理由、それは同じ規模の純正魔法を使用したこと他ならない。けれど、魔導部隊だけで制御が行えるレギブス軍に比べ、パラメキア軍の魔法の技術は劣っていた。
「人間の命そのものを魔力に無理やり変えさせ、それで疑似な術式を作り出す。膨大な魔力で作られた術式ならば、ほぼ純正魔法に近い魔力を扱える…………だが、その結果がこれか…………」
人の命を消耗品として扱い、今回の純正魔法を発動させる為だけに、パラメキア側は二十二人の命を使った。これが、今のパラメキア帝国の現状であり、到底認められるものではない…………
しかし、そんなことは承知の上で、ヴァンセルトは命を使うことを命令し
「撤収するぞ、次の攻撃は遠距離からの魔法と射撃の応酬になる…………そろそろ、後方に来ている筈の市民達を前に出させる」
「「……はッ!」」
ヴァンセルトは、軍人としてあってはならない発言をする。けれど、それをリノームもリターシャも否定はせず、ただその後ろをついてゆく。
……この地獄に私と共に並んでくれること、リノーム、リターシャ、感謝する…………
この戦いで、自分の非道と言える行動に着いてきてくれる二人に、ヴァンセルトは言葉には出来ない感謝を内心で告げ、その血に染められた道を歩んでゆく…………。
彼らの背負う絶望と希望を分かる者は、既にこの世には限られる。だが、理解などされずとも、彼らはこの道を歩む他にない……ここで歩みを止めれば、託された希望は幻想と消えるのだから…………
どうも、作者の蒼月です。
今回は、あまり良いとは言えない内容でしたね……人の命を取り扱う作品として、やはり人の死を書くというのは難しいです。
私は個人的な考えとして、人の死には意味が必要だと考えているのです。事故とか老衰を除いて、ですが。やはり、この戦争で人が死ぬのも、最低限誰かの意思に殺される、誰かの正義によって殺される、これぐらいの意味は持たせるようにしています。これから、更に人の死を書くことが増えるとは思いますが、登場人物を単なる道具と考えて扱わないようにしていきます……
次からもどんどん戦いは泥沼に沈んでいくので、とっととこの章を終わらせたいですね。この章書いてる限り、セヴラン達のことかけませんからね。(あれ、主人公……)
では、次も読んで頂けると幸いです。




