第二百十二話~ブラッドローズの抱える弱さ~
開かれたパラメキアとレギブスの戦端。ロイヤルガードの先攻、レギブス側の物量作戦、それらを戦場の端から中心に向かいつつ、モース達は遠目にそれを確認していた。
敵陣に突っ込み、圧倒的な数を前に敵を蹴散らすその姿は
「化け物かよ、あれ……」
遠目でも分かる、ロイヤルガードの上記を逸脱したその強さ。それにはバウルも苦笑いし、戦いたくはないと願うが
「おそらく、あれとも戦うことになるだろうな。まあ、今は避けたいところだが」
同じく走る馬車の上で、目の前に広がる景色に同じ感想を持つモース。彼も口元を笑わせてはいるが、それは決して余裕などではないだろう。
ブラッドローズの面々は、この戦闘が始まったことで戦場付近まで来ていた。いつ、聞いていた市民らが戦闘に巻き込まれるか分からない。その対応の為にと、いつでも動けるように移動してきた訳だが、皆不安の意識が大きかった。本来の指揮官が不在で、敵は精鋭中の精鋭。市民を助けたとしても、自国の者でない故に感謝はされないだろうし、見返りもない。それでも己の信念の為に戦場に向かう彼らに、一つの情報が届く…………。
進む彼らの前に、一人の男の姿が現れる。それは、立ち寄ったパラメキアの町でモース達に情報を渡した隠密部隊員で、急いできたのかその息を荒げ
「お前ら!ここを離れろッ!」
モースらの先頭馬車の前に立ちはだかり、モースは手綱を引いて馬を急停止させる。後続の馬車も慌てて止まり、列は崩れるが何とか衝突は避けれたことに安堵するが
「おい、急に前に来られたら今度は止まれないぞ!今回は止まれたからいいものの――」
「いいから早く逃げろッ!この一帯が吹き飛ぶぞッ!」
明らかなに尋常ではない焦りに、モースは言葉を詰まらせギーブと目線を合わせ、互いに同じ思考に至ったと判断して頷き
「それは、一体どういうことです?見たところ、ロイヤルガードが進行してる様子ですが……」
ギーブは、見える戦場の様子では吹き飛ぶという言葉の意味が分からない。この状況で広範囲を吹き飛ばす何かを行えば、両軍共に被害が出る。ロイヤルガードがいるパラメキアがそんなことをするとは思えないし、大軍がいるレギブスもそんな馬鹿な真似をするとは考えたくない。だが、そんな考えたくないことだと男は頷き
「レギブス軍……と言うより七極聖天は、お前達が思ってる通りの判断を下した」
「ッ!?」
「まさかッ!」
「あぁ……レギブスはこのまま、ロイヤルガードの構える陣地を丸ごと爆発させる気だ。完成させた、純正魔法でな」
「純正魔法ッ!?」
男の口にした純正魔法という言葉に、ギーブは表情を硬直させ、その額から汗を流し始めた。また、モースも少し知識があると
「純正魔法と言えば、術式制御をしない魔法本来の力を引き出す代物。だが、あれは魔導師エメリィが完成は程遠いと……」
モースの知識では、純正魔法は魔法本来の姿を引き出す物。世界に満ちる魔力を使い、理論から外れた奇跡を起こす代物。ただ、本来それは普通の人間に扱えるものではなく、魔力の暴発で使用者が死ぬことがよくあった。それを、自身の魔力で術式という鍵で封じ、力の封じられた術式からある程度自身の望む形で力を使用する。その術式魔法を完成させたのがエメリィとマリーンの二人であり、魔法に関しては二人より詳しい者など存在しない。故に、そのエメリィが完成は程遠いと言っていたが故、モースはそれを信じがたかったが
「……もし、それが本当だとしたら……この一帯が確かに吹き飛ぶ…………」
ギーブは、魔法を扱う者として純正魔法の知識に関しては、モースよりも多い。そして、そこから予想できる魔法の規模を考えれば、男の言葉があながち嘘とも思えない。それに、たとえエメリィが完成は程遠いと言えど、もう一人の魔法の天才マリーンが、レギブスにはいるのだ。もし、マリーンがエメリィの予想を超える早さで魔法を進化させたのだとしたら、言葉通りモース達も消し炭にされかねない。そう思えるギーブは、モースに撤退を進言し
「ひとまず、ここは彼の言うとおり下がるべきかと。事実かどうかは別として、本当なら我々は全滅しかねるでしょう」
真偽を確かめたかったモースではあったが、ギーブの言葉もありここは退く判断を下すしかなく
「……全軍!レギブスの攻撃に巻き込まれる前に、一度後退する!」
進軍すると言って拠点を飛び出て、止まったかと思えば急な後退。効率に欠ける動きに、部隊の面々の精神的ストレスも溜まる。だが、それでも指示にはきちんと従い、迅速な撤退を行い始める。
そんな部隊の面々の様子を眺め、魔法の話にはまったくついていけなかったバウルは、ここまで沈黙気味だったが
……こりゃ、確かにモースは部隊全体の指揮は向いてないな~。リーナの姫さんといい、この部隊には指揮向きの奴が本当にいないんだな。
バウルは内心、このブラッドローズと言う部隊の脆弱性を見させられていた。まだまだ子供な面子で構成された部隊、どんなに特殊な力を得て個々の戦力としての価値を上げようと、軍隊として求められる力は弱い。これを改善しない限り、今後大国相手に戦えないであろうということ、そして近いうちにその壁にぶつかるのではないかと、薄々感じ一人不安を募らせるのだった…………
どうも、作者の蒼月です。
今回、久しぶりにモース達出ましたね。ただ、やってることは何をしているのか……近づいたと思ったら、危険な何かを前に下がるというフラフラとした動き。これでは、確かにリーナもモースに安心して部隊を任せれない訳だ……
まあ、実戦は本当にしてきてませんからね。戦場という動きに、(元からいた)ブラッドローズの面々は慣れてないですから。今後、少しでも成長してくれることを願います……
では、次も読んで頂けると幸いです。




