第二百五話～たどり着いた平原～
太陽も落ち始め、日暮れの頃。ラグナント平原に、睨み合うパラメキアとレギブスの軍以外の、一つの集団が姿を見せた。それは…………
「なんとか間に合ったか？……いや、かなりギリギリか」
「ギリギリでも、間に合ってしまえばこっちのものでしょう」
「報告だとパラメキアの住民が連れてこられている筈だが……戦闘が始まってないから、確認も出来ないな」
馬での全速力で戦場へと駆けつけ、パラメキア方面から現れた一団、モースらブラッドローズであった。ラグナント平原は、パラメキア、レギブス、フィオリスの三国しか面していない。……と言うより、面していた国々はパラメキアかレギブスに敗北し、併合されている。そのため、パラメキアもレギブスも、ラグナント平原かなりの広さで面している。故に、モースらはパラメキア側から現れはしたが、本陣の構える所からは遠い場所に出ていた。
戦場となるのは、広いラグナント平原でも中心部と予想されている。その外れに出たモースらは、戦闘が始まっていない為に、次の方針を決める為に各小隊ごとの将官にあたる小隊長を呼び集めた。乗ってきた台車を机に見立て、臨時の会議所として機能させ
「全員、今からの作戦について話しておく。分かってはいると思うが、我々の目的はこの戦争を止めること。その為にロイヤルガードや七極聖天と対話したかったが、ここまで部隊が展開された以上、最早それは難しいだろう。私が姫様から託されているのは、可能なら姫様達の帰還まで対話で戦闘を引き伸ばすこと。無理だった場合、戦闘に介入し、それぞれの進行を遅らすことだ。ここまで、何か質問は」
モースの確認に、一人の将官が挙手し
「モース隊長、戦闘に介入するのは問題ないですが、具体的にどうするのです？戦争を止めるというのも、姫様達が担当するので問題ないとは聞かされていますが、我々だけの戦力で出来ることは限られていますが」
その質問は、全くもってその通りであった。ブラッドローズは、いくら力を得たとしても所詮は二百ばかりの部隊。大国を相手に戦闘で勝つことは不可能であり、力で強引に戦争を終わらせれるなどとは誰も思っていない。
ブラッドローズ内で、今回の作戦の概要を知っている者は数少ない。一般の兵達にはそれらは話されておらず、小隊長で僅かに知っている程度だ。モースは、その中の数少ない一人で、大まかには概要を知っている。ただ、モースとしても無茶苦茶な指示とは分かっていながら、そう指示するしかなかった。
……そう、俺達に出来ることは限られている。しかし、それしか今は指示が出せないんだ……。
モースは、その心の内で仲間に対してどうにも出来ないと嘆くしかなかった…………。
――――――三週間前、王都地下基地――――――
「指示がない……ですか」
モースは、ブラッドローズの代表とも言えるリーナに呼び出されていた。その内容は、それまでセヴランをレギブス国境で回収するまでのことは手紙による指示があったが、それ以降の指示が来ないというもの。
ブラッドローズは、元はバーンズが送られてくる手紙によって設立させた部隊。その作戦も、全部が手紙による指示であった。けれど、唐突にそれ以降の指示がなくなり、部隊創設の目的である戦争を終わらせる、ということに関しての具体的な指示が無くなったのだ。故に、今後は自分達で作戦を立てるという話ではあったが
「そう、だから手紙の差出人を探すつもりではいるの。キルの部隊を使って、セヴランの周囲の人物も探らせたんだけど、まだ見つかってないわ。だから、今後の指示はその都度になるの。大丈夫かしら？」
「はッ！姫様の指示でなら、我々は何の問題もありません」
「そういうことじゃ……まあいいわ、よろしくね」
そんなやり取りの後、アイゼンファルツ基地で手紙の主かもしれない人物に会えるかもしれない、という話になったのだ。その為に、情報を集めるセヴラン達と一足先に戦場へ向かったモース達とで分散した。
ここでモースが言えるのは、具体的な作戦が今は無いということであった。その作戦を決める為の情報を集め、それから動く予定であった。しかし、パラメキアとレギブスの進行が想定よりもかなり早く、その暇は与えられなかった。
タイミングが悪いとしか言いようがない。今モース達が急いで戦場に来たのも、ブラッドローズの定義する力なき民が戦争に巻き込まれるからだ。しかし、その民も見えないのであれば、今すぐに動くことも出来ず
「確かに、我々に出来ることは限られている。今は姫様やセヴランがいないから、作戦の指示もない。……だが！力なき民が戦争に巻き込まれそうと言う情報もあり、大まかな指示なら与えられている。故に、今から姫様達と合流するまでは私の指示で動いてもらう。臨機応変になるだろうが、各部隊のやり取りを密にし、常に動けるようするようにッ！」
『了解ッ！』
あくまで臨時の作戦会議ということもあり、それ自体は簡単に終わりを向かえる。各小隊長は部隊へ戻り、待機の命令と共に準備を進めてゆく。その光景を眺めながら、モースは空を見上げ
……あと少しで夜だ。夜なら、本格的な戦闘は起きないだろう……リーナ様達と合流するまでの時間は、なんとか稼げそうだな。
早く部隊の指揮官であるセヴラン達と合流できることを考え、モースは少しでも気を楽にしていた…………
どうも、作者の蒼月です。
ようやくラグナント平原へとたどり着いたモース達。しかし、戦闘はまだ開始はされていなかった為、まだ余裕があると安堵する彼ら。しかし、戦場では常識だけでは語れないことがある……彼らを、これまでの常識を覆す数々の戦いが襲いかかる。
と、次回予告風味で……
では、次も読んで頂けると幸いです。
