第二百四話~軍事国家の内情~
戦闘の舞台であるラグナント平原。その西側、パラメキア軍と対峙するレギブス軍も相手同様に陣地を構築し、戦闘の準備を進めていた。が、その進捗度は思うようには進まず、各場所では怒号で指示を飛ばす上級兵達の姿が見えた。
「そこッ!とっとと手を動かせッ!」
「貴様何を休んでいるッ!こっちに来いッ!」
「ここで手を抜くようなことがあれば、家族の命はないと思えよッ!」
軍事国家レギブス、その国民のほぼ全てに兵役義務を負わせ、前線でなくとも軍の指揮下で全てを管理される。故に、この前線にも、民兵同様の実力しかない者も多く溢れ、士気も特別高いとは言えなかった。それでも、ここにいる者は皆、食料や安全を手に入れる為に必死であった。だからこそ、練度が低かろうと、士気が低かろうと、戦いから逃げようとはしない。
そんなレギブス軍全体を、冷ややかな目で見下す者があり
「………………」
それは、レギブス軍総指揮官であり、同時に七極聖天の長であるハインケルであった。彼は、陣地内に建てられた見張り台の屋根の上に立ち、眼下に広がる陣地内全ての様子を見ていた。だが、それで何かをするわけでもなく、ただ見ていた。
そんな何をするでもない時間中、彼の耳に声が響き
「ハインケル、作戦会議の時間よ~そろそろ戻ってください」
ハインケルがいる場所は見張り台の屋根、周囲に人がいるわけがなく、声が聞こえるのは普通あり得ない。しかし、彼は当たり前のように返事をし
「分かった、すぐに戻る……」
誰もいない虚空へと話し掛けると、ハインケルは跳躍し、陣地奥の作戦指令本部のテントへと向かった…………。
高所からの跳躍、常人なら死んでもおかしくない行為。しかし、ハインケルは躊躇うことなく飛び、そして簡単に着地をする。着地の際、一瞬ハインケルの落ちる速度が落ち、あるべき衝撃が生まれない。それを、基地内で繰り返す為、何も知らない下級兵は唖然とし
「あれ、総指揮官のハインケル様ですよね。一体、どうしたらあんな飛び方……」
まだ若いその兵は、ほぼ見ることもないハインケルことなど当然知らない。その疑問に、近くの先輩の兵は
「お前は知らないのか。確か、ここ最近は魔導師マリーンの進めている飛行魔法の研究を重視してるとかなんとか。ありゃ、それの一種だろうな」
「へぇ~流石は、若干八歳にして、このレギブス軍を乗っ取っただけのことはありますね。やること為すこと、俺達じゃ理解出来ないものっす」
若いその兵は、ハインケルの過去を少しばかり口にする。その言葉通り、レギブス軍はハインケルに一度乗っ取っられているのだ。それが今のレギブス軍の始まりであり
「あぁ、あの若いもんのおかげで、俺達はまともな軍に戻れたんだ。かなり過激だが、それでも前までよりはよっぽど救いがあるからな…………」
先輩の兵は、既に歳もそこそこの中年である。故に、ハインケルに軍が乗っ取られる以前を知っており、地獄を思い出す。
レギブスは、昔からの軍事国家である。それは、特別変わってはいない……。けれど、ハインケルが軍の頂点に立つ以前のレギブスは、誰も生を望まない地獄の国であった。
「軍上層部は、数少ない民の資源を食い潰す。どれだけ民が飢えようと死のうと、あいつらには関係なかった…………軍内部には賄賂が応酬、自分の懐の為なら、どんなことでもやりやがった…………」
「俺も知ってるっす。俺達みたいな貧しい連中は、少しでも逆らえば殺される……しかも、関係なかろうと憂さ晴らしや見せしめでも殺される…………そのせいで、父さんは死んだらしいですし」
若い兵士は、自身の肉親が時代に殺されたのだ。その怒りは何処にぶつけていいかも分からず、ただ殺されないように祈るしかない時代…………そしてそこに現れたのが、ハインケルであった。
「だからこそ、大将はすげぇ。あの腐ってた軍上層部の連中全員、関係していた千人に近い連中をたった一人で皆殺しにしちまいやがった。しかも、兵役義務こそ与えられたが、結果さえ出せれば食料や安全を保証してくれるときた……他国の連中からしたら、頭がおかしいって思われるのかもしれねぇが、どうしようもねぇ地獄から解放されたんだ。俺達は、望んで戦うわな」
若き兵士と中年の兵士、それぞれ見てきた道は違う。だが、同じ国に生きる者、進む道は似たようなものだ。二人とも、ハインケルという国を救った英雄に、着いていく覚悟は出来ていた。だからこそ、レギブスは戦線を拡大し、様々な国を併合しても生活を保証できる体制から、なんとか国を保っていた。そんな行為の積み重ねが、誰も敵うことのないと言われた、帝国パラメキアと並ぶ国が誕生した理由だったのだ。
そんな会話も終わらせ、そろそろ作業に戻ろうと中年兵が先に切り出し
「さて、俺らもとっとと手を動かさねぇと、あのクソみたいな上級兵にどやされるぜ~」
「うっす!そういや、結局作戦ってどうなるんすかね~俺、結局まだ配置決められてないんすよね~」
「まあ、どうせお前はまた俺の部隊だろうよ。…………そういや確か、どっかの部隊がフィオリス進行で、何かとんでもねぇ物を使ったとか言ってたっけな。お前、何か知ってるか?」
「知らないっすね~あ!でも、今回は七極聖天が揃ってるんだから、ドデカイ魔法でも使うんじゃないっすか?ほら、前にどっかの国の城門を吹き飛ばしたアレ」
「あぁ、アレか。確かに、今回は総力戦だもんなぁ~上級兵の連中も躍起になるだろうし、すげぇ戦いになりそうだな」
「自分達も生き残って、早く安全な生活を送りたいっすねッ!」
「違いねぇ」
レギブスの兵達は、自分達の国の為には戦わない。彼らは、自分達の為に戦うのだ。
彼らもパラメキアとの戦いに備え、最後の準備を整えてゆくのであった…………
新年初日から投稿していくスタイル、作者の蒼月です。
さあ、今年はこの作品「氷結の騎士は民を背に」の完結に向けて頑張りたいです。
今までにも何回か書いたかと思いますが、この作品は時系列で言えば2番目、全4部作です。裏では、それらの設定もそれなりには詰め、この作品の完成後には書きたいと思っております(まあ、本当にエタらず、最後まで書けるかも分かりませんが)
まずは、この作品を最後まで完成させて、物語をさいごまで見届けたいです。
今年も、一年間よろしくお願い致しますm(__)m
では、次も読んで頂けると幸いです。




