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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第一章~模擬戦~
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第七話 ~模擬戦~2

「何なんだよ……あれ…………」


 シンの言葉はその場にいた者達の気持ちを表していた。セヴラン達新兵の中では、バウルはかなり強い部類に入るであろう。そのバウルがいとも簡単に敗れ、突撃の流れが途切れてしまい、皆の士気が下がる。


「あんな連中に勝つとか……無謀なこと考えてたな…………」


「そんなことはないだろ、ここまでは予想通りだ」


 新兵の中で唯一この状況を予想していたセヴランは臆することなく答える。


「予想通りって、あんな化け物って知ってたのかよ!」


「知りはしなかったさ、ただ方面軍の隊長ともなればそれ相応の実力なのは予想がつくだろう?」


 セヴランはシンに、当たり前と言わんばかりに冷たい口調で答える。


 ……まあ、ここまでとは想像してなかったが


 シンには冷静を装いながらも内心ではセヴランも僅かに動揺していた。既に新兵の中の最高レベルの戦力を失っており、ここから仲間との協力で戦うという選択肢も現実味を欠いていた。


 ……もう少し実力が分からない限り動くに動けないな……。これはまだ使うには早いしな…………


 セヴランは僅かに視線を落とし左右の腰に携えた剣に手をかける。新兵は誰もが動けずにいたが、カーリーが剣を抜き


「さあ、そろそろ次の試合をしたいものだな」


 カーリーの挑発にはじめは誰もが反応しなかったが


「残念だ、先程のような試合がまだ続くと思っていたのだが、どうやら他の者は腰抜けしかおらんようだな」

 あからさまな挑発にしびれを切らし、新たに四人が前へ進み


「いいでしょう、我々がお相手をさしてもらいましょう」


「そうでなくては、期待しているよ」



「なあ、あいつら剣じゃなくてなんか棒みたいなのもってるけど、あれはなんだ?」


「あれは魔術師だな」


 シンは新しいことを発見した子供のように目を輝かせ


「おぉ!あれが魔術師か、初めての見たぜ」


 魔術師、それは魔力と呼ばれるエネルギーを用い火、水、風、土などの自然の力を操り戦闘に用いる者。

 剣士が人を一人殺す間に十人は殺すことのできる効率の良さや、攻城戦などの大規模な破壊力を必要とする場合に一人で行えるなど軍事では欠かすことの出来ない存在。

 しかし、魔力を扱うことができるのは生まれもった力ゆえ、魔術師の数はとても少なく、たとえ魔術師になれたとしても魔力を失えば戦力にならず、一人で戦況を覆すほどの力を持つ者は限られてくる。


 ……四人全員が魔術師か、かなり優秀な連中だな


 セヴランは剣の柄に置いた手をおろし、魔術師四人に視線を向ける。

 魔術師は軍での教育を受けたとしても基礎の魔法を使えるようになるまでに早くて一月、長ければ半年はかかる。そんな魔術師が十代という若さで四人も集まっている。並の努力ではこの数は揃わない。

 その優秀な魔術師四人が周囲に聞こえない声で何かを呟き始め、二度目の戦いが始まった。



「あいつら何をしてんだ?」


 シンは不思議な顔をセヴランに向ける。


「術式を詠唱してるんだろ」


「術式?」


「あぁ、お前は知らないのか。分かりやすく説明すると、魔法を使うには合言葉と鍵みたいなのが必要なんだ。それが詠唱と術式。魔法にはそれぞれの術式があるから、その術式を使うのに必要な詠唱をすれば術式が発動して魔法が発現するんだ」


 シンは唸り、理解に苦しんでおり


「まあ例外はあるが、今回は口で説明するより見た方が早いだろう」


 セヴランがカーリーらを指差しシンが視線を戻す。四人の足元に光の円と読むことは出来ない文字列、魔法陣が現れ


「火の精霊よ、 火の塊となりて、敵を貫け!」


 四人が叫ぶと同時に掲げられた杖からいくつもの火の玉が現れ、カーリー達に向かって飛ばされる。カーリー達は対応しら分散しそれぞれ回避行動を取る。


「すげぇ!カーリー隊長達を押してるじゃないか!」


 シンは少し落ち着きがない状態だが、魔法を初めての見るのであれば多少興奮するのも理解できる。しかし、セヴランは冷静に


「あれは基礎的な初級魔法のファイアボールだ、あんなのじゃただの時間稼ぎにもならないな。それでも習得にはかなりの修行がいる代物だが」


 セヴランの言葉は現実となりカーリー達は回避を止め、自ら魔法に突撃する。


 四人も負けじと、二人が新たな詠唱を始め


「風の精霊よ、風の壁となりて、我らを護りたまえ!」


 風の基礎魔法の応用魔法フェードウィング、目に見えるほどの風が集まり大気の壁が作られる。カーリー達の突撃は壁に阻まれ、動きが止まり僅な隙が生まれる。好機とし、四人がかりでファイアボールを放つが、即座にカーリー達はバックステップで距離を離しつつ回避をする。

 四人はファイアボールが当たらないことを確認すると、何か会話を始める。周囲からは何も聞き取れないが、作戦を練り直していることが伝わる。僅か数十秒ほどの会話を終えると、一人が詠唱を始め、他の三人がファイアボールを放ち始める。カーリー達は難なく回避をし、ファイアボールが当たる兆しは見えない。当てる気がないのか、一見無駄に見える行為にその場の何人かが疑問を持ち始める。そのうちの一人のセヴランは


「あいつら、ここで勝負を決めにいく気だな……」


「それってどういうことだ?」


「魔法ってのはなにも万能なものじゃない、魔法を使うための魔力は体の中にはほとんどないから、戦闘が長引けば長引くほど使える魔法は弱くなって戦いはじり貧になるんだ。だから、基本的に魔術師の戦いは一撃で決める短期決戦か、前衛の剣士達を援護する補助役なんだ。それに……」


「それに?」


 セヴランは僅かに躊躇い、言葉を続けるかを迷うが


「魔法ってのはどういうものなのか、分からないことが多すぎるんだ。今あいつらが使ってる基礎の魔法もここ十年ほどでようやく確立されたものらしいからな。それまでは、魔法の暴発や侵食による死に方も珍しくなかったとか」


「そんな物騒なものをあいつら使ってんのかよ!」


 シンは今までより大きなをあげる。魔法という知識が多少なりともあれば驚くことではないが、初めて知れば誰でも驚くことだ。目の前で同じ年頃の仲間がその魔法を使っているのであれば尚更であろう。セヴランはシンを落ち着けるために言葉を続け


「そこまでしてでも勝たないといけないのがこの国の現状なんだ、そもそも長い間平和だったから魔法なんてものを研究しようなんて物好きはいなかったんだろ。魔法の研究なんてしてたのはレギブスぐらいなもんだろ」


 事実、軍事国家レギブス以外は魔法の研究をしておらず、各国は今現在も研究を急いでいる。帝国パラメキアでさえ魔法の分野ではレギブスに劣っているのだ。


「でも、そんな魔法も使って俺達は人を殺さないといけないのかよ……」


 シンは視線を落とし、表情を曇らす。この場にいる皆、誰も人を殺したくて軍に入ったような人間はいないだろう。

 ここ数年、フィオリス王国はパラメキアとレギブスの侵略行動で多くの民間人が殺されている。それを目の当たりにし、この現状を変えたい、大切な人を守りたい、そういった思いで入隊する若者がここ数年ではほとんどだ。シンもおそらくそういった思いがあるのだろう、故に人を殺すことをまだ受け入れることが出来ていない。他の者もまた同じだろう。だからこそ、セヴランはシンに


「だからこそだろ、俺達がこんな時代を終わらせるために戦うんだろ」


「そう……だよな。俺達が変えていかないとな」


「そろそろ、向こうも終わりそうだな」


 魔術師四人の詠唱が終わり、新たな動きが生まれた。



 三人がファイアボールの牽制とフェードウィングによる足止めの時間稼ぎをし、一人の魔法の詠唱の援護をする。カーリー達はただ回避に徹し、攻撃に移る気を見せない。

 詠唱をしていた男の足元に魔法陣が出現し


「火の精霊よ、何者をも燃やしつくす灼熱の炎をもってして、盟約の下我に力を与えたまえ!」


 カーリーの足元に新しく巨大な魔法陣が出現する。出現と同時に魔法陣が熱の渦を作り、中央から爆発する。


「衝撃に備えろ!!」


 セヴランが叫び、状況を理解できていなかった者もそれぞれ防御姿勢を取る。爆発で生まれた爆風が周囲に尋常ではない衝撃波を生み、周囲の者は吹き飛ばされる。セヴランの叫びで防御姿勢がとれたことが幸をなし、幸い重症を負う者はいない。


「はぁはぁはぁ…………」


 魔術師四人は魔力を使いきり、立つこともままならずその場に経垂れ込む。爆風で舞い上がった砂煙でカーリー達の様子は見えない。広間は永遠の静寂に包まれたかのような空気だった。その刹那は永遠だったのか、それとも刹那の時だったのか。広間に新たな音が生まれる。


「その年で中級魔法、それも実戦で使える力量とは、今年は本当に優秀な人材が多いな」


 砂煙の中から音を立て現れる影____砂や灰で汚れはしているものの、無傷のカーリー達の姿がそこにはあった。



 そこからは新兵側の敗北の連続だった。先の二組ほどの連携や練度を持つ者がそうそういるはずもなく、カーリー達にかすり傷一つ負わせることなく皆敗北を重ね…………遂に、セヴラン、シン、アレイ、リョナの四人が残った。

このあたりは一回あたりの文字数が多くなり、読みづらい文章となり申し訳ありませんm(__)m

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