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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第二百二話~戦場へ向け~

「まさか、パラメキアが非武装の住民を……」


「そんな事、これまではなかったぞ」


 青年から聞いた情報は、これまでのパラメキア帝国としては考えれないことを行っていた。パラメキア帝国は、軍の市民の線引きをしっかりと取る。ほぼ全ての国民に戦わせるレギブスと違い、あくまで志願した者が訓練を積み、長い時間を掛けて軍に入るというもの。それゆえに、集まっている者達の士気は高く、個々の技量も高い。そんな帝国軍が、訓練も何もしていない市民を戦場に連れていくなど考えられなかった。しかし、驚きを隠せないモースとギーブに、青年は更なる情報を重ね


「信じれないって顔だな、だが事実だ。既に、パラメキアは部隊を展開済みだ。仲間からの連絡が正しければ、レギブスも部隊を展開したって話だ。ここから分かることは――」


「もう戦闘が始まるってことかよ!」


 青年が何を言いたいのかを、バウルが先に言葉にする。それを、モースとギーブも互いに状況が悪いと判断し


「もう始まってしまうのか……くそっ、本格的に戦闘が始まる前にロイヤルガードや七極聖天の連中と話し合う時間を作れればよかったが…………」


「それは、もとから難しいって予想だったでしょう。モースが気にする必要はないですよ」


「だが、もう戦闘に介入するしかなくなったのも事実だ……この戦争を放置は出来ない。俺達が止めなければ、霧に飲まれるより先に、人間同士で全滅しかねない。行くしかないな」


 モースは覚悟を決め、周囲で武装の確認や戦闘の用意を各自行っていた部隊全体に号令を出す。


「ブラッドローズ各自に告げる!今、この街で住民がいないのは、既に内地へと移動したとのことだ。だか、さっきの戦闘でも見たように、一般の市民が武装し、更には非武装の住民も一部が戦場へ連れていかれているという話だ!」


 モースらが何かをしていても、それが終わるまで待っていた者達。ようやく伝えられた言葉に、どんな内容かとその言葉を聞くと表情を固まらせ


「パラメキアが、非武装の住民を……」

「レギブスよりはマシな連中かと思ってたが、奴らも同じか…………」

「民を何だと思っている……人間は、単なる消耗品じゃないんだぞ……」


 ブラッドローズの隊員達は、それぞれモースと同じ様にパラメキアが市民を戦場に出したことを驚く者や、そもそもパラメキアに抱いていた恨みを顕にする者、反応は様々であった。だが、共通して言えたのが、全員この後に続くであろうモースの言葉を待っていると言う点であり


「この街の調査は、このまま隠密部隊に任せる。我々は、ラグナント平原へとリーナ様達より一足先に向かい、少しでもパラメキア民を守る為に行動する!全部隊、移動の準備をッ!」


『はッ!』


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、モースの号令でそれまで行っていた行動を全て中断し、部隊は即座に移動の準備へと移った。


 部隊が準備をするのを確認すると、モースは再び青年へと向き直り


「すまなかった、本来は指揮系統が違うところを協力してもらって」


「……ありゃ、協力って言うよりは脅迫ってもんだと思うが、まあいいか。それよりそこの……バウルだったか?お前、どうして俺がキル隊長に情報を上げていないって分かった。俺は、そこに関してはかなり注意してた筈なんだが」


 青年は、自分の秘匿していた情報がとこから漏れたのかを気にし、それで脅迫をしてきたバウルに苦笑気味に聞いた。バウルも、それを隠すつもりはないと


「あれは偶然だな」


「偶然?」


「あぁ、本当に隠してるなんてな。ただ、前にもキルやお前らが情報を持ってても聞かなきゃ話してくれねぇって、セヴランが王都の基地でぼやいてたことがあったからよ。もしかしたらお前もそうなんじゃないかなってな」


「…………つまり、当てずっぽう……だったのか?」


「そうだぜ、引っ掛かってくれたら儲けもん程度に考えてたが、思わぬ収穫だったぜ~」


 まさかの衝撃の事実に、青年は信じたくないと表情をひきつらせ、自分が嵌められたと気が付かされたのだった。そこからは、少し自分の技量の甘さを反省し、気持ちをすぐに持ち直させ


「成る程、キル隊長みたいになるにはまだまだ道は長そうだ……今回のことはいい経験になったよ。――それじゃあ、俺はそろそろ自分の任務に戻るが、もういいか?」


「あぁ、時間を取らせてすまなかったな」


「それじゃあ、リーナ様の期待を裏切らないように、頑張ってくれよ」


 青年はフードをきちんと被り直し、そのままパラメキアの内地方面へと跳躍して行った。モースらもこれを見送ると、自分達の馬車へと乗り込み


「よし、各部隊戦闘用意!このまま、一気にラグナント平原へと駆け抜けるぞッ!」


『おぉぉおおぉぉぉ!!!!』


 鳴き声と共に、馬は馬車を引いて駆け始める。静寂だった街に音を作ったモースらは、最後の音としてブラッドローズの隊員達の叫びと馬の足音の余韻を残してゆく。

 その足音はどんどんと小さくなり、誰も居なくなった街には、再び何もない静寂が訪れた…………

どうも、作者の蒼月です。

さあさあ、これでようやくラグナント平原へと話が移ります。同時に、この大国同士の戦争のお話にもなります。

セヴラン達としては、戦っても得ることがなく、民を無駄に死なせる戦争を止めたい。そして、それぞれの思惑で戦争へと踏み切ったパラメキアとレギブス。それぞれの想いが交差する戦場、そこに迫るイクスの影……

彼らが戦う先にあるものとは


では、次も読んで頂けると幸いです。

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