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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第二百一話~知り得た状況~

 ギーブの魔法により拘束され、モースら三人に囲まれて地に伏せさせられる隠密部隊員。その男も、ブラッドローズの基本通り同じ年頃の若い青年であり、それまでモース達が不気味がっていたのが不思議に思えた。


「……貴様ら……何のつもりだ…………」


 倒された青年は、拘束され体が動かないことを確認すると、そのローブの内から瞳だけを向けて三人へと敵意の視線を送った。

 そうなるのも仕方ない、今の状況は、全く指揮系統の違う部隊の人間を、強制的に魔法で拘束した上で仕事をしろなどとほざいたのだ。傍目から見れば、モース達の頭がおかしいように思えるだろう。それを分かってはいるため、モースは気が引けたが、これを提案したバウルに任せたからには口は出せなかった。


「いや、ち~と協力して欲しいだけなんだ。こうやって同じ部隊なわけだし、話ぐらいは聞いてくれねぇか?」


 バウルは似合わない笑みを浮かべながら、しゃがみ混み顔を近付けて協力を頼んだ。

 そんなことで彼らが動く筈がない、モースのそんな気持ちは的中し、青年は吐き捨てるように


「黙れ、何故貴様に命令されなければならない。我々の上官はキル隊長だ。こんなことをされて、協力などできるか」


 青年の言葉はもっともであった。モースも理解している正論を並べられ、とても反論する余地はないように思えた。しかし、バウルはその笑みを浮かべたまま


「そりゃあ、こうやって手荒な真似をしたのは悪いなぁ。けど、こうでもしねぇとお前ら捕まえれねぇしな。まあ……協力ってのは簡単な話だ。どうせここら辺の情報――この街に関してなんかもあるだろ?それを、俺らにも聞かせて欲しいってだけだ」


「は?何を言っている。それを命令する権利はお前には――」


「上官に情報を隠したままなのを、報告されてえか?」


「ッ!?」


 唐突にバウルが口にした言葉に、青年は驚愕から表情を固まらせた。その内容は、モースは今までに一切聞いたことがなく、事実だとしたら決して無視できる内容ではなく


「バウル、それはどういう…………」


 事実が気になり、バウルに問い掛けようとするが、それにバウルが答えることはなく


「知ってるだろうが、俺もギーブも特別遊撃隊上がりだ。現総指揮官のセヴランに言えば、簡単にキルに話が伝わるだろうぜ」


「………………」


 一体何を隠しているのか、それはモースには分からなかったが、確実に言えることはバウルが脅迫じみたことをしているという点であった。それが良いか悪いかの判断は出来ず、ただその会話を聞きつつ


 ……彼らが、一体何を隠すと言うんだ。変わり者でこそあるが、あのキル殿には忠実だった筈。何故、彼らが隠し事など……それに、それを何故バウルが知っている。


 気になることはますます増え、青年がどう反応するかは特に興味を示した。

 青年は悩んでいるのか、その表情に変化こそ見せずにだが、どこか手の動きが震えているようであった。隠しているという何かを知られたからなのか、はたまた全く別の理由なのか。それは分からないが、そんな青年に判断を急かすように


「さぁ、はやく決めた方がいいんじゃねぇのか?こっちも時間がおしてんだ」


 バウルに煽られるように、決断を迫られる青年。彼は、それまで崩さなかった表情を遂に歪ませ、苦渋の判断をするかのように視線を落とし


「分かった、情報は渡そう…………」


 仕方ないとため息を吐き、観念するように降参の言葉を口にした。これで、ようやく情報が手に入ることとなり、問題の解決に近付いたことにモースも喜びの気持ちが強くなり


「バウル、お前凄いな。一体、どこでそれだけの情報を?」


 舞い上がる気持ちを抑えつつも、気になることが次々と心の内から質問は湧き出て来る。その質問をバウルに向けたが、バウルはモース少し待ってくれと言うと、ギーブへと視線で合図を送り


「やっと解放ですね。私も、ここまで維持をするのは疲れましたよ」


 バウルから何かを視線で受け取ったギーブは、疲れからその場に座り込んだ。そして同時、青年を拘束していた魔法が解除されたのだ。


「「!?」」


 何故、ここで青年の拘束を解くのか。モース、そして青年には分からなかった。バウルとギーブが何を考えているのか、理解に苦しみながら青年は立ち上がり


「おい、お前」


「ん、俺か?」


 青年に呼ばれたのはバウルで、バウルもそれを理解した。


「そうだ。お前、何故拘束を解かした。俺が逃げ出すとは思わなかったのか」


 モースも抱えた疑問を、ストレートにバウルにぶつける。青年の言う通り、ここで拘束を解いて逃げられる可能性はある。もともと強引に捉えたのに、何故ここにきて自由を与えるのかが分からなかったのだ。

 バウルはその質問に特に意味はないと答え


「だって、俺達は同じ目的の為に戦う仲間だぜ?捕まえる為には少し強引なことをしたが、協力してくれる約束さえ貰えたら問題なかったしな。まあ、脅しみたいな感じだったが、あれぐらいしねぇとお前ら話してくれねぇし」


 バウルは、何もおかしいことはしてないと言う風であり、青年とモースにはやはり理解が出来ない。始めは合理的な手段を取ったかと思えば、次には非合理的な手段を取る。この一貫性が何を示すのかは、この場ではギーブしか分からず


「バウルは、あんま深いこと考えてませんよ。どうせ、始めは情報聞く為に捕まえたけど、あとは成り行きで話を聞き出そうとしただけでしょうし」


 ギーブは何処か呆れ気味に、バウルの考えを困惑している二人に説明する。その答えは、確かに簡単なものであり、聞くと本当に深いことは無く


「ふっ……お前達は……いや、ブラッドローズの連中はどいつも変わってるな。俺が言えた義理じゃないが……」


 青年は、自分とは全く違う人間であるバウルの考えに笑わされ、自分のいる部隊が悪いものではないと思っていた。そんな仲間と協力しないというのも、確かにおかしな話であるとも分かってはいた。故に、今回は隠密としての心ではなく、一人のブラッドローズの兵士として三人に顔を向け


「そうだな……約束は守ろう、情報が欲しいんだったな。この街のことでいいのか?」


「あぁ、まずはそれから聞かせてくれ」


 青年の確認に、モースは間違いないと返答する。そして、青年は多少穏やかになっていた表情を元の無表情へと戻し


「これは、まだキル隊長にも上げるか悩んでた情報だが……パラメキア帝国は、近々何か巨大な作戦を行うらしい。その下積みとして、帝国側へ向けて住民を避難させ、志願したものは兵士として戦力に加わった。そしてその志願兵だが、彼らには何処から持ってきたのかは分からないが、最新鋭の銃を装備させられている…………後気になるのは、非武装の住民も何故かラグナント平原へ連れていかれたことだな」


 隠密部隊の青年から語られた情報は有益なものばかりであった。ただ、その中には見逃せないものがあり


「非武装の住民が、戦場に…………」


 ブラッドローズの信念として、ラグナント平原へ急ぐ必要が増えたのだった…………

どうも、作者の蒼月です。

思ったより今回は長くなってしまいました。まあ、話を次に進める起点ができたのでよかったですが。

力無き民を守る。それを信念とするブラッドローズにとって、非武装の住民が戦場に連れていかれるというのはとても見逃せません。犠牲は悲しみを生み、負の連鎖を作り出す。それを防ぐためにも、彼らは戦場へと急ぐのです……


では、次も読んで頂けると幸いです。

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