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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第百九十八話~消えた住人~

 様々な考察を交えていたモースら三人は会話を一旦止め、近付いた街へと警戒を向けていた。街には、警備目的の帝国兵が部隊単位で駐屯している可能性もある。故に、常識的に考えれば迂回するのが普通だが…………


「このまま突破するしかないな……各小隊、銃装隊は射撃用意を、街に入ってからは白兵戦に備えて接近戦の心構えを」


 モースは後ろに控えていた部隊に手で合図を出し、部隊内に緊張が走る。

 街道上に設けられた街……と言うより、元は小国の街をパラメキアが手中に収めた街。街道の休憩点、交易場所の一つとも言える街。簡単な防壁は存在するが、検問も城門もなく出入りは簡単。ラグナント平原に向かうなら、ここを抜けれれば大きな時間短縮に繋がるのだ。吹き抜け的な作り故に、モース達はここを通り抜けようと考え、遂に街の入り口部分へと進んだ。

 そして、入った直後にその違和感はブラッドローズの面々全員の心の中で大きいものとなった。


「……静か過ぎる……それに、人の気配もねぇ…………」


 真っ先に言葉を口にしたのはバウルであった。対人での戦いにおいて、魔法による身体強化をしない数少ない面子の中で、最も実力と経験を持つバウルは、街から人の気配を一切感じないことに気付いた。直後、バウルと同じ特別遊撃隊だった面々も同じことに気付いたようで、辺りの家などの様子を確認していた。


「人がいない……そんなことがあり得るのでしょうか」


「だがバウルの言う通り、人が居るにしては静か過ぎる。一体、パラメキアに何が…………」


 街の入り口から見渡す限り、誰一人姿が見えない。人が活動するような音は一切なく、あるのは精々家々の間を吹き抜ける風の音ぐらいなものであった。更に、バウルと何十人かの兵は人の気配さえないとの発言、モースはここを単に通り抜けるかどうかを悩み


「……人がいない理由はなんだ……パラメキアは、一体何を行っているんだ」


「戦争が始まったから、単なる避難……なんてことはあり得ないでしょう。そもそも、ここも戦争で得た領地な訳ですし」


 モースもギーブも、街から人が消えた理由を考えるが、それらしい答えを見つけれない。唯一言えることは、現状駐屯しているパラメキア軍に襲撃を受ける可能性はほぼ消え、目先の安全は確保された。


「よし、このまま警戒を継続しつつ、街の中央まで急ぐぞ!そこで、先行偵察の部隊と合流し、今後の行動を指示する!」


『はッ!』


 今は、少しでも先を急ぐことが重要だと考え、モースは先で待つ仲間の元へと急ぐ号令を掛けた…………。






「……こりゃあ、どうなってんだ…………」


「バウル隊長に報告しに戻るか。俺達の仕事は、この状況を伝えることだしな」


「そ、そうだな…………」


 先行偵察に出ていた兵士は、街中のある家の中でやり取りをしていた。兵士達は家の中の様子に困惑し、調査を行っていたのだ。ただ、その困惑したことをまとめて判断するのは自分達の領分ではないと、そのもぬけの殻となった家を後にした…………。






 そんな両者は少しの後に、予定されていた街の中央広間に集合し、静かな街に唯一の音を鳴らす者達が集った。

 二百人を超える部隊は、広間で馬車を並べると小隊ごとにまとまり、各小隊長が中央部分で臨時の作戦会議が開いていた。そこには、小隊長以外にも先行偵察部隊の姿もあり、集まった情報の共有を行おうというものであった。その会議の代表は当然全部隊長に当たるモースであり、手際よく話を開始した。


「偵察ご苦労、まずはこの街の情報を聞きたい。何か、変わったことはあったか」


「はっ、街についてですが、御覧のとおりもぬけの殻ですね。現在、人の姿は一人も確認されていません」


「バウルの言う通り、誰もいないわけか……成る程、街について何か他には」


 モースに更なる情報と言われ、二人の兵士が手を上げる。彼らは、直前まで家の中などを調べていた者達であり、自分達の情報が最も全員に必要と判断して二人は前へと踊り出たのだった。


「各家の中を調査していましたが、家の中ももぬけの殻でありました」


「そりゃあ、人が居なけりゃ――」


 報告の内容に、言葉を重ねるバウルであったが、そのバウルの言葉は更に被せてきたもう一人の言葉で止められ


「文字通り、もぬけの殻でした。家財、食料、金品の類、例外なくどこも持ち出されていました。慌てて持ち出したと言うよりは、前々から既に持ち出されていた可能性が高いです。人が長い間生活していないのは、埃などの痕跡から間違いないかと」


 出てきた情報は、想定を軽く超える内容であり、多くの者達が衝撃を受けた。だが、情報はそれだけではなかった。更に、別の兵士が手を上げ


「パラメキア軍の駐屯基地を見ましたが、馬や装備類、何も跡はありませんでした。他にも、この街の連絡用の早馬も含め、全ての馬車は無かったです」


 続けられた情報も、決して見過ごすことの出来ないものであり、この街――更に大きく言えば、パラメキアに何か動きがある。早く戦場へ向かうべきモース達ではあったが、これだけの情報を前に無視という判断は難しく


「……これらのことから察するに、この街の住人は既に前々から姿を消している。馬がいないことから、どこかへ行ったと考えるのが妥当だろうが、それがどこかは分からない…………更に、ここに来る途中で見たあの市民達。何故、単なる市民達が銃などという武器を大量に保有していたのか。考えるべきことは山程あるな」


 モース達ブラッドローズは、この戦争の主役の国であるパラメキアのその動向に、徐々に疑問を大きくしてゆく。戦場へと近付くにつれ、彼らは様々なパラメキアの謎の動きを知り、この戦争に更に深く関わっていくこととなる…………

どうも、作者の蒼月です。

さあさあ、どんどん謎が増えたいくモース達。元から、ある程度手紙で様々な事を知っていたバーンズ達に対し、彼らはこの戦争の事など深いことは分からないので、パラメキアの動きは謎に見えます(セヴラン達も知っているとは言っていない)。

どんどんと、モース達も知識が増えていきますねぇ……


では、次も読んで頂けると幸いです。

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