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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第百九十四話~必要なこと~

 守られた馬達は何事もなかったと馬車を引いて走り、十台程の列はそれまでどうりに移動する。けれど台車の上では、ブラッドローズの面々が走る台車から台車に飛び移る行為などを繰り返し、落ち着いた空気は失われていた。中でも、その先頭部分にいるモース達は疲れを見せ


「まったく……あんな大量の銃を民に持たせるなんて、パラメキアは何を考えてやがる」


「さぁ?ですが、魔法でレギブスに遅れをとっているパラメキアが、軍事的に遅れをとっていないという事実は分かりましたね」


 バウルは台車の縁にもたれ掛かりながら、銃弾が掠れた箇所をギーブに見せていた。移動している部隊の中には、無論救護の部隊も存在する。しかし、今は部隊の後方にいるために、わざわざその程度のことで移動するというのも無駄な話であった。故に、正規の救護兵でこそないが、最低限の治療の心得があるギーブに見せ、ギーブも会話を行いながらも確認をする。ギーブはすぐに確認を終え、傷も問題ないと判断し


「この程度、貴方なら大丈夫でしょ。無駄に頑丈ですし」


「んだと、喧嘩売ってんのか!」


「…………フッ」


「この野郎ッ!」


 ギーブのちょっとした言葉に、バウルはいつもの喧嘩腰になり口論になろうとするが


「まったく、お前らって奴は……どれだけ仲が悪いんだ」


 既に何度も見たやり取り。そして、自分自身もギーブと何回かの口論をしたことから、モースはこの光景に慣れてきていた。

 それまでの経験から、ギーブは余計な一言で人をよく怒らせていた。おそらく、本人にそんなつもりはないのだろうが、それがギーブの性格を表していた。だがそれでも、ギーブとバウルの喧嘩の回数は他の人間との比ではなく、戦闘と普段の差に困惑は隠せなかった。


 ……普段はこんなに喧嘩ばかりで、どうして戦闘になればあんな風に信頼し合えるんだ……


 モースが理解出来ず、知りたかったのはその関係であった。大量の銃を見せた相手に対し、モースは咄嗟に仲間への指示は出せた。それが自分の仕事であり、任されたこと故にそれを第一としたからだ。けれど、誰かに指示をされず、自らが指示を考えるというのは初めてであり、思考は完全に固まってしまっていた。自分自身がどう動くかを判断出来ず、バウル達が動かなければ自分の乗る馬車の馬をやられていた可能性が高かった。

 しかし、バウルとギーブは元から何かの作戦があった訳でもないのに、一瞬にして、それも僅かなやり取りで意志疎通してあの場を切り抜けたのだ。それをどうすれば出来るのか、自分に足りないのは仲間との信頼関係ではないのか、モースにそう考えさせるに足りる事柄であり


「お前達は、どうしてそんなに仲が悪いのに、あれだけの戦いが出来る?それが、戦場で学べるというものなのか?」


 モースは疑問を疑問で放置は出来ず、目の前の二人へと問う。だが、唐突に向けられた質問に二人は目を点にし、何を聞かれているのか分からないと顔を見合わせる。


「なぁモース、そりゃあどういうことだ?別に、さっき特別なことをした訳でもないだろう?」


 と、モースの質問にバウルは本当に分からないと返したのだった。それが単にバウルが馬鹿なだけということも普段ならあり得るが、ギーブもそれに同調して頷き


「あの時出来ることをしただけですから。貴方も、充分な指示は出したじゃないですか」


 二人はモースが何もしていないと自分を責めてでもいるのかと、モースのことを誉めるような言葉を送った。けれど、モースの考えはそうではなく


「それは当たり前のことだ。私が任され、やるべきことだったからな……私が知りたいのは、どうしたらお前達のように戦場で迷いなく、そして仲間に全てを信頼を寄せれるのだ。私は、それを知りたい…………」


 モースは、自分がリーナに実力を認められていないことを理解している。自分達が力を得ても、英雄には及ばない。それを教えられ、セヴランにバウルやギーブ、実戦を得た者達が部隊に来たのだ。

 自分達では、リーナ姫の求める力にはなれない。それを悔しく思い、もっと成長したいとは考えていた。けれど、その為に必要なものが何なのかを、モースはこれまでずっと考え、ようやくその答えが目の前に表れたのだ。故に、今のモースは部隊の隊長としてではなく、一人の兵士として答えを求めたのだ。


 表情を暗くしてゆくモースの姿に、バウルとギーブはそれでも分からなかった。何故ならばモースが考える程、二人は特別な力があるわけでも、知恵があるわけでもないのだから。

 二人はただ、これまで経験した戦いからお互いの長所を知っている。そして、苦手なことも知っている。だから、自分の苦手なことを得意な仲間に任せているだけである。ただ、それだけなのである。

 それを知らないモースに、何を伝えるかを簡単には思い付かない。けれど、それしか伝えれないのも確かであり、二人は揃ってモースに口元を笑わせて


「考え過ぎたな」


「ですね」


 二人に笑われ、モースは多少苛つきを見せるが、すぐに何かを知れるいい機会とも考え


「笑ってないで教えてくれないか?私も……いや、俺も真面目に悩んでるんだからさ」


 モースは、自分が変わらなければいけないことは分かっていた。これまで部隊の隊長という役柄から、決して同じぐらいの年であるバウル達とも口調さえ崩さなかった。

 けれど、今こそ変わる必要があるのだと、少しの変化を見せた。そして、そのほんの小さな変わる勇気は、バウルとギーブとの関係にも変化を及ぼし


「お、モースもだいぶ軟らかくなったじゃねえか~」


「って、ちょ、止めろ!止めろバウル!」


「バウル、他の人が合わせたからと、そうやってすぐに調子に乗らないで下さい」


 笑顔のバウルに肩を組まれ、それまでどこか遠かった距離が近まった感覚を、モースは覚えた。そして、これまでは単なる口喧嘩に見えたバウルとギーブのやり取りも、少し違った様子で目に映った気がした。

 モースも、徐々に打ち解けてゆく。そして、これは必要なことなのだ。バウルやギーブも、そうやって戦場を共に戦い抜いた仲間になったのだから。三人は次の作戦の話などもしつつ、少しばかりの軽口を挟みながら馬車で揺られて行ったのだった…………

どうも、作者の蒼月です。

今回、不器用で頭の少しかたいモースさんのお話でした。彼、とっても真面目なんですよね。本当に、一直線な程に。

ブラッドローズとして、一人の兵士として、これまで実戦が無かった彼は、仲間のことを知ろうとする機会が少なかったです。あくまで、仲間とは任務を共にする者。その程度の認識でした。

それが、バウルとギーブのような奇妙な、けれど確かな関係を見て、自分に必要なものが彼らから学べるのでは、とそういったお話でした。


今回のお話、正直自分で納得のできる書き方じゃないんです。しかし、書きたいと思っても、なかなか思うような文章が書けませんでした……自分の中の文章の引き出しを、もっともっと増やしたいと個人的に思う回でもありました(頑張らないとです)


では、次も読んで頂けると幸いです。

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