第百九十一話~道の先に見えし者達~
明けない夜はなく、行軍を開始したモース達ブラッドローズは、上り始めた陽に照らされていた。夜通し続けられた最速の行軍により、既に目的地までの道のりの三割を進み、パラメキア領内を馬車で駆けていた。
先頭のから二番目の馬車に、モースやバウル、ギーブの姿はあった。彼らは交代交代で軽い睡眠を取り、いつでもパラメキア側から襲撃されても問題ないように警戒態勢に移行しようとしていた。
モースは、台車上から手で合図を後方の馬車へと送り、連鎖するように最後尾へと伝わる。合図を出し終えた彼らは深呼吸を行い
「ここからが正念場か……」
別に誰かに言う為ではなかった。単にこれは、自身に言い聞かせる為のものであった。けれども、それに両側に並ぶバウルとギーブの二人が同調し
「パラメキアの兵士どもとは戦ったことがねぇが、相手は正規軍だからな。レギブスの正規軍と戦った経験上、無駄に正面からはぶつかれねぇ」
「そこを抜けるこの作戦……私達の指揮にかかってますね」
二人の言葉は、内容だけみれば不安を駆り立てるものだった。けれど、その言葉を告げる表情は生き生きとし、言葉程不安は感じられなかった。
実戦を前に、どうしてそこまで不安を見せないのか。二人の様子に、モースは分からないと思いつつ、警戒を続けた。
……それが、実戦から得られるものってやつなのか。
モース達ブラッドローズには、セヴラン達にはない課題があった。それは、ここまで徹底的に情報を秘匿してきたが故に足りない実戦経験であった。実力はあれど、それは実戦に通ずるかは怪しい。セヴランやリーナ達指揮官は、国の中でも高い実力を持っている。バウルやギーブの特別遊撃隊は、セヴラン達と戦場を生き延びた兵士達である。ならば、モース達もそれに遅れを取る訳にはいかない。それが、ブラッドローズとして最低限求められることなのだから。
実戦を前に、モースは使命感と不安に心が包まれていた。そしてそれは、モース以外の多くもそうであった。そんな想いを抱えながらも、彼らは止まることなく進み続け…………
「報告!前方に、パラメキア帝国民とおぼしき集団が」
馬で速度を出し続けるモース達の台車に、先行偵察の報告に兵士が戻ってきたのだ。兵士は、台車の横に足を掛け、不安定ながらもへばりつく様にしながら、更なる報告を続ける。
「皆、多くの荷物を抱えて……まるで移民のようです。進行速度からも、このままではぶつかるかと」
報告に、モースとギーブは頭を悩ませるのだった。しかし、兵士を待たせる訳にもいかず、モースは即座に予定していた作戦の内の一つを取り出し
「よし、分かった。お前はそのまま偵察を行ってくれ。作戦を変更する場合は、他の者を連絡に回す」
「了解!」
モースの指示に、兵士は即座に台車から飛び降り、そのまま加速しつつ偵察へと戻っていった。
そんな兵士の背を見送り、即座に話し合いに移った。
「何故こんな時間に……それに、大量の領民が移動するなど。パラメキアの情勢を考えるならば、領地を棄てるなんてことはあり得ないだろうに」
モースは、いましがた伝えられた情報から、何が起こっているのかを想像する。パラメキア帝国は小国を併合しつつ、それを領地として扱っている。故に、国王こそなくなれど領主として権限も与えられ、比較的自由な統治が行えていた。しかし、あくまで領地は領地。帝国は併合された国と元からの帝国民を線引きし、一領民はその領地でしか生活を許されない。なら、何故この戦争が行われる際に移動などしているのか、その疑問は大きなものであった。
そして、ギーブもモース同様に疑問を持ち
「何故、ここを移動しているのかも不思議です。私達は、帝国側に気付かれるのを遅らせる為に、この村や町を避ける道を移動している。なのに、こんな国境沿いもいいとこを移動しているとは…………」
現状、ブラッドローズが進んでいるのは、パラメキア領内の中でもフィオリス王国との国境沿いと言っても過言ではない道である。いくらフィオリス王国がパラメキアに攻撃をしないとは言えど、戦力もない民間人が国境に近寄るなど危険極まりない。パラメキア帝国内の事情が、モースとギーブはそれまでの知識からは測れないことを理解し
「どのみち、我々は帝国民相手に戦うことはしない。武器を取り戦いを挑んでくるなら話は別だが、進路を変える必要はないか」
「えぇ、でしょうね。そもそも、場合によっては私達が保護する必要さえあります…………パラメキア帝国が何を目指しているのか、気になるところです」
指揮官として、作戦開始前の衝突など嘘のように、二人は意見を出し合う。そして、戦場へと急ぎながらも、障害物となるかもしれないパラメキア帝国民の存在を考慮し、モースは台車の上で立ち上がると後続の部隊に振り向く。
「各部隊へ伝達!この先に、パラメキア帝国民が移動をしているようだ。彼らに関しては、絶対に攻撃を加えるな。ただ、護送の兵士に襲われる場合や、その者達に攻撃される場合は、最低限の迎撃で駆け抜ける。各小隊長は、警戒態勢から戦闘態勢へ移行。どんな状況にも対処できるよう、気を引き締めろッ!」
『はッ!』
モースの号令に、部隊内に緊張が走る。そして、少しした後に、報告にあった集団が視界に見えてくるのであった…………
どうも、作者の蒼月です。
移動をするモース達ですが、早速きた問題ですね。敵国を移動してる訳ですから、いつ襲われても仕方ないですが、ブラッドローズは力なき民には危害は加えない。今の状況ですと、いつ奇襲されるか分からない、かなり危険なのです。さて、モース達はそれを切り抜けれるのかどうか……
それとまた確認はあるのですが、彼らが戦場に向かう理由は、帝国パラメキアと軍事国家レギブスの戦争を止める為です。しかし、セヴラン達がいなくとも、先に戦場にたどり着いて、必要なら戦闘を行うこと。これが、今のモース達に与えられた任務です。
これだけ覚えてもらえたら、暫くは問題ないかと
では、次も読んで頂けると幸いです。




