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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第七章~始まりの地へと収束する運命~
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第百八十四話~想定を越えし事態~

 沈む赤き太陽と、沈まぬ白き太陽。あるはずのない二つ目の太陽は、この世界から闇を奪い、戦場を照らしていた…………。


 何が起きているかは分からない。しかし、セヴラン達に悠長に考える時間は残されていない。周囲に、謎の爆発が連鎖し、エメリィの魔法で防いでるとはいえ、いつ風の壁が破られてもおかしくはなかった。

 時間が残されていないことを考慮し、沈む太陽に視線を向け


 ……太陽が向こうに沈む……なら、南はこっちか。


 太陽が二つ存在すると言えど、時間から考えて本来の太陽は沈む側であると判断する。無論、それが確定事項でないのは分かっていたが、少なくとも、むやみやたらに移動をするよりかはよっぽど論理的である。故にセヴランは、ここがソフィアの言葉通りラグナント平原と仮定し、自身のフィオリス王国側である南を指差し


「ひとまず走れ!キルの連絡が通じ次第、そこへ進路を変える!今はここを離れるんだッ!」


 セヴランの、爆音の中でも確実に耳へと届く号令に、リーナ達は揃って首を縦に振る。そして、一行は南へと全力で走り始める。




 爆発の雨は止まず、セヴラン達の周囲の大地はひたすらに抉られる。その爆発は、どれもが正確にセヴラン達を狙い、エメリィの風の壁がなければ木っ端微塵だったであろう。仲間の支援に感謝をしつつ、セヴランは戦場を駆け抜け――――


「ん……」


 流れゆくその光景に、一つの疑問を得た。


 ……死体がない。それに、血の跡も殆どない。これはどうなってるんだ?


 視界の中に飛び込んで来るのは、死体一つ見当たらない平原であった。幾らかの血の痕跡こそ見えれど、何処にも死体が見当たらないのだ。更に、死体どころか人の姿もなく、そこが本当に戦場なのかも疑問に感じれた。


「リーナ!人の死体が見当たらないが、お前の目には何か見えないかッ!」


 爆発はいまだ続き、轟音の中で声が掻き消されないよう、全力で叫びリーナへと疑問を問う。

 セヴランの疑問に、リーナはその瞳を赤く光らせて、身体強化の魔法を発動させる。その強化された視界で、リーナは暫く周囲を見渡し


「駄目ね!何も見えないわ!でも、向こうに幾らかの剣なんかの装備品が見えるわ!ただ、捨てられたようだけどねッ!」


「本当か!やっぱ、俺の魔法と違って、身体強化は便利だな!」


「そんなことは、ないと思うけど!」


 セヴラン同様、リーナも声を張って質問に答える。そして、セヴランには分からなかった点にリーナは気付き、一つの情報が増えたのだった。


 ……あっちはパラメキア方面か……パラメキアの正規兵が、装備を捨てるなんてよっぽどだな。


 リーナが装備を見たのは、視線から考えてパラメキア方面であった。その事実だけでは、セヴランの中で問題解決には至らなかったが、少なくとも謎の爆発、二つ目の太陽の他にも奇妙な事があると理解し


 ……これ以上、厄介な敵はごめんなんだがな。


 セヴランは内心、イクスよりも厄介な存在がいるとは考えたくなく、この現状を理解したくないという気持ちも少なからずあった。

 しかし、そんな多少ゆとりを持ったセヴランに、次なる問題が牙を剥く。


「――ッ、しまったッ!」


 爆発の雨、その轟音の中に響いたのは、エメリィの焦りを感じさせる叫びであった。声に反応し、セヴランは一瞬走る速度が落ち、振り向く。だが、それが間違った判断であったこと、ミスであったことに、セヴランは振り向いた瞬間に理解するのであった。


「――――――ッ!」


 振り向いたセヴランの視界に飛び込んだのは、薄い赤色の光の玉であった。それが何なのか、正体は知らない。けれども、この現状で空から降ってくる光の玉などと言えば、今後どういう結果になるか想像に難くない。


 ……これが、爆発の正体!避け――


 しかし、セヴランの思考こそ追い付けど、体はそれに追い付かない…………当然のことであった。セヴランは今、無駄に魔力を消耗しない為に、加速する場である銀世界を展開していない。バーンズ達と足並みを揃えるためにも、セヴランとリーナの二人だけが加速しても意味がないという判断であった。

 だが、それが仇となった。セヴランは振り向いたことにより、速度が殺された。更に、銀世界による加速が出来ない為、無理な駆動による回避が行えない。

 思考速度は回転を重ね、視界の動く速度が遅くなってゆく。けれども、そこに迫る光の玉。それは爆発の前兆なのか、少しずつ膨らみながら光を溢れさせ


 ……くそッ!


 最期の抵抗と、無駄ながらもしゃがむ様に体勢を落とした。爆発から少しでも離れれば、生き残れる可能性が上がると賭け。

 ――――――だがそんな偶然の判断は、セヴランに幸運の女神が微笑み掛ける奇跡を起こした。


「その体勢でいなさいッ!」


 次の瞬間、リーナの言葉と同時にセヴランは身に強烈な衝撃を受けた。何が起きたのかと、セヴランは自身の体に受けた衝撃を確認し…………そこには、全力で体当たりをかましたリーナがいた。

 体当たりを受けたセヴランは吹き飛ばされるが、それまでセヴランがいた場所で起きた爆発の難からは逃れられた。

 吹き飛ばされたことで、一度は体を地面に打ち付けるが、その反動で浮き上がったところで体勢を立て直し、土煙をあげながらセヴランは大地を滑った。


「…………はぁ……はぁ……助かった。ありがとう、リーナ」


「あら、こんな下らないことで死なないでよ~まだまだ仕事はこれからなんだから」


「……あぁ、そうだな」


 リーナは、その赤い瞳の状態で、セヴランににやけるように笑みを浮かべていた。セヴランは、リーナの余裕の表情から、どうして助かったかを理解する。


「さっき、お前に身体強化を使わせといて正解だったな……まさか、こんな形で命を助けられるとは」


「まったくね、偶然ってすごいわ」


 そう、リーナは身体強化の魔法を発動させていた。彼女であれば、あの一瞬でセヴランを助け出すのは容易だったのだ。セヴランの、単なる情報収集の為の指示が、こうして自身の命を救ったのだ。だが、幸運の女神は、更にセヴランへと微笑む。


 様子が変わったのはキルであった。それまで、黙々と通信機で部隊の仲間へと連絡をとろうと呼び掛けていたが、遂に言葉を発したのだった。


「……応答しろ、キルだ。誰か、返事を出来る奴は――」


『――キルさ――ですか!?よかった、無事で』


 キルの通信に、ようやく一人の兵士が反応した。声からして、おそらくキルの諜報部隊の者なのは分かるが、誰なのかまではキル以外には特定出来ない。故に、全員は再び駆け始めながら、キルの会話に耳を傾け


「……時間がない、要件だけ伝える。今、お前達の部隊は具体的にどこにいる」


 爆音のせいか、それとも通信機の不調なのか、音は途切れ途切れになるものの、ようやくその声が鮮明に全員の耳へと届いた。


『我々ですか?我々は、現在ロイヤルガードの部隊と共に、山脈付近の国境線まで後退しております』


「――――ッ! 」


 そうして返ってきた答えは、セヴラン達に更なる混乱を招くには充分過ぎることは明白であった…………

どうも、作者の蒼月です。

さーて、なんとか仲間がいる場所を知れたセヴラン達。しかし、まさかの敵の大将格といるという知らせ。一体、何がどうなってロイヤルガードと共にいるのか。次回、仲間と合流を果たし、そしてその次か、更にその次には次章かと。

そこから、セヴラン達がディルムンクと話を終え、ここに辿り着くまでのもう一つの視点からのお話になるかと思います。ここから、ロイヤルガードや七極聖天のお話も増えていきます。是非、楽しんでもらえたら(戦闘メインの章です!)


では、次も読んで頂けると幸いです。

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