第百八十話~立ち塞がるは止まりし者~
セヴランの目覚め、それが運んだ結果は大きなものだった。それまで考えもしなかった問題をセヴランに与え、他の者には理解することの重要性を与えたのだ。そしてそれは皆の行動として表れ、セヴランの周囲には皆が集まる。セヴランの無事を喜び、少しながらも互いに踏み込もうと話が進む。しかし、変わる皆を否定するように、現実は動くのだった…………。
セヴランが起き上がってからつかの間、洞窟が大きく揺れたのだ。
「な、なんだ!」
突然の揺れに、セヴラン達は伏せるように体勢を作り、倒れないよう気を入れる。その揺れは大きく、洞窟内の壁の表面がパラパラと落ち始める。皹こそ入りはしないが、洞窟が崩れ落ちないかと不安になる程度には揺れが大きかった。
しかし、それはすぐにピタッと止み、再び静けさが洞窟内に帰ってくる。
「……地震か?」
「……にしても、揺れが大きかったわよ」
セヴランは揺れから地震かとも思うが、リーナの言う通り揺れが大き過ぎるのだ。更に、地震とするには不可解な点があり
「地震だとしても、こんなにすぐにはおさまらねぇだろ。まるで…………」
「……この洞窟に、何か攻撃が加えられた可能性…………」
バーンズとキルは、それぞれが同じ結論を弾き出す。しかし、それが事実だとして、それが何なのか、何故攻撃されたのか、セヴラン達には知るよしもない。疑問と警戒で戦闘態勢を保ち、何が起きてもいいようにと心構えをする。
だが、その警戒の中でディルムンクは立ち上がり天井を見上げ、セヴラン達が知り得ないことを把握していた。
「……奴に気付かれたか……間に合わなかったな…………」
「貴方のせいでしょ……と言いたいけど、これは必要なことだったわけだし、仕方ないわ。彼は、私より何倍も優秀だもの」
立ち上がるディルムンクに、並ぶソフィア。二人は揃って武器を取り、 何かに対して戦意を見せていた。
二人の真意を、そして状況を理解出来ないセヴランは、事実確認の為にディルムンクへと声を掛ける。
「師匠……これは、一体何が」
「セヴラン…………」
セヴランの質問に、ディルムンクは何かを迷うように口ごもらせた。それが、何を隠して、何を伝えないようとしているのかはセヴランには分からない。けれど、僅かな間ではあったが、少し考えた末にディルムンクは口を開き
「いいかセヴラン、よく聞け。お前さんは昔、リーナを失った心でも希望を忘れなかった。そして、その心がこの世界を救う鍵となる。今の儂には、多くは語れない……その事実を知るには早すぎるのだ。叶うならば、お前を来るべき日まで見守りたかったが、その時間は残されていない。……これまで、お前には多くを教えた。儂の持ち得る全ての力と技術の全てを渡した。故に、これが最後の贈り物じゃ……」
言葉と共に、ディルムンクが差し出したのは一つの結晶であった。その結晶は、他の物よりも透き通り、内からほのかな光を放っていた。
「これは?」
「……儂の、想いそのものじゃ…………」
「………………?」
ディルムンクが伝えようとするその言葉は、まだセヴランには伝わらない。それを、セヴラン自身も理解しようと頭を悩ませるが、ディルムンクは我が子を見るかのように微笑み
「大丈夫、今は分からずともよい。その結晶は、必ずお前を守るじゃろう……それに、これまでお前は希望を持ち続けた。その心さえあれば、心配することはない」
優しく、懐かしさを覚えるその声。ディルムンクの語りは、セヴランに最大限の慈しみを持って接した表れであった。
そして、遂にその時は来た…………。
爆発、洞窟内最奥であるこの広間に通じる入り口の通路に大きな穴が……抉り取られた様な空間に書き換えられた。そこに、一つの影と共に…………。
「……ようやく見つけた。これまで上手く逃げ隠れていたようだが、ソフィアにあの規模の魔法を使わせたのはミスだな。あれだけの精霊の動きがあれば、ここを見つけるのは容易だ…………」
現れたのは、忘れたくても忘れられない悪夢。黒きローブに、這わせる黒き影……アイゼンファルツ基地で一度は刃を交えた存在。
「イクスッ!」
セヴランの叫びに、それまで気づいていなかった物に気付くように視線を向け、そしてゴミを見る目で概括し
「……揃いに揃って、ここに隠れていたのか……まあいい、どのみち貴様らにはここで消えてもらう」
イクスは、冷たく響く声で吐き捨て、自らの周囲に歪んだ空間を創造する。それが、常識はずれな技であり、空間歪曲などというふざけたものであることを、ロイヤルガードの会話から聞き及んでいるセヴラン達は剣を抜き………………しかし
「貴方達は戦わなくていいわ。ここは、彼の場所よ」
セヴラン達の前でソフィアは手で制し、戦うことを止めさせた。代わりに、セヴラン達の先頭へとディルムンクが躍り出
「久し振りじゃのぉ、イクスよ……儂らの希望、ここで潰えさせはせんぞ」
これまでの、セヴラン達では誰も出すことが出来ないであろう覇気。ロイヤルガードに匹敵……いや、それを越える闘志を、ディルムンクは己の剣と共に、イクスへと向けた。
どうも、作者の蒼月です。
またまたやって来たイクス。行く先々、そして様々な場所に出現するイクスという存在……彼が何を思って行動するのか、それはまだセヴラン達は知り得ません。
しかし、セヴラン達を守る為に、ロイヤルガードのヴァンセルトが現最強と吟われる前まで、最強の名を冠していたディルムンクが立ち塞がりました。
ディルムンクも謎大き者ですが、彼らの戦いは次回にて……
では、次も読んで頂けると幸いです。




