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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第七章~始まりの地へと収束する運命~
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第百七十九話~帰る仲間、そして居場所~

 ソフィアは、淡々とエメリィの疑問に返答した。だが、それは魔法を研究していた者にとって、一つの事実を突き付けられ


「古代の魔法って……そんなの、あり得る訳…………」


「エメリィ?」


 リーナは、エメリィの表情に驚愕が、そして同時にある筈がないと否定に表情を苦悶に歪み始めた。何故、エメリィが古代の魔法に過剰に反応するのかは分からない。けれど、一つ気になる点は


 ……確か、今使ってる回復なんかの超級魔法は、昔の言葉で術式を編んでるって言っていた。研究を進めて、どうにか魔力を使えるように、制御方法を探して……。


 リーナは自身の記憶の中から、普段は必要としない魔法についてを思い返す。この世界において、魔法は強大な力を持つ。けれども、その力の大きさ故に使い勝手は良いとは言えず、術式による制御を研究してきた。これは、レギブスでエメリィと七極聖天のマリーン、二代魔導師が研究によって編み出した成果である。しかし、そのエメリィが驚くということは、ソフィアの言う古代の魔法という物がどれだけ規格外な物なのかと、リーナは想像することしか出来なかった。




 こと、魔導に関しては天才のエメリィ。だが、幾つもの超級魔法を操り、大陸に名を馳せる魔導師のエメリィにも、魔法という技術は危険が付きまとい、また謎が多すぎるものであった。

 そのエメリィが、ソフィアの発言をあり得ないと否定した理由は、たった一つ……


 ……あの莫大過ぎる魔法を使えば、間違いなく術者は死ぬ。その為に、これまで術式制御で使える技術に変えて、研究してきたって言うのに……もし使える人間がいるとしたら、私達の魔法の理論は全部無駄ってことになるじゃない…………。


 エメリィは、これまでの自身の力を魔法に使ってきた。そして、過去にはマリーンと共に、新たなる魔法技術として術式制御を確立させた。


 人に魔法は扱いきれず、御するしかない。


 だが、その根幹を揺るがしかねないソフィアの発言は、エメリィにとっては認めたくないと思わざるを得なかったのだ。




 複雑な想いが絡み合う中、それを知ってか知らずか、ソフィアはエメリィへに話し掛け


「いい、これから見せる力は希望の欠片。けど同時に、貴方達を更なる過酷な運命へと導く……貴方は、その魔法の力で皆を守ってあげなさい」


「…………意味が分からないわよ…………」


 ソフィアは、幾度となく伝わらない言葉で想いを伝える。しかし、それが今の最適なのだと知るが故に、それ以上を語らない。そして、遂にソフィアは動く


「……生命の伊吹を、その力を貸して頂戴……」


 杖をセヴランへと向け、瞳は虚空へ向けられ、言葉はそこに見えない何かへと語られる。――――そして、想いは紡がれ事象として体現する、


 洞窟内に、光が溢れる。周囲に並ぶ結晶の数々が輝き始める。そして、そこに子供のような――小さい、幾つもの笑い声が響いた。

 異常な現象に、リーナ、エメリィ、キル、そして生気が抜けたように脱力していたバーンズも何事かと警戒し


「こ、こりゃ……」


「これが、古代の魔法……?」


 バーンズの警戒の言葉、エメリィの自身に言い聞かせる為の言葉。それぞれが他の者の耳に伝わるまでの一瞬で、更に変化が訪れる。


「さぁ、帰ってきなさいセヴラン。貴方に、生命の祝福を」


 ソフィアが言葉を手向けると、それに答えるように笑い声はセヴランの名を呼び始めた。更に、それに反応してなのか、周囲に光の玉が、小さな光が浮かび始める。結晶は色とりどりの輝きを強め、洞窟内を幻想的な光景に染め上げた。


「……これが、魔法の持つ輝き…………」


 リーナの呟き、それは全員の気持ちを端的に表していた。光が浮かぶ光景、色で飾る結晶達、心に安らぎを与える子供の笑い声。それらは、まるでおとぎ話の楽園のようなものであった。


 そして、全員を虜にする光達は、その全てがセヴランへと集約し始める。それまでの、エメリィの回復魔法とは比べ物にならない程、温かく、強い光を纏わせた。

 光に包まれたセヴランは、目に見えていたそれまでの傷がなかったかのように塞がり、貫く刃も何もなかったかの如く抜け落ち、その傷はたちまち治ってゆく。


 あり得ない、そう言いたくなるには充分な光景だろう。だが、あり得ないなどと言えども、現実は現実。セヴランの傷は治り、全てが元に戻ったのだ。そして、閉じられていたセヴランの瞳に力がこもり…………


「……ん……ここ、は…………」


 死の縁を渡ったセヴランは、この世界へと帰って来たのだ。


「……ッ!――セヴランッ!」


 リーナは、目尻に涙を溜め、それでも泣かないようにと堪えていた。だが、セヴランが助かったことにその我慢は決壊し、飛び付くようにして泣きながら抱きしめたのだった。

 飛んできたリーナに体当たりをされるような形で、セヴランは体勢を崩して後ろに倒れ込む。自身が何故助かったのか、その理由と状況に困惑しつつも、セヴランは泣きじゃくるリーナの頭を撫で


「これ、一体どういう状況なんだ――って言うか、なんか凄く既視感が…………」


 セヴランは、ついさっきも同じような状況を体験したことを思い出し、自身が皆に迷惑を掛けたのだろうと理解する。

 周囲を見れば、セヴランには様々な視線が向けられており


「……馬鹿野郎。俺の過去聞いといて、こんなところで死ぬなんて許さねぇよ…………」


「ん?あ、あぁ」


 リーナに続いて、セヴランへと声を掛けたのはキルであった。それまで、殆ど喋る機会もなく、キルから話し掛けてくるなど無かった為にセヴランは面食らうが、差し出された手を取って立ち上がり、キルの言葉が続けられる。


「……ここは、ブラッドローズは……俺の、俺達の居場所だ。……けど、俺はバーンズに何も出来なかった。こうして、居場所が無くなりかけた…………だが、お前のお陰で、俺はまたここにいられる……こんなに無理をさせたが、バーンズを止めてくれてありがとう…………」


「お、おう。キルからそんな事言われるなんてな」


「……確かに、柄ではないな…………」


 キルは、セヴランに感謝を告げた。それまで、人と関わることを避け、感情を見せることの無かったキルがだ。しかし、今のセヴランには、皆には分かる。キルは、このブラッドローズという居場所を、言葉にせずとも大切に思っていたのだ。それを、ここに来てからの全員の想いのすれ違いの数々が、ブラッドローズを壊しかねなかった。しかし、セヴランはバーンズを止めたことで守ったのだった。少なくとも、全員の足踏みを整える切っ掛けは作ったのだ。キルはその事に感謝し、セヴランに言葉を贈ったのだった。

 その隠密の表情は、フードと口元を隠され一目では分からない。しかし、その目は確かに、初めて笑みを見せていた。


 キルとの会話が終わり、次に並んだのはバーンズだ。その表情は、間違いなくこれまでで最も弱々しかった。そして、バーンズは細い声を出し


「セヴラン……すまなかった…………こんなつもりじゃ、なかったんだ…………」


 バーンズの言葉に、最早生気をセヴランは感じれない。その理由も、バーンズが自分自身を責めているからなのだろう。バーンズは豪快なところはあるが、如何なる時でも人一倍真面目な人間だった。少なくとも、この一ヶ月程でそれは充分に理解していた。だからこそ、バーンズの気持ちを察しながら、セヴランは伝えるべきことを口にする。


「いいんだバーンズ、謝らないでくれ。むしろ、これは俺に気付かせてくれたんだ」


「………………?」


 バーンズはセヴランが何を言っているかを分からず、思わず首を傾げた。セヴランはそんなバーンズに笑みを向け


「俺さ、これまで民を守ることだけを考えてきた。師匠に拾われて力をつけて、これまでその状況ごとに問題に挑んできた。……だから、バーンズ達のことを深く知ろうとしてなかった。バーンズが何を抱えているのか、キルの過去なんかも知らなかったんだ。でも、それじゃ駄目だって気付かされた…………俺達は、供に戦う仲間なんだ。確かに、ここにいる理由は皆違うかもしれない。けど、目指す場所は同じだから、ここにいると思うんだ。だから、もっと全員のことを知って、俺達よりも強大な敵と戦わないといけないんだ。……だから、これはいい機会なんだ。皆で互いを知り合って、それぞれを理解する為の…………俺達が理解し合えないのに、この戦争を終わらせるなんて無理だろうからな」


 セヴランは、ここに来てから沢山のことを思い知らされた。自身の敵、仲間の抱える問題を知らなかったこと、自分が流されていたことを。だから、それはここで終わりにすると誓うのだ。誰でもない、自分自身の心に…………。

 バーンズも、セヴランの言葉に感化され、その言葉に俯きつつも頷いた。そして、すぐに今までの生気溢れる表情を見せ


「確かに、お前さんの言う通りだ。俺様は、ディルムンク将軍の指摘通り、弱くなっていたんだな……どんなことだろうと、成し遂げなければならない。その重みに潰されて、仲間を頼れなかった、信用出来ていなかったんだ…………人が一人で出来ることなんて、たかが知れてるのにな」


 その表情は、どこか吹っ切れたようなものがあり、バーンズの中にも変化があったのだろう。まだ、セヴランにはそれを確かめる術はない。しかし、セヴランは決意を固めた表情で


「あぁ、俺達は弱い。だから仲間を頼るし、協力するんだ。ブラッドローズは民を守る為に戦争を終わらす……その為には、人との理解が必要なんだ。だから、俺達は変わらないとな」


 セヴランは、今後の目標は大きくは変わらないと考える。しかし、その道はそれまでよりも、より鮮明に見えてきた。この戦争を終わらす為に、どうするべきなのかが…………。


 人は変わる、より良き未来を求めて。

 人は変わる、過去から学ぶから。

 人は変わる、自分一人では無理でも、誰かが影響を与えてくれるから。




 そして、変わる者と対峙するのは、いつの時代も変わらない者なのだ…………

どうも、作者の蒼月です。

今回、かなりいい感じに進んだかと。セヴランも帰ってき、仲間とも少しながら理解し合えました。もちろん、彼らはまだまだ変わるでしょう。どれだけ時間を掛けようとも、求める理想の為に変化するのです。


そして、それがどんな未来を作るのか、それを知る者はまだいないものなのです…………


さてさて、そろそろこの章も終了致します。彼らは新しい希望を手にしましたが、そこには絶望もまたついて回るのです。そんな彼らの今後を、見守って貰えたらと思います。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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