第百六十八話~理解し難き者と言葉~
「想いの力……ですか?」
竜の血、それに次いで出た謎の言葉に、セヴランは繰り返すように想いという言葉を溢す。正直なところ、セヴランにはディルムンクの言葉の真意の殆どは理解出来ない。たとえ意味が分かったとしても、それは難題ばかりであった。今回は前者にあたり、この言葉が何を意味するかは理解出来ず
……想いの力って、願うだけで力になるなら苦労しないだろう……
セヴランは内心、ディルムンクの発言に小馬鹿にするように笑う。だが、ディルムンクは理解し難いことこそ言えど、決して無意味なことは言ったことが無かった。それを知っているが故、この発言をただの戯れ言とは切り捨てることはしなかった。
そんな内心で次の言葉を待つセヴランに、ディルムンクの言葉は続けられ
「想いの力とは、この世界を覆う力のことじゃ。全ては想いから成り、全ての者がそれを持ち合わせる。その想いは強ければ強い程力となり、果ては運命にまで干渉しかねない程大きくなる。分かるかの?」
「………………」
セヴランは、ただ黙り込む。それは、ディルムンクの言葉の意味が、まったくもって理解出来ないからだ。竜の血、というものについての話をしていたにも関わらず、展開される話の内容は想いの力について。唐突に飛ぶ話の内容に、セヴランの頭は頭痛を起こしそうな程であった。
……何だ、師匠は一体何を言っているんだ?想いの力?運命に干渉って、一体何の話をしているんだよ……
ディルムンクとしては、竜の血についての説明をしているのだろう。だがしかし、それが他人に理解できるとは限らず、現にセヴランもまったくといっていい程理解出来ていなかった。それは既に表情にも表れており、セヴランの眉間には皺が寄せられていた。
「まあ、この話は理解するのに時間がかかるからの、仕方ないか……ただ、これだけは分かってくれ、お前の心には、過去の英雄の記憶が残っておる筈じゃ。それを、竜の血と呼んでいるに過ぎん。竜とは、想いの強い者と関わりが深いらしいからの…………」
「……すみません、やはり、今の自分には理解しかねます……。そのことに関しては、現状は考えないことにします」
セヴランは、今回は得た知識でありながら、理解出来なかったことが連続したため考えることを止めた。多すぎる情報は混乱を招き、正常な思考能力を奪う。それを嫌ったが故に、この事柄に関しては保留案件と決めたのだった。
セヴランが最も聞きたかったことは、求めていた答えを得ることが出来ずじまいになったが、それでもここで得た情報は多かった。それも多すぎる程に。結果からして言えば、これからの行動に大きな変化は無いが、それでもすべきことは増えた。この大戦を終わらせ、ロイヤルガードと七極聖天を味方につけること。そして、その全ての力を使って霧の向こうから押し寄せるという竜との戦い…………。まさに、夢物語のような話。しかし、それが事実だろうと嘘だろうと関係ない。セヴラン達は、ブラッドローズは、ただ民を守ることを考えて動く。たとえ伝説と言われた竜が相手でも、逃げることなど考えには存在しなかった。
こうして話も大方終え、セヴラン達はいまだ天井に広がる星空を見上げ
「なぁリーナ、どれぐらい時間が経った?」
朝に洞窟内へと入り、これまで時間を消費した一行。ここまで一連のことで、どれだけの時間が流れたのかとリーナに問う。リーナは服の内ポケットから銀時計を取り出し、その針を読みあげ
「今で十二時過ぎね、あっという間だわ」
過ぎた数時間に対して、リーナは表情こそ変えなかったが、声に表れた驚きは隠せなかった。ここに来て数時間、初めの戦闘と話し合いだけでそれだけの時間を消費していた。おそらく、平常時ならばそれを気にすることもなかっただろう。しかし、パラメキアとレギブスの戦闘が始まっていれば、それに介入している筈の仲間がいることを考えれば、気持ちにゆとりがないのも頷ける話だった。
「どうする、ここから合流するには時間がかかるし、先を急ぐか?」
リーナの焦りを感じたのか、バーンズはセヴランにここを出ることを提案する。その案には皆反対する様子もなく、セヴランも頷き
「そうだな、エメリィもキルもそれで大丈夫――」
と、一応の確認をとろうとしたセヴランだったが、キルという名を口にしたところで一つの疑問を思い出し
「そういえば師匠、キリシュ・ルーアって結局誰のことなんです?」
ここに来た際に、師匠が呼んだ名が誰のことかを聞こうと再び口にした時、セヴランは異様なまでの殺気を身に受け
「!?」
とっさに剣を抜いて背後へと向けた。そして、そこには抜いた刃で斬りかかろうとしていたキルの姿があり、どういうことかと困惑した。息を上げ、何故そこまで殺気を向けるのか。キルの行動原理は分からなかったが、それを説明するようにディルムンクは言葉をつくった。
「それは、そこで今お前に刃を向けている者の名、それだけじゃ」
ディルムンクに言葉を向けられたことでキルは刃を収めたが、その瞳は周囲全てを敵視する程強烈なものであった。そんな視線に当てられながら、セヴランはキルに心の中で疑問を投げ掛け
……キル、お前はなんでそんなに、名前で怒りを見せる。普段感情を見せないお前が、一体何にそれだけの怒りを見せているんだ…………
セヴランの中の疑問は、答えが返ることなく、ただ胸中に残るのであった…………。
どうも、作者の蒼月です。
今回、そろそろこの話し合いの終わりが見えてきました。(ようやくだよ)
という訳で新しく見えてきたのは、キルの過去についてでしょうか。彼に関わる事柄は、今後も早く書いていきたいので、次辺りにでも少し書かれるかと……
では、次も読んで頂けると幸いです。




