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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第七章~始まりの地へと収束する運命~
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第百五十九話~実力の差~

 背後を取られたセヴラン。警戒していたのにも関わらず、一切の気配さえ感じ取れなかったことにセヴランは、何が起きたのかの理解を思考が拒んでいた。


 ……何が、こいつ今、一体どこからッ!?


 セヴランは視線を横目で背後へとおくる。その先、視界には微笑む金髪の女性がいたのだ。その女性は音も気配も無く、元からそこにいたかのようにただずんでいる。しかし、確かに今までそんな女性はおらず、唐突に姿を見せたのだ。この事実はセヴランに恐怖に近い感情を抱かせ、とっさに剣を抜かせようとしていた。

 迷い無く、一直線に腰の剣へと手が伸びる。そこに無駄は無く、注意していなければ見落とす気付かない程、自然な動きだった。………………だが、セヴランの手は剣に届くこと無く、女性の手によって止められていた。


「あら、そんな動きじゃまだまだね。それに、私は戦うつもりじゃないのだから、もう少し穏やかに話し合いたいものね」


「――――――ッ!」


 セヴランの動きは難なく止められ、その光景を目の当たりにした五人全員が、この女性が危険という判断を即座に下した。

 女性には殺意すら感じられる視線が集まり、困ったと肩をすくめながら足を進め、ディルムンクの隣へと並び振り返った。


「警戒させるつもりはなかったけれど……困ったわ」


「ソフィアよ、そなたの力なら仕方あるまいて。……セヴラン達よ、そう警戒せずともよい。彼女は味方じゃ」


 ディルムンクの言葉に、警戒はしつつも視線を向けるセヴラン。見れば女性……ソフィアは笑顔で手を振っており、そこに敵意は感じられない。少なくとも、分かりやすい敵でないことだけは理解出来た。それは他の面々にも伝わったようで、それぞれ警戒の色を残しつつも、剣を抜こうとしていた手を引いた。

 セヴランは僅かに抜いていた剣を鞘へと戻し、目の前のディルムンクとソフィアに両手を広げ


「師匠……いえ、ディルムンク将軍。貴方には聞きたいことが山ほどある。貴方も、私達の事を知っていて何か企んでいるようですし、お答えしてもらえますよね?」


 セヴランの堂々とした立ち振舞い。師匠相手に、どこまで強気をしていられるかは分からない。しかし、それでもセヴランはディルムンクから情報を引き出す必要があった。


 ……早くしないと、バウルやギーブ、モース達が…………


 セヴラン達五人以外のブラッドローズの面々は、既にパラメキアとレギブスの戦争へと割り込む為に、三つの国境が重なる場所へと向かっている。既に戦闘を始めている可能性もあり、場合によっては全滅している可能性もある。そこまで極端なことはそうそうないと分かっていても、セヴランの中には焦りが生じる。嫌な汗をかき、口の中が渇いてゆく。

 僅かな時間の流れが、何倍にも伸ばされたような感覚に陥るセヴランだったが、そこにディルムンクは言葉を投げつけた。


「言ったはずじゃセヴラン、弱くなったなと……その意味が分からんのか?」


 ディルムンクの問いかけに、セヴランは意識こそ引き戻されたが、それに答える言葉を見つけれなかった。

 何の言葉も返さず、質問を理解出来ていないセヴランに、ディルムンクは呆れのため息を溢し


「……残念じゃ、もう少しは成長しておるかと思っておったのじゃがな」


 ディルムンクは岩から腰を上げ、少しふらつき………………


 気が付くとセヴランの喉元に、何処からか出したのか分からない剣を突き立てていた。




 いつ動いたのか、一切が見えなかった。動きの兆候も、何一つ感じ取れなかった。理解し難い現象の連続に、セヴランは頭痛のようなものを覚えながらも


 ……今度は何をされた、何で何も気付けなかったんだ。まあ、俺以外もそうみたいだが……


 セヴランは剣を突き立てられているため動けない。かわりに、目だけを動かし、周囲の様子を確認した。そこには、口の開け、目を見開き、絶句したかのように固まっているソフィアを除く四人の姿があった。

 セヴランは、他の四人も何が起きたのかを分かっていないことは理解する。そして、この状況を作り出したディルムンクは口を開き


「たかだか国境線の攻防で活躍したごときで、自分には守る力があるとでも勘違いしたのか?おぬしは今ので、少なくとも一度死んでおる。……感覚が鈍い、常に警戒しろと教えた筈じゃ。仲間を全て守ることなど不可能、常に警戒をしろ、全力を発揮しろ。儂とここで修行していた頃のおぬしなら、反応は出来ずとも目で捉えること程度は出来たろうに」


 ディルムンクの言葉は、セヴランの心に深く刺さり、弱くなったと言われた理由を示していた。だが、言葉の矛先はセヴラン以外にも向けられ、鋭い眼光と共に言葉を送られる。


「リーナ穣、おぬしはセヴランを信用しすぎじゃ。セヴランの方向への注意が甘い。……バーンズ、お前は話にならん。将軍の座を継いだからか知らんが、行動の鋭さが失われておる。昔の、一兵士だった頃のような獰猛さが足りん。……魔導師エメリィ、そなたは戦いを学べ。術式の構築はしているようだが、そなたが魔法を発動する隙があれば、儂ならこの三人を殺せる。矛だけでなく、盾としての戦い方を知らなくては、この場の全員がいずれ死ぬぞ。……最後にキルシュよ、おぬしは仲間を信じろ。あまりにも警戒が過ぎる、人が一人で出来ることには限りがある。いくらおぬしが警戒しようと、一人では何も守れんぞ」


 一瞬のうちに、五人全員に弱いと評価した点を見抜くディルムンク。説明を終えると鋭かった瞳は元の老人のそれに戻り、剣をセヴランの喉元から外し、岩へと向かい足を進める。ふらふらと歩き、岩へとたどり着いたディルムンクは、さっきまでの動きが嘘かのように腰を擦りながら岩へと腰掛け


「さてと……悪かったの、いきなり襲ったりして。儂らも話したいことは沢山ある、ゆっくりと話し合おうではないか。今後の、この世界についてな…………」


 ディルムンクとソフィアが並び、二人は表情から笑みを消して五人と向かい合った。これに、セヴラン達も真面目な話が出来ると理解し、ようやく本題の会話が始めれることとなった。

どうも、作者の蒼月です。

今回は、今の問題点の一つの確認と、ディルムンクやソフィアの実力を見せる回でした。暫くは、まだこの回が続くかと思います。できるのならば、説明だけの回は手短にしたいのですが、もう少し付き合って頂けたらと思います。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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