第百五十八話~魔女との対面~
洞窟内に揃ったセヴラン達とディルムンク。一人で腰掛けるディルムンクに、それと対峙するかのように正面で横に並ぶ、セヴラン、リーナ、バーンズ、エメリィの四人。光輝く結晶に、天井という名の空に浮かぶ星々。幻想的な空間には不揃いなまでの面々が、そこには揃っていたのだった。ただ、そこにはキルの姿だけが存在していない。だがそれを、誰も気にはしなかった…………。
ディルムンクは岩に腰掛けたまま、そこにいる四人へと笑い掛け
「さてさて……そこの影にいるキルよ。隠れ方が甘いぞ、殺意も漏れておる。その程度でブラッドローズの隠密担当とは……甘えているのかのぉ」
「………………」
ディルムンクの笑みと共に、洞窟内の影へと言葉が向けられた。セヴラン達は驚きの表情を隠せず、ディルムンクへと注視する。
セヴラン達はキルがこの空間内の闇に潜み、どこかに隠れているのは理解していた。それはいつものことであり、基本的に姿を見せないキルのいつものことと、深く考えることはない。だが、そんなセヴラン達が驚いたのは、見つかることがないキルをあっさりと見つけられた為だった。
セヴランとリーナ、エメリィの三人は呆気にとられたように口を開いており、バーンズもある程度予想しながらも、その表情の変化を隠せずにはいた。
だがしかし、最も驚きを示していたのは、隠れていた自分自身を見破られた、キル自身であった。
ディルムンクからの視線を感じた彼は、既に存在を認知されていると理解すると闇から姿を現し、フードで隠した顔から覗く瞳でディルムンクを睨み付けた。
「おぉ、いい目じゃ……しかし、それは単なる気配を周囲へと同化させておるだけ。一隠密としては素晴らしいが、それでは今後お前達が相対する敵には及ばんのだ…………」
ディルムンクは優しさを感じさせる笑みで、キルの瞳について誉める。が、その笑顔はすぐに力無く失われ、言葉は失われた。
それがどういう意味なのか、それは誰にも分からなかった。自らの師匠で、それなりの時間を供に過ごしたセヴランも、ディルムンクの考えは分からないことばかりであった。
今にして思えば、セヴランは自らの師匠の事を殆ど知らなかった。修行での日々の中では、ディルムンクの事を聞いても返事は返されることはない。セヴランとしても興味本位程度だった為、深く聞くこともなかった。
そうしてこの地から離れ軍へと入った為に、セヴランはディルムンクの事を深く知らず、名前さえも知らなかったのだ。
そんな謎大きディルムンクを前に固まる五人。両者の間の空間には凍てついた程冷たい風が流れ、空間さえも止まったかのような静寂に包まれる。そして、それはディルムンクの暫くの思考の後、破られることとなった。
「セヴランよ、先程も言ったがお前は弱くなったの……」
「…………師匠、それはどういった意味でしょうか?」
ディルムンクの言葉に、セヴランは怪訝そうな表情でその意味の真意を探る。しかし、ディルムンクはその言葉に更に残念そうにため息を吐き
「分からんか…………バーンズ、お前もだ。あの頃から成長しておらん、お前だからこそ将軍を任せたのだぞ……まあ、仕方ないのかもしれんが」
ディルムンクはセヴランだけでなく、バーンズにも同様に失望といった感情を見せ、静かに目を閉じた。
ディルムンクに弱いと評価されたセヴランとバーンズ、二人は互いに目配せし、一体何が駄目なのかと思考する。だがそれの答えは二人が導き出すより先に、ディルムンクの口から告げられることとなった。
「悩んでおるのぉ……しかし、それこそが重要なのじゃ。己の中だけで答えを見つけれない場合、それは悩むしかない。答えが見つけれなくてもじゃ……さて、そろそろ答えを示そうか。申し訳ない、ソフィア殿よ。そろそろ姿を見せて貰えるか」
ディルムンクは、他に誰も見えない洞窟内に語り掛けた。同時に、洞窟内に風が駆ける。輝いていた結晶群も何かに呼応するように輝く光を強め、天井の星々は空にて回り始めた。
……一体何が、こんな光景は初めてだ…………
セヴランは初めて見る光景に、何が起きているのかを理解出来ない。しかし、ディルムンクの言葉と合わせて、自身が想像しえない事が起こるであろうことは直感的に理解する。
だが、そこで無意識に剣の柄に手をかざしていたのは、本能が危険を感じたからであった。それは他の者達も同じであり、それぞれ警戒の色を顕にしていた。
そして、五人が警戒するその空間に、ソレは現れた。
「あらあら、子供みたいに怯えちゃって。ディルムンクも意地が悪いわね、私を見つけれないだけで弱い、なんて言うなんて。彼らが可哀想よ」
透き通るような女性の声、聞いた者をどこか優しく包むような語る口調。そんな声がどこから響くのか…………答えは、セヴランの背後に姿を見せる。
目に見える風の流れが、包んでいた何かを剥がすように人の姿を見せ始める。そこには、緑のローブに身を包み杖を持つ女性。金髪の髪を揺らし、青い瞳と微笑みでセヴランの背後を取っていた。ソフィアと呼ばれた彼女はセヴランの肩に背後から手を起き
「でも、もう少し敏くても良いんじゃないのかしら。氷結の騎士さん」
ソフィアは、全員に反応を一切させること無く、難なくセヴランの背後を取ったのだった。
どうも、作者の蒼月です。
今回から、遂に七章に入りました。魔女ソフィアと接触したセヴラン達、一体ソフィアとはどういった存在なのか。
まだまだ謎は多いですが、その答えは次回辺りから早くも出るかと……
では、次も読んで頂けると幸いです。




