第百五十六話~洞窟を駆けし風達~
……セヴランも、前より動きが早くなってる、私も分けてられないわね。
空中で三回転し飛び上がったセヴランの下を、地面に倒れる様に低くした姿勢で駆け抜け、隊列を入れ換える。 入れ替わったリーナはそのまま加速し、迫る矢に剣を向けた。
可能な限り無駄な硬直を避ける為、剣を振るう回数は最低限に留めることが必要と考える。その為に、リーナは自身が回避行動をとることでの対処を選択した。
ここまで、セヴランが対処しただけでも相当な数の矢が、一瞬で迫ってくることをリーナは理解している。故に、セヴランよりもより自由度の高い動きを可能とするリーナは、ただ一直線に動くのでは無く、大きく洞窟内全体を足場として活用した。
リーナの顔を目掛けて迫る矢が四本、単に顔を動かすだけでの回避は許さない。だからそれを、リーナは体を左側から倒し、飛んできた矢の下側に潜り込むようにして、それを見送った。ただ、リーナは更に動きを加える。
左側へ倒れつつリーナは左腕を振り抜き、迫った矢のうち二本を振り抜いた手にもつ剣で斬った。それにより、リーナの後ろにいたセヴランが対処すべき矢の数を減らした。
……まあ、さっきまでのお礼には少し足りないかしら。
リーナは、数秒程前まで先行し、リーナ自身へと迫っていたほぼ全ての攻撃を一人で対象してくれていたセヴランへのお礼の気持ちから、放置する予定だった矢を斬り落とした。無論、それまでにセヴランが対処していた矢の本数に比べれば些細なものではあったが、こういうのは気持ちの問題という考えの下であった。
そんなセヴランを気遣う優しさを見せていたリーナだったが、二人を攻撃してくるそれは、優しさの片鱗等見せることは無かった。リーナが矢へと攻撃したが為に、僅かながらその体には隙が生まれる。空中で回転するように倒れている状態で、そのまま起き上がればいいところを、わざわざもう一回転の力を与えて矢を処理した為、起き上がるまでに一行程増えてしまった。その一行程も、ただの戦闘ならばそこまでの問題が無いかもしれない。しかし、この高速の移動と攻防を続ける戦闘下では、この僅かな隙が命取りとなりかねなかった。
……もう、このままじゃ避けれないわね。
リーナは、空中で回転する一瞬の視界の中で、次に自身を狙ってくる矢を捉えた。その数八、高速で動けるリーナとて、一瞬で対象するには厳しい数。体勢さえ整っていればどうとでもなるが、僅かでも空中に浮き、体勢を崩している今の状態では処理できるのは三本が限界だろう。だが…………
「行け、リーナッ!」
リーナは矢の処理が間に合わないことは理解している。しかし、ここまでの動きは想定の範囲内であった。
リーナの体は、剣を振り抜いた力で天井側へと向いている。そして視界には、後ろから加速をして前傾姿勢で跳躍してきたセヴランの姿があった。セヴランのその手に握られていた筈の剣は見当たらず、代わりにリーナへと手が伸ばされていた。
「遅いわねッ!」
リーナはこれを待ってたと笑い、それと同時にセヴランの手はリーナの足を掴んだ。そしてセヴランは、リーナの足を掴んだ手を中心に、自らの速度を落とし、代わりにそれを力に変えてリーナを引きずり回すように回転させる。これにより、リーナを狙っていた矢は回避され、更に体勢を崩していたリーナを無理やりに前へと飛ばして形勢を立て直した。
しかし、リーナを前へと飛ばした反動で、セヴラン自身は少し後ろへと飛ぶことになる。そうなれば、せっかく詰めた距離をもう一度抜けなければならなくなる。だが、そんなことをセヴランは認めず
「これしきッ!」
後方へ飛びつつ、腰の鞘へと納めていた剣を即座に引き抜き、それを地面へと突き立てて速度を落とす。速度自体は大したことがない為、セヴランは前へと進むリーナの後方で簡単に止まることに成功する。そして、足へと全力で魔力を集中させ、自身を銃弾の様に前へと打ち出す加速を得る。
「――ッ!」
連続した加速に、セヴランは痛みから意識に揺らぎを覚えるが、それを前へと進むことだけを考え意識を保つ。
「リーナッ!」
「分かってるッ!」
もう終わりが近いのか、攻撃の密度は更に上がってゆく。だが、ここまで来たセヴラン達を止めるには些か及ばない。
セヴランは地面を走り、迫る矢の尽くを弾く。右へ、左へ、回避を交え、目の前の敵たる矢を斬り払う。
リーナは洞窟内を縦横無尽に駆け、壁を、天井さえ足場にしつつ前へと進む。
リーナが先端を開き、セヴランはその援護に徹する。リーナは時々矢を掠りながらも速度をあげた。それが出来るのは、セヴランが自身を守ってくれるという信頼の成せる技か。事実、セヴランはリーナに致命傷を受けかねない攻撃を見切ると、それをセヴラン自身で弾くか、あるいは何度か繰り返している得意の空中での入れ替わりを使い、確実に前へと進める状況を作る。
「見えたッ!」
そんな全力の突撃は遂に終わりを迎え、二人は奥に存在した最深部へと滑り込んだのだった。
どうも、作者の蒼月です。
またまた遅れて本当に申し訳ないですm(__)m
いやはや、本当に更新速度を上げたいものです……
本編、遂にセヴラン達は最深部までたどり着きました。さて、この洞窟を駆け抜ける戦いは、二人にとってどんな意味があったのか。それは、次回に(多分)分かるかと思います。この五章の終わりも間近ですので、張り切っていきたいと思います。
それでは、次も読んで頂けると幸いです。




