第百五十三話~洞窟……~
視界に広がる、辺り一面の森。見通しが悪いなどと言う言葉では、この光景は言い表せないだろう。樹海と言ってもまだ足りない。足元は木々の根と葉で道は無く、枝は人が森へ入ることを拒むように侵入者達の行く手を阻む障害物として育っており、昼だというのに薄暗く冷たい空気に包まれる。
そんな辺境かのような森を進んでいたセヴラン達だったが、入るなりすぐにリーナは疲れを見せていた。
「ここ何なの……とても、人間が暮らしているところには思えないわよ」
足元に注意するあまり、リーナは幾つかの枝に体を引っかけ、出血とまではいかなくとも痛みを得る。明らかに、森は人が住むための場所でなく、枝を厄介そうにしつつセヴランに話掛ける。
セヴランも、リーナでないにしろ誰かは文句を言ってくることは理解していたため、無駄に疲れを感じさせないことが必要と
「そうだよな。俺も、初めてここに来たときは死にかけたよ。慣れれば楽になるんだが……あと少しで開けた場所に出る。それまでは我慢してくれ」
セヴランは過去を懐かしむように思い出しつつも、他の面々に耐えるように促した。
そうした生い茂る森を超えて行くセヴラン達。ここにいる者達は全員一通りの訓練は積んでいる為、森等での生き抜く術を理解している。だがそんな彼らとて、普通の森とは比較にならない程深い森に体力を奪われ、森を抜ける頃には多かれ少なかれ疲労した姿見え始めていた。
特に疲労を見せていたのはエメリィで、肉体派ではない彼女にとってはこの森を抜けるのは辛いものだったらしく、それを皆を率いてきたセヴランは理解していた為
「大丈夫か、エメリィ?」
手に持っている杖で体を支えるように立ち、息を僅かに荒げるエメリィへとセヴランは手を差し出し、それにエメリィは大丈夫と首を横に振った。
「気にしないで頂戴。まあ、出来たらこういう疲れるのはもう嫌だけれど」
エメリィは笑いつつも、まだ動けるとセヴランを手で制し、セヴランはそれを受け良かったと笑い
「なら、ここからが本番だな…………」
セヴランは抜けて来た森の先、少しの開けた場所に大口を構えている洞窟の入り口を前に表情を曇らせた。
この洞窟が何なのか、ここが目的のセヴランの師匠がいる場所なのか、情報が足りないことから質問したいことが重なり、それを代表するようにバーンズがセヴランの横へと並ぶ。
「セヴラン、ここが例の師匠とやらがいる場所なのか」
「あぁ、ここが俺の師匠がいる場所だ……だけど、ここからがキツイんだよなぁ…………」
「キツイ?何がだ」
セヴランの表情は洞窟を前にしてから特に悪くなり、それを気にしたバーンズはそこに質問を重ねる。そしてセヴランは、質問へと答える為一度気持ちの整理から大きく深呼吸し、全員の方向へと振り替えると
「全員聞いてくれ、この洞窟が目的地だ。この奥に俺の師匠……ディルムンクかもしれない人物がいる。ただ、ここから気を付けてもらいたいことがある」
セヴランの気を付けてもらいたいという言葉に、リーナは不思議そうに首を傾げ
「気を付ける?一体何に?」
「俺がここで修行してた時は、ここら辺一帯の移動時は師匠に襲われることが当たり前だったんだ。森では襲撃されなかったが、多分この洞窟内では何かしらの攻撃を受ける筈……だから、ここからは戦闘態勢で挑んで欲しい」
セヴランから告げられた予想外の言葉。襲撃などと、とても師弟間ですることではない事柄に聞いていた者達は困惑の表情を見せ
「セ、セヴラン……ここ、貴方が修行をしてた場所なのよね?なんで、襲撃なんてされるのよ?」
リーナの当たり前の質問。これに、セヴランも自身も分からないと首を横に振りつつ
「師匠いわく、何時でも気を抜かない為の遊びらしい。この襲撃、師匠は遊びなんて思えない程本気で襲ってくるから、皆も気を付けてくれ」
「え、えぇ……」
リーナは困惑しつつも、戦闘が出来るよう剣の柄に手を当てる。バーンズも同じように、背の大剣を抜けるよう心構えをし、戦闘態勢を整えた。だが、エメリィはすることがないにしても、キルも戦闘態勢を整える様子を見せず
「キル?さっきも言ったように、多分攻撃を受ける。戦えるようにしておいて欲しいんだが……」
セヴランはキルへと注意を促すが、キルはそのどこか冷たい瞳でただセヴランを見
「……自分の弟子を襲うなんて、正気じゃないな……俺は、そんなイカれた奴に会いたくないがな…………」
「あ、あぁ……まあ、そのお陰で俺は鍛えられた訳だし、結果的には生きてるしな。そんなに邪険にしなくても」
「……分かっている……ただ、家族のような存在にそんなことをする奴の気がしれないだけだ…………」
キルの言葉は、普段と変わらず暗さを醸し出している。しかし、その感情の読み取れない筈の言葉に、セヴランはキルのどこか怒りのような感情を感じ取っていた。
そんなやり取りをした後にキルも戦闘態勢を整え、全員の心構えが整う。そして、セヴランは洞窟へと向けて一歩踏み出し
「さぁ、師匠に会いに行くか……」
師匠が待つ洞窟へと、一行は更に進むのであった。
どうも、作者の蒼月です。
まあ、今回の話は殆ど間を繋ぐ回でしたので、そこまで話の進展は無かったですね。
ただ、セヴランの修行がだいぶおかしいものだったということは、少しは伝わったでしょうか?
おそらく、次辺りからそれがよく分かるかと。
後、何気にキルの様子も…………
では、次も読んで頂けると幸いです。




