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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第六章~世界を覆いし終焉~
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第百五十二話~帰郷~

 蕀のそれから出現したイクス。もちろん、その存在はファームド達の知るところでなく、目の前に何の前触れもなく現れたイクスは、異質で不気味、形容し難い物に見えていた。


「一体何者だ!」


 それぞれ混乱した場でありながら、爆風に耐えつつ立っていたファームド達はイクスへと警戒としつつ、まずは確認の為の言葉を送った。

 しかし、イクスは周囲のファームド達に興味は示さず、自身の足元に転がるシンを睨みつつ、低い声でただ告げる……


「戻るぞ、お前が使えないことなど予測はしていた……これ以上、私の手を煩わせるな…………」


 イクスの言葉に、地で丸まっていたシンは体を起こしつつも、言い返すことはせずにただ黙っていた。そこには、ファームド達へ向けていた攻撃的な姿もなく、まるでいたずらを叱られた子供のようである。

 そんなシンの姿に、イクスは重ねるように怒りからか声に更にドスが効かせ、周囲へと視線を向けた。


「人間……これ以上、余計な真似をするなら貴様らから消してやる……大人しく滅びの時を迎えるがいい…………」


 イクスの理解不能な言葉。だが、それを理解するより先に、何か得られる情報は得るべきという判断から、ファームドは咄嗟に言葉を漏らし


「ま、待てッ!お前達は――」


 ファームドの判断はおおよそ正しく、情報を得ることは重要である。しかし、それは普通の人間相手であればの話であった。

 そのファームドからの言葉に、イクスは明らかな敵意を放ち、同時にファームドは金縛りにあったかのように動けず、言葉を発することもままならなくなった。


 ……一体何が!?


 理解不能。いや、理解したくないというのが本音だ。イクスの言葉にあるもの、それはどれも物騒であり、個人で判断するには重すぎるものだと直感している。そんなファームドから見て、目の前のイクスの存在は異質の極みのように感じるのであった…………。


 そんなイクスはファームドの質問へと答えを述べず、表れた黒い霧に包まれるようにシンとともに姿を消した。




 血で濡れた大地に残されたファームド達。そこには、それまでの戦いが嘘であったかのような静けさが広がり、そこにはシンも蕀も、イクスの姿も何も無くなっていた。


「一体、何が起きているというんだ…………」


 起きた事実を、頭の中で整理するファームド。しかし、最早情報を握っていると言えるシンは姿を消し、ファームドからすれば不気味で異質な存在、イクスもまともに話すことも出来ず姿をくらました。彼らが一体、何を目的にここにいたのか。何故、ここにいた兵士を襲ったのか。疑問は尽きなかったが、その答えを得るにはファームド達は既に遅かった…………。


 ファームドは暫く考えた後、答えは出ないと諦め、同時に周囲の者達へと指示を飛ばし始める。


「各小隊、人数を確認し中隊長へと報告を上げろ。人数が揃い次第、レイルーン砦へと帰還する。作業に使った資材は一つも残すな、全て持ち帰るぞ!」


『はッ!』


 ファームドの指示により、静かだったサファクイル基地内に点呼の掛け声が広がりを見せる。作業は詰まらず流れ、それを確認したファームドは安心しつつ、ふと空を見上げ


「この襲撃に意味があったとして、それは何だったんだ……ここには重要な武器がある訳でも、兵士が駐屯している訳でもない。ここに着いてからシンの襲撃までの時間から考えて、敵はこっちの動きを把握してたようだが……だが、部隊を潰すなら指揮官を狙えばいい。奇襲なら、あの力があれば可能だった筈……とすれば、これは普通の軍の考え方とは逸脱したものだ。レギブス軍とも思えない……何か、嫌な感じだ…………」


 ファームドは一人でぶつぶつと考えを口にしながら、仲間が撤退するまでの時間を潰すのであった。






 そんなイクス達の襲撃を受けたファームド達。その様子を、かなり離れた位置から眺めていた黒い服装の兵士が一人、ポケットから魔道具である通信機を取りだし、ある人物へと会話を繋ぐのであった。


「キル隊長、やはりイクスは仕掛けてきました。確認しているだけでも、パラメキア国内、レギブス国内、アイゼンファルツ基地にサファクイル基地、しかもそれぞれあり得ないタイミングですね。これは本格的に、イクスが化け物に見えてきましたよ。以上、報告を終わります」


 キルとの会話を終え、魔道具をしまったブラッドローズの諜報部隊の兵士は、そのまま木々の中へと姿を消した…………。






 そして同刻、部下からの報告を受け取ったキルがいるセヴラン一行は、ある森の前へとたどり着いていた。


「キル、今の報告本当か?サファクイル基地だったらすぐそこだぞ」


 キルの報告を聞いていた面々のうち、セヴランはキルへと確認をとる。勿論、この報告は確かなものであり、キルは一度軽く頷き、それが事実と答える。


「あぁ……まあ、もう消えたらしいから追えないがな…………」


 キルの報告に、セヴランは手掛かりを掴めなかったと落胆するが、そんなセヴランを慰める為なのか、単に普段通りなのかリーナが笑いかけ


「まあまあ、今の私達の目的はイクスじゃないでしょ。そのことも含めて、貴方の師匠に話を聞きに行くんだから」


 リーナの前向きな考えに、セヴランも無意味な落胆は馬鹿馬鹿しいと気持ちを入れ換え、自身の五年間の修行の地を前に懐かしさを覚えていた。


 様々な目的からセヴランの師匠、ディルムンクが待つと思われる森を前にするセヴラン達。そして、そのセヴラン達を待ち構えるディルムンクと魔女ソフィア。五年の時を経て、セヴランは始まりの地へと帰って来たのだった…………。

どうも、作者の蒼月です。

さてさて、ようやくここまで来ました。これで、この章も僅かとなりましたよ。というか、ここまでが長すぎた…………


セヴラン達は、ブラッドローズとして戦争を終わらせる手掛かりを探しに、セヴランの第二の故郷へとたどり着いた。そこで待ち構える者達、そして運命を、セヴラン達はまだ知らない…………

だが、それでも運命は回り始めている。既に、物語を止めることは叶わない。待ち受ける運命を、セヴラン達はいかにして乗り越えて行くのか……


では、次も読んで頂けると幸いです。

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