第百四十四話~レギブスの若き総大将~
聖獣の攻撃をはね除け、未だ余裕を見せるイクス。だが、異様なまでの人間に対する執着心を見せ、表情も感情が感じられる程度には歪んでいた。
「……消えろぉぉおおぉぉぉぉ!!!!!」
イクスは、それまでにない程に巨大な雄叫びを上げ、その頭上へと登らさしていた黒き何かを自身の周囲まで凝縮させ……それを、腕を振り払う動きで周囲の敵へ向けて放った。
「……オーガスト、ライラ、ライル、あれを止めろ」
イクスの動きを見るなり、ハインケルは間髪入れずに仲間に対し対処する為の指示を飛ばす。その言葉を聞くと同時、名を呼ばれた三人はそれぞれ最適解である動きを実行する。
「炎よ、舞えッ!」
「「皆には手を出させないよ」」
オーガストとライラ、ライルの三人は己が従える聖獣へと言葉を送る。その言葉は即座に聖獣の行動として現れ、オーガストが従える不死鳥姿の青白い炎はその羽を羽ばたかせ、イクスから放たれた黒き影のようなものを覆い、更にライラとライルの死神風の聖獣はその鎌で黒き影を空間ごと切り裂いた。
一連の流れを、一切の無駄なく水の流れのように行い、イクスの攻撃とおぼしきものは一瞬にして消されることとなる。
自らの攻撃が攻撃を、何の気なしに消されることが気に入らないと、イクスは更なる攻撃としてその影を放出させるが…………
「……無駄だな。焼き払え」
ハインケルはイクスへと冷たい視線で睨み付け、ただ小さくその言葉を口にした。誰かの耳に聞こえる訳でもない程小さく声だが、それは確かに聖獣へと伝わる。
そして、伝説の体現たるハインケルの聖獣……ドラゴンは、その鋭い体とは裏腹に、体を構成する青白い炎よりも、更に強力な炎……すなわちブレスを、包囲するイクスへ目掛けて放った。
伝説が生み出す灼熱の炎は、始めにイクスへ浴びせられた
「糞があああぁぁぁあああぁぁあッ!!!!!!!」
炎に焼かれ、その体の形さえ怪しい程までに焼かれるイクス。その様子はさながら地獄であるが、イクスの絶叫は戦場、そして兵士達の耳へと轟き響く。それまでの冷静な雰囲気のイクスはそこになく、イクスとは別の普通の人間かのような叫びであった。
その様子に、周囲の兵士達はそのおぞましい何かを見たからなのか、恐怖に怯えるように燃えるソレを見ていた。だがそれと対照的に、七極聖天の七人は冷静に視線を向けつつ警戒し
「人の怨念を形にし、精神に直接的に語りかけ、対象の魂を直接破壊する……対処手段がなければ、確かに恐怖しかないだろう。だが、所詮は紛い物の技……我らが培ってきたこの血の歴史、そう簡単に滅ぼせるものでないとしれ」
「この……虫風情があぁ……あ…………」
イクスの形をしていたそれは、炎に呑まれながらその形が朽ちてゆき、ただ悲鳴のみを残して影の中へと灰を散らして消えた…………。
「消えた……?」
生まれてくる当然の疑問が、兵士達の口から言葉を漏らさした。その圧倒的な威圧と、異形の技を為して襲撃をかけてきたイクス。だがイクスの想定と違ったのか、七極聖天が全員揃うということにより、軍勢相手に優勢を保っていたイクスも成せることは少なかった。聖獣の攻撃の数々を凌ぎ、反撃までを行うという離れ業まで見せた。並みの軍では出来ないことを一人で行う辺り、レギブスの兵士達としても恐怖を感じざるを得なかった。
しかし、形を失い消えたイクスのいた場所に、戦闘を終えて警戒態勢へと移行することを皆に指示したハインケルが近づき、その地面へと剣を突き立て
「ふん、やはり本体ではないか……」
ハインケルは突き立てた剣で、イクス本体を仕留めれなかったことにたいするイライラをぶつけるように地面を何度も剣で突き刺し
「ハインケル、そんなに深く考えても仕方ないですよ。少なくとも、イクスの副体の一つを仕留めた訳なんですし、これは皆へ安心感を与える材料にもなります。今は、それでいいではないですか」
ハインケルの隣に並び、その波打つ感情に対してタリシアは宥める言葉を並べ、ハインケルも次第にそのイライラの感情を収め
「はぁ……まあ、タリシアの言うとおりだな。俺達が成すべき道はまだまだ険しい、こんなところで躓いてはいられないからな」
重いため息……それが何を示すかは分からないが、少なくともまだ若い青年がレギブスの七極聖天の代表を務め、一国の軍を率いているというのは考えるまでもなく異常なことである。そんな若き代表が、レギブスという国を使い行おうとする事柄……それが到底、並みの人間では理解出来ないようなことであるというのは確かであり、ハインケルのため息はその苦労を示すものなのかもしれない。
そんなハインケルも、いつまでも休んでいる訳にはいかず
「総員聞けッ!今、イクスの副体である物の一つを打ち倒した。見てわかるように、我ら七極聖天にかかれば奴を殺すことなど造作もない。故に、我らが考えるべきは目の前の敵……そう、帝国パラメキアである。奴らを蹴散らし、我らがこの大陸を支配し、初めて人間はこの世界に立ち向かえる。……人類の存亡を賭けたこの戦い、負ける訳にはいかない!今後も、いっそうの活躍を期待するッ!」
『おおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!』
ハインケルのこの戦いに対する想いは夜の戦場にこだますし、それに応じる勇敢なる兵士達の叫びもまた連鎖する。
高い意識と目的の為に戦う彼らの戦意は確かなものだが、そんな中で一人だけ……
……だが、この襲撃に意味があったとは思えない……イクスは、一体何の為に俺達を襲撃した。アレはロイヤルガードとも敵対しているが故、向こうの手助けでもないだろう。……だが、だとしたら理由が見えないな。唯一あったイクスの成果は、せいぜい俺達の進行を遅らせた程度だろうに…………。
仲間と、多くの部下に道を示したハインケルは、この一連の襲撃にたいする疑問を抱くのであった。
どうも、作者の蒼月です。
また更新遅れてますが、本当にここ最近忙しいんです……(開幕言い訳スミマセンm(__)m)
どうしたら、もっと小説を書く気力と時間を手に入れれるのか。これが難しいところです
さて本編ですが、今回はまあまあ重要なことを言ってたりしますね。レギブスの若き総大将、彼が抱えるものとは大きいものです……
自分の作品ではあるんですが、これって本当に若い奴が活躍しすぎじゃね?って思う方もいるかもしれません。事実、私も少しはそう思ってるので。
ですが、若い者達が活躍してるように見えて、実際は言うほどでもないです。本当に沢山の人達が活躍している世界なんですよ。
ただ、焦点を当てているのが若き彼らという点、後若い彼らだからこそ、活躍しているというのがあります。この辺りの理由はいずれ書くとは思うので(それがいつになるのやら……)、それまで待っていただけたらと思います。
では、次も読んで頂けると幸いです。




