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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第六章~世界を覆いし終焉~
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第百三十四話~進むべき道~

 狼の姿が視界から完全に消え、銃装隊は構えていた銃を下げて警戒を解いた。セヴランも一仕事終えたと息をつき、その場に腰を下ろし、視線を銃装隊を率いていた小隊長に向けた。


「それにしても、どこか一小隊でいいって言ったのに……集まってくれて助かったよ」


「まあ、我々も仕事がしたかったんですよ。なんせ、ロイヤルガードとの戦いではどこも近接戦ばっかで、誤射しかねない我々の出番がなかったですからね」


 銃装隊の銃装隊は、自身の持つ銃を担ぎ直してセヴランに笑いかけた。


「ここまで移動させておいて、仕事をさせれなかったのは悪かった。お前達には、集団戦での活躍を期待してるよ」


「えぇ、皆そのつもりですよ。次は、接近部隊に負けない活躍をしてみせますよ」


 小隊長は率いていた部隊に解散の指示を出し、銃装隊隊はそれぞれが自由に散っていった。防壁上には、セヴランとバーンズ、そして銃装隊小隊長の三人のみが残ることとなった。

 時間は既に夕方であり、防壁上の三人は夕陽に照らされながら黒きその姿と実力を基地の兵士達に示していたのであった。




 ブラッドローズの銃装隊により、狼の群衆を退けたアイゼンファルツ基地。狼迎撃の為に展開されていた部隊は、その仕事をすることなく戦闘が終わり、ブラッドローズの持つ銃の力を見せつけられていた。


 展開していた中の新兵の一人は、防壁上のセヴラン達に嬉々とした視線を向け


「すげぇ、あれも魔法ってやつの力なんですかね」


 新兵は、今回のロイヤルガードの襲撃の際に、ブラッドローズの面々が使用した魔法を見たのが初であった。国内において、日常生活では魔法などを見る機会はなく、軍に入ったとてそれを新兵が見ることもなかった。故に、今まで見たこともない銃というものの知識はなく、それを魔法の一つだと勘違いしていた。

 そこに、隣の一人の兵士が新兵の肩に手を置き


「いや、ありゃ魔法とは違うぞ……俺は前に魔法を使う部隊を見たことあるが……あんなものは見たことがない。多分、中央の連中が作ったなんかだろう」


「中央…………あの、中央騎士団ですか?」


 中央騎士団。名前のあがったこの部隊は、フィオリス王国軍に所属する部隊の一つである。

 フィオリス王国の部隊は大きく分けて三つに分けられる。一つは帝国パラメキア側を守備するパラメキア方面軍、一つは軍事国家レギブス側を守備するレギブス方面軍、最後は王都トワロに駐屯する王直下の部隊である中央騎士団。規模に関して言えば、方面軍が大きく、中央騎士団には戦力はそこまでは存在しない。しかし、その面々は選び抜かれた精鋭によって構成されており、部隊としての強さは国内最強と言われていた。

 そんな中央騎士団は、他にも装備などの研究を行っている部隊も抱えており、いち早く新しい技術を導入される場所であった。故に、兵士はみたことない銃という存在を新兵器と理解し、それを持つ可能性のある中央騎士団という考えに至っていた。

 実際のところ、ブラッドローズは立ち上げられたばかりであり、国内において知る者はほぼ存在しない。そして、中央騎士団と判断される理由は他にもあり


「しかし、まさかバーンズ将軍が来てくださるとはな……」


 兵士の視線の先、防壁上に並ぶ三人のうちバーンズの存在が、中央騎士団と判断される理由であった。

 元々、バーンズの肩書きである将軍とは中央騎士団で与えられていたものであり、そのバーンズがいることにより中央騎士団と思われていたのだ。

 兵士達はセヴラン達を中央騎士団だと勘違いしたまま


「あんなすごいものがあるなんてな……これなら、少しでも防衛で被害を減らせれるな」


 防衛の為の戦闘態勢が解かれ、兵士達は破壊された城門の修復作業へと戻ってゆくのであった…………。




 アイゼンファルツ基地に隣接し存在する都市、そこにはリーナとエメリィの二人の姿があった。

 二人は街道を歩きながら街を周り、買い物でもしようかと盛り上がっていたが


「ねぇエメリィ。なんかさっき、銃声が聞こえなかった?」


「そうね、なんか聞こえたような気はするけど……まあ、気にしなくてもいいんじゃないかしら?どうせ、今は自由にって言われてるし」


「ん~それもそうね。まあ、何かあればセヴランがなんとかしてくれるでしょ」


 リーナは、微かに聞こえた銃声に疑問しつつも、面倒ごとはセヴランに任せればいいと判断して、エメリィと共に買い物の続きをするのであった。

 街の中では、多少ながら屋台の部類も出ており、王都と同じように活気の溢れる街であり、住む街の人々も特に変わった様子はなかった。しかし……


「ここはまだ大丈夫そうだけれど、皆不安は感じているでしょうね……」


 エメリィは市民の顔を見渡していた。一見しても、特に不安な様子があるわけではない。しかし、溢れる活気は自然なものであく、どこかつくったような感じがあるのであった。人々の笑顔も不安を隠す為の演技なのかと思える程、皆が揃って笑顔なのだった。


「仕方ないわよ、フィオリスはまだ戦火が広がってないし食料もギリギリ賄えている。けれど、その均衡はいつ崩れるか分からないもの…………ここだって、常に前線で敵の襲撃を受けているんだから」


 基地に隣接した都市。それは防衛力があるのは確かだが、同時に戦闘の前線になるのも事実であった。レギブス側のサファクイル基地の周囲の街もそうであったように、日々命の危険を伴った場所に多くの人は住んでいるのだ。そんな市民に、不安があるのは当然であった。


「食料問題も、使える人手を全て使って今の状況だもの。今は大丈夫でも、レギブスやパラメキアから人が流れてきたらもたないわ……まあ、それより侵略されることの方が脅威だけれどね」


 エメリィは現状が綱渡りのような状態であり、いつフィオリスは崩壊してもおかしくないと考えていた。何か一つでも、現状が変われば均衡は崩れる。そんな日常で、不安を隠せないのは市民だけでないことも…………。

 リーナも頷き、空を見上げ


「姫なんていっても、私には国をどうすることも出来ない……やっぱり、この戦争を終わらせるしか、この不安に怯える日々を変える術はないのね」


 リーナは、手を空へと掲げて天を掴むように握り、その限りなく不可能に近い自身の掲げる目標を達成する日を思い


「この戦争を、終わらせないとね。たとえ、どれだけ困難な道だとしても…………」


 ブラッドローズの進む道は険しい。しかし、それを困難だと諦める者はおらず、また彼らには進むしか道は残されていなかった。迫る来る、終わる日から逃れる為にも…………。

どうも、作者の蒼月です。

今回は中央騎士団の説明と、リーナとかの気持ちの説明的回でしたね。本当なら、リーナ達のお買い物の姿を書きたかったのですが……

セヴラン達も、前回で気持ちの説明はありましたが、この世界もなかなかに複雑なものです。民を守る為に戦う。しかし、相手も民を守る為に戦う。人間が増えたのも、前回の狼同様に住処を追われたためです。

霧にのまれたら帰ってはこれない。故に、霧から逃れるように流れてきた人々。人口は圧迫され、食料も足りなくなる。

この戦争は、誰かが悪いということはないです。これは、現実の世界でも似たようなものですね。


さて、セヴラン達は今後、どのような正義の名の下戦うのでしょうか……


では、次も読んで頂けると幸いです。

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