第百二十八話~始まりの霧~
「戦争が起きた、理由?」
バーンズの言葉に、セヴランは理解が及ばず復唱をしていた。
少し惑いつつも、セヴランは己の知識から答えを導きだし
「……食料を生産していたオータムの滅亡と、霧によって住めるところが減っているから……じゃないのか?」
そう、バーンズの質問である戦争が起きた理由を答えるのは簡単である。おそらく、この大陸に住む者ならば大抵の者が知っていることである。
この大陸には数多くの国が存在していた。その中でも、古くから存在していた帝国パラメキアと並ぶ大国、オータム。この国では、広い土地と、生命溢れる大地の加護を受けて他では真似の出来ない大量の食物を生産していた。各国でも食料の生産は行われていたが、オータムだけで大陸にある国の四割以上の国を賄えるという、驚異的な生産量を誇っていた。国家間では、オータムとの食料の取引は必要不可欠なものであり、それが生活の基盤とさえなっていた。
しかし、突如としてオータムは謎の滅亡を迎えた。土地は荒れ果て、人の姿が突如として消えたのであった。誰一人として、その痕跡を残すことなく……あたかも、初めから人などいなかったかのように。
導きだされたセヴランの答えに、バーンズは頷き
「あぁそうだ。だが問題なのは食料じゃない」
「まあ、この場合霧の方かしら?」
バーンズの言葉に、リーナは問題の点を上げた。それがバーンズの考える問題であり、唸るようにそうだと答えた。
「この霧が現れたのは、一体いつだったか……まあ、お前達が産まれるよりも前になるか」
バーンズは腕を組み、天井を見上げるようにして言葉を作る。
「この大陸では、元々戦争なんてのは起こることはなかった。少なくとも、今から五十年以上前で、国家が傾くような大規模な戦争の記録に残ってねぇ」
「なら、それまでは軍はなかったのか?今は、これだけどこも増えてるが」
セヴランは、自分達の属する軍という存在に疑問を抱いた。戦争が長い間なかったのであれば、軍というのはこれ程まで膨らむことはない筈だからだ。
「軍も、それまではどこもあってないようなもんだったぜ。仕事といっても、国内の治安維持や、国境での見張り程度だったからな。まともな軍を持ってたのは、パラメキア帝国ぐらいだった……っと、これはこのぐらいでいいか」
バーンズは話が逸れそうになるのを抑え、話を戻す。
「んで、五十年前に霧が現れた。これが、全ての始まりだな」
「霧…………確か、行ったきり誰も帰ってこないってあれよね」
リーナは自身の記憶から、霧という存在についてを口にした。それに、バーンズは頷き話が進む
「そうだ、始まりはその霧だ。あれが現れてから、この大陸は霧に閉ざされて国は飲み込まれていった…………霧の先に何があるのかは分からない、向こうに調査をしに行った連中は揃って帰ってこなかった。故に、国が飲まれそうになれば人がこっちの国を国に流れてき、各国は急激な人口の増加から、食料問題に苦しむことになった訳だ」
「そこに、オータムの滅亡ってことか……」
「そういうこった。つまり、この戦争の大元にあるのは、この霧のせい……そして、その先にある何かのせいって訳だ」
バーンズは、現状を簡単に説明し終え、机に置いてあった水を飲みながら喉を癒した。
セヴラン達も歴史は簡単に理解した。というよりは、元より知っていたことに知識が増えたといった形であった。だが、最も疑問である点には触れられていなく、セヴランはそこを追及するのであった。
「バーンズ……俺が聞きたいのは歴史の話じゃない。ヴァンセルトの言った終焉という言葉、そして竜の血を引く者って言葉だ」
「そうね、それは私も知りたいわ」
セヴランのこの追及に、今まで黙って話を聞いていたエメリィも話に食いついてきた。これにはセヴランも少し驚くが、バーンズから話を聞き出すには丁度いい圧力になると判断した。
「……そうだなぁ……まあ、終焉に関してだが、これはこの霧に飲まれることって思ってくれたらいい。竜の血を引く者ってのは、セヴラン、お前のことらしい」
「…………は?」
訳が分からない。気持ちを一言で表すとしたら、正にこれであろう。セヴランはバーンズの言った言葉の後半部分の意味が分からなかった。
「俺が……竜の血を引く者?いやいや、何言ってんだ?」
セヴランは思わず、バーンズの言葉に理解が出来ないと言葉を吐いた。ここまでは、バーンズも予想していたのか、ため息をついて、仕方がないと首を振った。
「まあ、そう言うのは分からんでもないがな。だが、これに関しては俺様も正直なところよくは知らん。ただ、お前の存在がこの終焉に対する切り札になると、聞いてるだけだからな」
「聞いてる?それは誰?」
エメリィは、バーンズが不意に漏らしたその言葉を聞き逃さなかった。それが何なのか、それを知ることが今後の行動を決めることとなる。この場にいた者達は、何故かそう確信できた。
そして、バーンズは一呼吸置いてから言葉を口にし
「…………残念ながら、それは分からん。なんせ、会ったことさえないからな。ただ、この国どころか、この世界を守ろうとしてる人物ってだけは言っておくよ」
バーンズは、三人にただそれだけを伝えたのであった。
どうも、作者の蒼月です。
今回は、この戦争の始まりについてのお話ですね。これは、あらすじにも書かれており、この世界の軍人ならばだいたいは知っていることになります。
重要なのは後半部分、セヴランが竜の血を引く者と言ったバーンズのことですね。
バーンズは一体、これだけの情報をどこから仕入れているのか、そしてロイヤルガードからの誘いを断ってまでこの国にいるのは何故なのか。ここら辺を、徐々に書いていきたいところです。
後、投稿ペースを維持したい……(願望)
では、次も読んで頂けると幸いです。




