第百十九話~信頼せし仲間~
ロイヤルガード、リターシャの前に躍り出たのはエメリィ。天才魔導師として、魔法の腕では大陸随一。武勇で最強とされるロイヤルガードと、魔法における最強のエメリィ、その戦いが実現しようとしていた。
エメリィは見る、目の前の化け物を。自分と同じく戦場に立つ女、それは決して多いものではなく、戦場にいる時点で強い意思のある者であると分かる。そして…………
……ロイヤルガードのリターシャ、聞いてはいた通りではあるけど…………本当に化け物ね。
リターシャは武人として剣を構えている、ただそれだけ。しかし、そこからは実力のある者の感じ取ることの可能な、はっきりとした気が伝わってきた。
……凄いわね。流石に、ロイヤルガードの称号は伊達じゃないってとこかしら…………。
エメリィが感じたのは恐怖に似た何かであった。これは危険だ、戦えば死ぬ、そう本能が告げるのだ。それ故に、額には嫌な汗が流れ、背筋は凍るかのようである。他のセヴラン達も同じなのだろうと、エメリィは杖を構えつつ戦闘の構えを見せる。
「貴方は……魔導師エメリィですね。貴方の数々の功績、聞き及んでおります。が、所詮は魔導師、私に一対一で敵うとお考えで?」
「あら、貴方みたいな人に知られているなんて嬉しいわね。けど、魔導師のことを侮ってるようじゃあ、貴方もまだまだね」
エメリィはリターシャの気迫に圧されることなく、強気に発言をする。だが、その言葉の後半部分は、魔導師を侮辱されたことに対する怒りを静かに表していた。
そんなエメリィの感情に気付きつつも、リターシャは構わず言葉を続ける。
「事実です。いかに貴方が、強力な魔法を操る魔導師といえど、我らロイヤルガードの敵ではない。故に、もう一度警告します。降伏してください、今なら命の保証はします」
「断るわ」
即答であった。エメリィは迷いなく、リターシャの最終勧告を断ったのであった。
「もとより、この無意味な戦争を続ける貴方達を認める訳にはいかないわ。だから、貴方達がどれだけ強かろうと、私達……ブラッドローズに後退はないわ!」
「…………そうですか、では、容赦はしません」
リターシャは、最終勧告を受けなかったエメリィに対し、剣を再び構え直す。同時に足に力を込め、そして………………瞬間にしてエメリィに迫った。
馬鹿げた速さ、身体強化を用いたリーナと同等の速さであり、普通の身体能力で肉弾戦などをすることなど出来ないエメリィでは、リターシャの高速の攻撃を避けることは不可能。そもそも、範囲と威力を持つ魔法攻撃を主とするエメリィの戦闘の間合いは中距離以上。リターシャはその間合いを瞬間で詰めることで消し去り、自身が優位になるように動いたのであった。
その速さにエメリィはついていけない…………だが
「あら、それだけで私を仕留めれると思ってるのかしら?」
「なッ!」
エメリィは、リターシャの剣を受け止めたのであった。
あり得ない、リターシャはその考えで思考が埋まり、目の前の現象の理解が遅れる。そして気づく、己の剣を受け止めた正体を。
「風を……集中させている!?」
「ご明察、よく一目で見抜いたわね。流石、文官として帝国一なだけはあるわね」
リターシャは止められた二刀の先が、空間が歪むように目に映った。そして、それが風の魔法であると一瞬で見抜いたのであった。
……風の魔法の応用?これも、我が国にはないものだな。研究の為にも情報は欲しいところだが、ヴァンセルト卿の指示を優先しなければ。
剣を止められたリターシャではあったが、それだけであった。確かに、リターシャの剣を止めるというのは並大抵の者では不可能なこと。だが、ただ止めるだけであり、リターシャからすれば得た情報が増えただけであった。
故に、リターシャは動く。素早く一定の距離を開け、その背後へと回り込む。次は最も素早く放てる突きを、反撃の隙を与えないように攻撃を選ぶ。しかし、エメリィもまた即座に動いていた。
「あら、無粋ね。もっと付き合ってくれてもいいのに」
「ッ!」
背後へと回ったリターシャ、その時間はほんの僅かであり、隙といえる隙ではなかった。だが、エメリィからすればその瞬間があれば充分であった。
一度展開された風の壁、それはリターシャの動いた隙に形を変え、風切りの刃となってリターシャの襲い掛かった。
無数の風の刃は実体を持つように目に捉えれる姿となり、リターシャに一直線に向かい飛ぶ。これに、リターシャは回避と斬撃での叩き落としで防御し、リターシャの攻撃を無力化してゆく。
「どれだけの数で攻撃しようと無駄です」
「あらそう?なら、こんなのはどうかしらッ!」
リターシャの冷静な対応。対するエメリィに余裕といえる余裕はない。普通の人間なら即刻で戦いを終わらせることの可能なこの魔法、これを受けて無傷というのが余裕のないというその証拠だ。だからこそ、エメリィは出し惜しみなどすることはしないのだ。
杖を掲げると同時、背に装備していたうちの二本の杖がひとりでに中へと飛んだ。そしてそれは、エメリィの横の地面へと勢いよく突き刺さり、複数の色と古代の文字列の書かれた魔法陣を周囲に無数に展開させた。
……セヴラン、リーナちゃん、私だけじゃあ足止めが限界よ。だから、早くそっちをなんとかして皆を助けなさいよ。
エメリィは、戦場で戦う仲間を信頼し笑った。そして、己の全力を目の前の敵にぶつけるのであった。
どうも、作者の蒼月です。
今回は、魔法を使うエメリィのお話…………ではありましたが、戦闘シーンはあまり書いてません。尺の都合というのもありますが、魔法は主に今後書く予定なので。
まあ、魔法に関してもいずれはEX回で書くとは思うので、詳しい情報はそれからですね。
では、次も読んで頂けると幸いです。




