第百十四話~十二の軌跡、紅き騎士の軌跡~
……これはかわせないでしょッ!
ヴァンセルトの背の側から振り下ろされる二つの軌跡。ヴァンセルトは既にセヴランの攻撃を受ける為に体勢を崩しており、これに対応することはヴァンセルトといえど不可能とリーナは判断する。その剣の軌跡は確実にヴァンセルトに迫り、今にもその命を狙わんとしていた。
セヴランとリーナの完璧な連携から生み出された一撃、これにはヴァンセルトも対応は出来ない……………………………………
……………………………………………………筈であったのだ。
剣は振り下ろされた、それは事実であり、リーナは確かに剣を振るったのだった。だが、リーナはその手から伝わる感覚は人の身を切り裂く感覚ではなく、硬い何かにぶつかる感覚であった。
……え、何が?
リーナの思考では何が起きたのかは、とっさには理解出来なかった。しかし、視界からは一つの現実を突きつけられ、遅れながらリーナは何が起きたのかを理解する。
……まさか、剣を投げた!?
リーナの瞳に映ったのは、セヴランの攻撃を防ぐ為にスライドさせて逆手持ちのように剣を自身へと引く動きを見せていたヴァンセルトが、後ろへと振り返らぬまま剣を後ろへと投擲したのだった。それも、正確にリーナの剣の刃へと向けてだった。
リーナの振るった量の剣のうち、右の剣はヴァンセルトの放った剣の柄が命中し、弾かれることとなった。それによりリーナは体のバランスを崩し、ヴァンセルトへと放った左の剣の軌道を反らされ、それが命中することはなかった。
セヴランは後方へと飛び距離を取り、リーナも足が地に着くと同時に全力で蹴り、ヴァンセルトから急ぎ離れた。
その間、ヴァンセルトはリーナの剣とぶつかり、ヴァンセルト側へと弾き飛んだ己の剣を掴み取り、再びセヴランとリーナに挟まれる形となった。
セヴランとリーナが構え直し、それにヴァンセルトも合わせて剣を構え直すと同時、ヴァンセルトは己に迫る別の殺気に反応する。
「ッてぇぇぇ!!!!」
鋭い掛け声、ヴァンセルトが気付いた殺気の方向にその声はあり、一人の指揮官が二小隊に槍の投槍を命じたのだった。
十二人からそれぞれ一つの槍が放たれ、合計十二の槍がヴァンセルトへと目掛けて直進する。
……これは、避けれんか。
ヴァンセルトは影を見や否や、瞬間の時を何倍にもしたかのように体感時間を引き伸ばした脳内で、自身のとれる最善手を見いだす。
……槍を回避するのは容易い……が、避ける一瞬の隙を見せればこの二人の刃を貰いかねんか…………ならば、全て叩き落とすまでのこと。
ヴァンセルトは瞬間で判断を下す。そして、迫る槍の雨に向けて剣を構えた。
迫り来る槍の群、これにヴァンセルトは自ら踏み込む。
迫る槍の一つ目、これをヴァンセルトは剣を持つ右手とは逆、左手で掴み、槍の速度を落とす為に左足を軸に回転して槍を自身の手にした。
右に大剣、左に槍、どちらも片手で使うことを想定していない武装ながらも、ヴァンセルトはそれを軽々と扱い二本目以降の槍へと振り向く。
続く二本目と三本目、その二つをまずは右の剣を回転する要領で振り回して弾いた。しかし、ヴァンセルトと槍の流れは止まらない。
続く四本目には振り抜いた剣を力づくで切り返し、外へと弾く。
連続の剣の振り抜きでヴァンセルトの体勢は少しバランスを崩した形となる。故に、重量物である大剣の振り抜きを抑える為に、その大剣を真上へと高く放り投げた。
そして、その間にもヴァンセルトへ槍は迫り、五本目を槍を振り上げる動作で上へと弾く。
振り上げた槍を手の内で回すように回転させ、六本目と七本目の軌道を反らす。
槍はヴァンセルトの手足のように扱われ、投擲された槍を弾く際に生じる衝撃さえも利用しその流れを続ける。
迫る八本目、これを槍を右手だけで制御し、横へ薙ぎ払う要領で振るう。
八本目をこれで弾くと、始めに下に叩き落とした槍の持ち手を勢いよく踏み、反動で上へ持ち上げると空いた左手でそれをキャッチする。槍を二本構えるという尋常ではない筋力を見せるヴァンセルト、だがその動きは更に加速する。
続く九本目と十本目は、左右それぞれの槍を叩きつけて地に落とさせる。
十一本目は降り下ろした槍の内左の槍を地に突き刺し、これを体を制御する為の軸とし、地を蹴り飛びつつ左腕で軸を回るような軌道で動き、迫った槍の側面を蹴り飛ばした。
そして最後の十二本目、直線のこれをヴァンセルトは中に浮いているのを地に突き刺した槍を掴む左腕の力で無理やり自身を地に落とし、右手の槍で穂先と穂先をぶつけてこれを弾いた。
十二本全ての槍を対処したヴァンセルト、だがやられるだけではなく、左の槍を地から引き抜くと全力を持って槍を投げてきた敵に向かい投槍し、返礼と言わんばかりに投げ返した。
ヴァンセルトによって投げられた槍はもはや音を置き去りにして兵士達へと向かい、槍を投げた者達はこれの回避が間に合わず二人が槍に貫かれた。更には、圧倒的威力を持つ投槍は兵士を貫く瞬間、ぶつかる衝撃波を回りへと撒き散らし周囲の兵士達も吹き飛ばされることとなった。
ヴァンセルトは槍を投げ終えると上から落ちてきた、いや、自身が放り投げた剣を手で掴み、一瞬の攻防はヴァンセルトの実力の一旦を見せるだけに終わった。
「さぁ、悪くはなかったが時間もない、次は何をしてくれるのだ?」
ヴァンセルトは正面のセヴラン、そして背後のリーナに向けて実力を見せると同時に、圧倒的強者の余裕を無表情という形で見せるのであった。
どうも、作者の蒼月です。
さてさて、昨日と一昨日は忙しく投稿出来ませんでしたが今日は投稿しますよ~(昨日のうちに作れなかったんで)
まあ、そんなことより本編ですね。今回はヴァンセルトの一連の動きしか書かれてないんですけどね。(本当はもっと書きたいんですが、一話2000文字ぐらいにしてますからねぇ……)
今回の戦闘シーンのイメージとしては、fate.zeroのアーチャーvsバーサーカーのシーンですかね。多分、あれが最も近い映像なんで。英霊と同じ動きをするヴァンセルトって何なんですかねぇ……(自分で作っておきながら)
結論としては、ヴァンセルトは異常!(こんな後書きですみませんm(__)m)
では、次も読んで頂けると幸いです。




