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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第五章~集いし精鋭、特務部隊は動き出す~
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第百二話~新たなる篝火~

「はぁ……終わんねぇな…………」


 紙をめくる音だけが響く静かな部屋の中、セヴランは資料の山に目を通しつつ小さく呟いた。

 リーナに部屋に案内されてから、休むことなくただ資料を読んで覚える単調な作業。永遠と繰り返すこれに、セヴランは疲れから僅かな頭痛を得ていた為、頭を休めようと椅子に座っている体を背もたれ側に傾け、天井を見上げるように視線を外した。


「新しい魔法……この植物もそれの一つなんだよな……」


 セヴランの視線の先、天井の植物に向けて得た知識の確認をする。植物を操っている新しい魔法、資料によればそれは光の魔法であるらしい。


「対象を見分けて、相手に合わせて自動で行動……進入者に対する対策魔法の一つ……か……」


 セヴランは資料の山の中から、まずは魔法に関わるものを優先的に調べていた。そこには、この植物やこの地下都市の太陽の仕組み、戦場で世話になった回復魔法のことなど、様々な情報が書かれていた。

 だが、今まで休みなく資料に目を通していたセヴランではあったが、資料の1割さえも読めていないのが現状であった。


「これだけの資料、いくら字が読めるっていってもしんどいもんだな」


 そう、セヴランは当たり前のように字が読める。もちろん、この都市に集まっている者達も字は読める。フィオリス国の者であれば、大抵の者は字が読める。だが他の国では、流れ着いた小国の者達は字が読めない者達が殆どであり、資料が読めるというのは情報共有では有用なものであった。

 セヴランは再び資料の山から幾つかの紙を抜き出し、それらに目を通してゆく。そんな作業を再開した時、急に部屋の扉が勢いよく開かれた。


「どうセヴラン、捗ってる?」


 リーナは扉の影から顔を覗かせ、労いの笑みを向けていた。セヴランはリーナの笑みに何か嫌な予感を感じ


「なんだ、まだまだ仕事は終わらないぞ」


 セヴランは椅子から飛び上がり、資料の山がある机から距離をつくった。その瞬間、セヴランの座っていた椅子は、天井から伸びてきた植物に包まれるように持ち上げられた。

 植物の不可解な動き。だが、これが魔法による操作と分かったセヴランはため息を吐き


「はぁ……今度はなんだ。まあ、また魔法の試験運用ってとこか」


 セヴランの立てた予想、その回答にリーナは満足気に頷き


「うん、正解~。まあ、貴方を呼びに来たのもあるけどね」


「呼びに来た?」


「えぇ、もう夜の九時よ。貴方、軽く十時間近くは資料と向き合ってたのよ。そろそろご飯でも食べないと、倒れないまでも頭は回らないでしょう」


 セヴランは資料を読むことに没頭していた為、時間の経過を考えていなかった。リーナの指摘でようやく時間のことを思いだし、ポケットから取り出した時計の蓋を開き時間を確認し


「九時十三分か……凄いな、時間が分かるだけじゃなく、こうやって時間を他の奴とあわせられる……凄いもんだ」


 セヴランは、時計という道具の凄さを身をもって実感していた。それまでの時間というものは、大まかな時間を表すものであり、そこまで使い勝手のいいものではなかった。それが、時計というものの使用により実用性のある時間となっていた。


「まあ、時計以外にも貴方の喜びそうなものは、資料にまとめてあるわ~」


 リーナはセヴランの思考を理解していたが故、セヴランの求めている情報の存在を教えた。セヴランもそれに安心し、本題へと話を進める。


「それで、これからどこに行くんだ?」


「一階の階段横に奥に続く廊下があったでしょ?その先にある大食堂よ」


 セヴランは自身の辿ってきた道を思い返し、リーナの言う階段の横の廊下を思い出す。それは確かに記憶にあり、どこに行くのかを理解する。

 そして、セヴランは植物から離された椅子を元の位置に戻し


「なら、とっとと行くか」


「そうね」


 二人は部屋を後にし、一階の食堂に向かうのであった。




 階段を降り、入り口から見て奥へと続く廊下に二人は進んで行く。


 ……奥もまあまああるんだな、気づいてなかったな。


 セヴランは歩きつつ、建物の構造を少しずつ把握してゆく。本来であれば、資料の中にこの都市や建物のものもあったため調べることは可能であったが、セヴランは魔法に関わるものを先に調べていた為に建物のことは調べていなかった。

 正面から見て左右に広い建物、しかし、実際に廊下を進んで分かったことは、左右だけでなく奥にも広く、想像以上に巨大な建物であることであった。


「ここよ、もう皆待ってるわよ」


 先導していたリーナが一つの巨大な扉の前で足を止める。そして、重々しいその扉をリーナは高手で押し開き…………


「お、隊長じゃないですか!皆、セヴラン隊長のご登場だぞ~」


 扉を開いた先、そこには特別遊撃隊に属する一人が何か食器を抱えており、扉の先のセヴランに気づくと奥にいるであろう者達にセヴランの到着を伝えた。

 セヴランは部屋の中へと足を踏み入れ、視界に広がる大量の長机や隊員達の姿を目にする。


「遅かったな、セヴラン。お前で最後だぜ」


「仕事熱心なのもいいですが、それ以上に食事の時間は大切ですよ」


 入ってきたセヴランに声を掛けるバウルとギーブ。見ると、隊員達の座るであろう場所には料理の数々が大皿に用意されており、初めの隊員が運んでいた皿にこれから盛り分ける前といった様子であった。


「おいおい、なんだこの食事……どっかの王属の食事じゃないんだぞ。これ、俺達が食うのか?」


 セヴランは机に並べられた大量の料理に、貰う食事を間違えたのではと思ってしまう。今までは食事が出来ない日があるのも普通であったし、贅沢をすることなどほぼなかった。

 しかし、隣のリーナはさっさと自分の席を確保し


「いいのよセヴラン。貴方達にはここまで休みなしで働いて貰ってたんだから。今日は、特別にご馳走よ。嫌なら食べなくてもいいけど?」


 リーナはこの豪華な料理が振る舞われた理由をセヴランに伝える。バウルらは既に知っていたのであろう、特に変わった反応を見せることもなく、自分の食事を皿にとる作業をしていた。

 セヴランは僅かながらに悩んだ。はたして、自分達がこれだけの料理を食べていいのかどうか。……だが、理由は教えられた通りであり、それを断る理由も、またなかった。


「勿論もらうさ。今日は、久し振りの祭みたいなもんだな」


 セヴランは入隊してすぐに行われた戦闘を思い出す。輸送の護衛中に盗賊に襲われ、しかし、カーリー大将らと共に退けたあの戦い。その夜には祭が行われ


 ……確か、あの時も飯を食って盛り上がったんだったけな……


 僅か一ヶ月程前の出来事でありながら、はるか昔のように感じる思い出。ここ暫くの間に経験したことの濃さを、それは物語っていた。

 そんな思い出に浸りつつ、周囲では全ての用意が終わり、セヴランも空いていた席の一つに着く。それを確認したリーナは、おもむろに立ち上がると辺りを見渡し


「皆、さっきも言ったところだけど今日は貴方達の働きにたいする報酬みたいなものよ。今日はここ最近の疲れをとるためにも、満腹になるまで食べるといいわ。……それじゃあ、乾杯」


『乾杯ッ!』


 水が注がれたグラスが、それぞれ乾杯の合図として軽くぶつけられる。そして、皆料理にありつき、会話をし、様々な気持ちをぶつけあう宴会が始められた。


「カーリー大将……今日ぐらいは、騒いでも問題ないですよね」


 セヴランは祭好きであったカーリーに届くことのない言葉を送り、この宴会を楽しむこととした。


 こうして、セヴラン達は久々の息抜きが出きるのであった。入隊早々の実戦、国境での迎撃戦、七極聖天相手の撤退戦、様々な死線を潜り抜けてきた彼らは疲れきっていた。だが、ようやく得た休息は、彼らに限りない癒しを与えるのであった。


 そしてこれが、また新たなる戦いへと向かってゆく彼らの出発点でもあったが、それはまだ誰も知るところではなかった…………

どうも、作者の蒼月です。

今回は少し長かったですが、内容で言えば飯食ったぐらいなんですよね~

ですが、ここからそろそろ物語も再スタートするので、重要なポイントの一つでした。


まあ、忘れてる方も多そうですが、セヴランとリーナの関係はどうなったの?という方もおられるかもしれませんが、あれはもう少し先で書くつもりなので、気長に待ってもらえたら。まあ、あまり恋愛模様のある作品ではないので、オマケみたいなもんですが……


では、次もまた読んで頂けると幸いです。

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