第九十八話~結ばれる手~
模擬戦は終わった、セヴラン達の勝ちという結果で。
模擬戦が終わったことにより、観客席から見ていた者達は散り散りに解散してゆく。そんな中、闘技場に残ったのはセヴランとリーナ、モースら十八人、そしてバウルやギーブら特別遊撃隊の面々であった。
「何故だ……俺達に何が足りなかったんだッ!」
残された者達が生み出す静寂の中、響くモースの叫び。しかし、残された者達はそこに言葉をつくれず、あるのは静寂による返答だけであった。
だが、そんな静寂を続けることはなく、セヴランは重い空気を断ち切る為に言葉をつくる。
「モース、別にお前達の力が無かった訳じゃない。むしろ、実力があったからこそ、今回は負けたんだ」
セヴランのモース達に掛けた言葉。それは冷静に聞けば単なる意味深な言葉であり、続きがあるのは想像に難くない。しかし、冷静さを欠いたモースには、回りくどい言い回しは神経を逆撫でするだけであり
「実力があっただと……我々を哀れむつもりかッ!」
モースは今にも飛び掛かりそうな程食いつくが、しかし、自分達の実力を重い知らされてすぐなのが響いているのか、柄に当てた手が剣を引き抜くことはなかった。
「別に哀れむとか、そんなんじゃない……本当に、お前達の力は高かったんだ。少なくとも、俺の想像以上にはな 」
セヴランは自身の抱いた感想を、包み隠すことなく告げる。
それが、真実としてモース達に信用してもらえるかは別の話であったが…………。
「…………なら何故だ、何故力がありながら俺達は負けたんだ。人数の差があって負けてるのに、実力があるってのはおかしな話だろ」
モースは冷静になったのか口調を大人しくさせ、話方も砕けたものに変えていた。おそらく年が近いこともあり、少しは打ち砕けたのかとセヴランは考えるが、今はそれを確認出来ないと話を続け
「…………簡単だ、今回の結果は単に実戦の経験差だ」
「実戦?我々とて、何度も実戦形式の訓練は――――」
「それじゃあ意味がないんだ。必要なのは実戦そのものだ」
モースの言葉を遮るように、セヴランは己の経験から確信を持って強く告げた。
「リーナ、こいつらは今まで実戦は行ってないよな?」
唐突に話を振られたリーナ、だがセヴランからの言葉を待っていたリーナは話しかけられたことになにやら嬉しそうに答え
「えぇそうよ。私達の部隊で戦闘経験があるのは私とバーンズとエメリィにキル、これぐらいでしょう。私でさえ、ついここ最近までは実戦経験はなかったのよ、彼らはその情報を漏らさないように隠れててもらったからね。実戦経験はまだないわ」
「そうか、ありがとう」
リーナに聞かされた内容は、セヴランの想像通りであった。
「まあそうだよな。こんな小さい国で実戦が起きてたら、それこそもう侵略されてるさ。実戦経験があるやつなんてのは、今頃こんなとこにいないだろう。」
セヴランは遠い瞳で空を見上げ、少し前までいたサファクイル基地での戦いを思い出す。
フィオリス国内で数少ない実戦経験を持つ国境警備隊、そんな彼らでさえ侵略を続けてきた農民の集まりである大群を抑えることさえ出来なかった。これ以上の実戦経験を持つ者達など、話で聞くパラメキア帝国側にいる部隊程度であろう。ならば、ここにいるセヴラン達と同年代の子供ごときが実戦経験を得ていないのは想像に難くなかった。
「まあ、意図的に実戦をさせていない節も見えなくはなかったがな…………」
「どういう、ことだ?」
セヴランが意図せず漏らしてしまった言葉にモースは分からないと首を傾げるが、セヴランは余計なことだったと言葉を続けなかった。
……そもそもこの部隊、少数精鋭で奇襲や一撃離脱を狙う構成だ。実戦経験を与えてないのは機会が無かったのもあるだろうが、敵に情報を与えない為だよな……なら、余計なことを部下に考えさせないあたり、リーナも少しは成長したってことか。
セヴランは、モース達に余計なことを考えさせない為だと理解し、単純ながらも効果的な方法だと感心しながらリーナに視線を寄せ――――
「え、別に実戦させてないのなんて面倒だからよ?下手したら死ぬのよ、実力も足りないのに無理に決まってるでしょ」
セヴランの答えは外れていたようであった。
「え?えぇ……なんか、考えるのがアホらしくなってきたな……」
……そうだセヴラン、よく考えてもみろ。あのリーナがそんな回りくどいことを考えれる訳がないじゃないか。何を馬鹿なことを考えていたんだ俺は……
セヴランは考えることは、己の仕事なのだと改めて実感させられるのであった。
もう戦闘も終わり、セヴランは腰の鞘に剣を納めるとモースらも全員が集結し
「セヴラン、その……悪かったな、実力は認める。今後からはよろしく頼む」
何事かとセヴランは驚きの表情を隠しきれなかったが、そこには手を差し出すモースの姿があり、自分達が多少は認められたのだと理解した。
故に、セヴランも同じように手を差し出し
「あぁ、これからは同じ仲間だからな。よろしく頼むよ」
二人の手は固く握られ、ようやくセヴラン達がブラッドローズの面々に認められることとなった。
「よし、ならこれで大きかった問題は解決ね~それじゃあ、この基地の案内をしておくわね」
リーナはセヴラン達とモース達の溝が多少ながらも埋まったことに頷きながら笑みを浮かべ、セヴラン達はこの基地の案内をされることとなったのであった。
どうも、作者の蒼月です。
本当にッ!スミマセンデシタァァァァァァァァァァァァッ!(;´д`)
説明の欄に3日に1度の更新と書いておきながら、これだけ投稿の期間を開けてしまい本当に申し訳ありませんでした。
言い訳にはなるんですが、ここ最近パートで入っている仕事が忙しく、疲れからか夜寝てしまって小説を書けませんでした。なんとか、小説を書ける時間が欲しいです……
あと、今回の話もあんま内容はないです。私は、日常パートを書くのが本当致命的に下手なので、これから暫くも見るに耐えないものになるかもしれませんが、最大限の努力をしたいと思います。
では、次も読んで頂けると幸いです。




