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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第五章~集いし精鋭、特務部隊は動き出す~
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第八十六話~目的固まれど気持ち揃わず~

「さて、ではこれからどうなさりますか、もう王都へ出発されるので?」


 ブラッドローズ、そして方面軍のそれぞれの方針が決まったことにより、セルゲノフがリーナに今からの行動を問う。

 リーナは、これに僅かに首を傾けて唸り、一度頷くと指を弾いて鳴らした。


「キル、そこらへんにいるんでしょ?出てきて頂戴」


 リーナはそこにいる筈のないキルの名前を呼んだのであった。リーナの行動に誰も疑問はしない、既にキルが隠密であり気配を消せることは知っていたからだ。故に、何処から現れるのかとセヴランやセルゲノフ達は周囲を見渡すが……


「…………いないのか?」


 見当たらず、不意にファームドが言葉を洩らした時、その背後に影が現れた。


「残念……ここにいるぞ」


「――――――なッ!?」


 ファームドや方面軍に属するセルゲノフ達は、その唐突な出現に驚きを隠せない。慌てて振り向くが、既にそこにキルの姿はなく


「俺を目で捉えようとしても無駄だ……気配も同様……自分の感覚が正しいなどという保証はないのだからな……」


 気がつくと、キルはセヴランとリーナの間に現れていた。どういう原理かは分からないが、セヴランにとってそれは言葉通り一瞬で移動したように感じたのであった。


 ……おいおい、最大限警戒してたのに気配を微塵も感じ取れなかったぞ……どういう修行を積めばこうなるんだよ


 セヴランは、キルの技量を評価するとともに、その異様なまでの実力を恐ろしくも思えた。

 キルはそんなセヴランの内心を知ってか、ローブの内で作った笑みをセヴランに向けたのであった。


「まあ、からかうのはこれぐらいにして……姫のほしいのは足だろう?それなら、台車ごとフェザリアンを用意してある……」


 キルは言葉を告げるとともに、いままで被っていたローブのフードを下ろし、その透き通った青い瞳と、濃い紺色の髪を晒した。

 今までは声しか特徴が分からず、青年と言えずとも中年ではない程度の事しかセヴランには分かっていなかった。セヴランのその予想は正しかった。その姿は二十代半ばといったところであり、比較的若い見た目であった。しかし、口元は布で覆われその表情のすべてを窺い知ることは出来なかった。


「そう、それなら今すぐにでも私達は王都へ向かいましょう。レギブスの進行を止めた今、パラメキアとレギブスの主力もそれぞれ、私達の存在に勘づくでしょうし」


 リーナはやれやれといった感じに首を振り、すぐに移動することを決定した。


「分かりました、では我々は新兵を訓練するとともに次の襲撃に備えます。くれぐれも、どうかお気をつけて」


 セルゲノフは旅立つリーナに敬礼をし、並んでラムスとファームドも敬礼を送った。


「ありがとう、また暇があればここに寄るわ。その時まで、皆元気でよろしくね」


『はッ!』


 リーナはここまで世話をかけたセルゲノフ達に、感謝の気持ちを表す為に穏やかな表情で微笑みかけ――――ここからは戦場と、次の瞬間には兵士としての表情に戻し


「それじゃあ、ブラッドローズは直ちに基地へ戻るわ。皆いいわね」


「おうよ!」

「いつでも大丈夫よ」

「……了解……」


 リーナの言葉に、バーンズ、エメリィ、キルはそれぞれ了解の意を伝える。彼らは元々からのブラッドローズの面子であり、リーナの発言に即答で答えた。


 そして、今回からはここに一人、新たに声が加わることとなった。


「あぁ、いつでもいける」


 新たな隊員であるセヴラン、彼もまた、リーナの発言に応えてブラッドローズの代表である五人は行動を開始する。

 部屋の扉が開かれ、闇たる夜を進むために彼らは、セルゲノフ達に見送られながら会議室を後にした…………。




 山を繋ぐように建てられた砦は高く、その上層部分から降りたセヴラン達五人は山に挟まれている奥の基地部分へと進んだ。

 山の麓となる両側に建物が集中する形の基地では、中央の開けた場所には増援としてきた新兵の大群に、銃装隊に群がる兵士達の姿が広がっていた。


「リーナ様、お戻りになられましたか」


 基地へと入った五人を迎えたのはブラッドローズの面子、それも行軍中に騒ぎを起こした代表の者であった。


「あら、お出迎えかしら?まあ、それはいいけれど、他の皆を集めてくれるかしら?」


「問題ありません、既に全員移動の用意を済まして待機中であります」


「準備がいいのね、助かるわ」


「感謝されることではありませんよ、当然のことをしたまでです」


 男は、リーナに誉められたのが嬉しいのか明らかに気分がいいと表示に表れていた。だが、これにより残るはリーナによってブラッドローズに組み込まれた特別遊撃隊の面々を集めれば移動がすぐにでも行える状態になっていた。


「ところで……その男はいつまで我々と?」


 気分をよくしていた筈の男は、ここでもセヴランに食い付き、明らかな敵視を向けた。これにはセヴランも苦笑いでしか返せなかったが


「貴方達にはまた連絡するわ、今は余計なことを考えないで待機してて頂戴」


「…………了解しました」


 男は、リーナに黙るように間接的に伝えられ、軽く舌打ちをしながら身を引いた。


 セヴランはひとまずの危機が去ったことに安堵のため息を吐き


「なあ……確かに、いきなり新参者が部隊の上に立てば反発が起きるのは分かるが、これは受け入れてもらえるのか?」


 セヴランの疑問に、リーナは面倒だと額に手を当てて頭を落とし


「さあね~まあ、これからの努力次第じゃないの?」


「適当だなぁ…………」


 フィオリス王国が誇る、五年以上を掛けて作られた特殊精鋭部隊ブラッドローズ、その先行きはいきなり曇り加減であった……。

どうも、作者の蒼月です。

またセヴランが嫌われている回です。前はサファクイル基地へ到着した際のファームドに怒られた辺りですね、なんか懐かしい感じです。

暫くは戦闘がないのですが、模擬戦みたいなのはまたあるので、戦闘はそれまでお預けですね~(この作品、戦闘がメインだというのにこれいかに……)


では、次も読んで頂けると幸いです

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