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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第五章~集いし精鋭、特務部隊は動き出す~
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第八十五話~方針~

 会議の熱が去り、穴が空いたように冷めた空間。冷えた会議室には七つの影。それは、セヴランを含むリーナ達ブラッドローズの代表と、セルゲノフ達方面軍の指揮官であった。

 多くの将官達が去った後、この七人はようやく本題の会議を始めようとしていた。


「さあ、これでようやく必要な情報も伝わったことだし、本題といきましょうか」


 部屋の中央、七人はテーブルを囲むように立って並び、その表情からは今までの明るさなど微塵も感じられない重たさを感じるものだった。


「では、まずは今回の増援について詳しく聞かせてもらえますかな?」


 間髪いれずに質問をぶつけたのはセルゲノフであった。そして、彼の質問に同調するかのようにラムスとファームドの二人も視線をリーナに向けていた。


「そうね……まず、あの増援は貴方達が自由に使える戦力で間違いない…………けれど、五年を掛けて鍛え上げたけれども実戦経験はまだない素人集団よ」


「やはりか…………」


 セルゲノフは、己の中で想定していた可能性が合っていたことに肩を落とした。

 これだけの増援は確かに心強いが、それは正規の部隊での話だ。いくら長い時を訓練してきたとはいえ、実戦において生き残れなければ意味はない。基礎を教える手間が省けただけであり、実戦における増援の数は殆どないと言ってよかった。また、これだけの兵に戦いを実戦の中で教えていくことは、いくら歴戦の兵士といえど難しいものであった。

 これだけの増援を手にしながらも、セルゲノフ達を取り巻く環境はいいとは言えないのであった。


「でもまあ、そんなに悲観しなくていいわよ」


「……というと?」


 悩めるセルゲノフの不安を少しは和らげると、リーナは三人の喜ぶであろうことを告げる。


「この増援の中には、銃装隊も含まれてるわよ。確か……六百は超えてたかしら、二人は分かるでしょう?」


 銃装隊、聞き慣れない言葉にセルゲノフは眉をひそめたが、リーナに言葉を向けられたラムスとファームドの二人は、己の記憶の中から一つの光景を思い出す。それは、防壁上から敵の鎧を砕く銃装隊の姿であり


「銃装隊を我々が!?」


「六百もの隊で頂けるのですね」


 ラムスは目に見えて驚き、ファームドは冷静を装ってはいたがそこに喜びがあったのは明らかだった。セルゲノフも、二人の様子から銃装隊が有用なものであると理解し


「リーナ姫、その銃装隊とやらは、後で見せてもらえますかな?」


「別に、もう貴方達の部隊なんだから自由にしていいわよ。けど、私を姫って呼ぶのは止めてくれないかしら?堅苦しいのは、もうなしにしましょう」


 リーナは銃装隊のことよりも、己の呼ばれ方のほうが重要とため息混じりにセルゲノフに提案するが、立場を重要視するセルゲノフにその提案はあまり意味がなく


「分かりました。ではリーナ様で良いですかな?」


「えぇ……もう、それでいいわ……で、新兵混じりに部隊は大丈夫なの?」


 もはや自分の呼ばれかがこうなると諦めていたリーナは次の話題へと話を進める。これには、ファームドが自信をもって手を胸の前に構えて


「リーナ様、新兵の教育は私にお任せ下さい。何せ、そこにいるセヴラン達の時も、教導を務めたのは私でしたから」


 ファームドは、ほくそ笑みながらセヴランを見た。


「確かに、あの時はお世話になりました。私というよりは、他の新兵の教育だったかと思いますが」


 セヴランはファームドの笑みに何故か苛ついた為、言われたままにならないように少しばかりの反論をしておいた。

 何故かセヴランとファームドは反りが合わないことがあった。それは、ここでも消えることはなく、それがまたいつもの感覚を失わせずにいた。


「まあ、セヴラン達の教育を出来たのなら大丈夫か……じゃあ次だけど、まだ魔術の部隊はいらないわよね?」


「魔術師ですか……まあ、いればこしたことはありませんが、我々の手には余るでしょうからな……」


「分かったわ。なら、魔術部隊はおいおいとしましょうか……なら、次は私達の今後ね」


 リーナはセルゲノフ達方面軍の話はこれでひとまずの終わりとした。そして、次に話題にあげたのはセヴランも含めたブラッドローズの方針についてだった。


「そうだな、これからのことはお嬢に任せてあるから、俺様も気になるとこだなぁ」


「そうね、私も気になるわ~」


 今後の方針が気になると、バーンズは顎を擦りながら、エメリィは退屈そうに机に突っ伏しながら質問を向けた。

 そして、セヴランも言葉にはしなかったが、自身の今後は気になりリーナの言葉を待った。


「私達は今後、この戦争を終わらせる為に行動する。その為にもパラメキアのロイヤルガードと、レギブスの七極聖天との戦いは避けられないわ。彼らを私達が抑えれれば、この戦争でもはや私達と戦おうなんて馬鹿は残らないでしょう……本当は降伏までさしたいけれど、それには時間がいる。だから、まずはこの英雄達を説得……もしくは殺すことが目的となるわ」


 この大陸における最強の名声を得る英雄達、それを殺すというリーナの表情は固い決意が表れており、他の者達もそれの重要さを理解する。


「そうかい……また、あいつらと戦うことになるとはなぁ……できたら、二度とごめんだったが」


 バーンズは過去に戦ったことがあるが故、その実力を知っていた。それに再び挑むというのは望まないと口では告げた……しかし、その表情は笑みを隠せず、一人の武人とし楽しみにしていた。


「そっかぁ~……魔法で私が引くわけにはいかないわよね」


 エメリィも、バーンズ同様に戦いを楽しみにしていた。それは、魔法における絶対的な自信から生まれるものであり、マリーンとの決着をつけたいというものであった。


 そして…………


 ……英雄との決戦……俺みたいな普通の人間が、戦場に立つとはな……


 セヴランは自身の今後が波乱の道しかないと理解しているため、己の運の悪さを僅かながらに呪った。しかし、同時にこれはセヴラン自身の願いでもあった。


 力なき民を守れるようにと…………


「それで、その目的の為に俺達はどこへ行くんだ?」


 セヴランは、今後の目的を理解すると次の目的地を問う。これが次の任務であり、リーナの口が開かれようとするとセヴラン達の気が引き締まる。


「そうね……まずは、私達の基地へ戻りましょうか。今の戦力だけだと、どうにもならないでしょうし」


 こうして、セヴラン達ブラッドローズの次なる目的地が決められた。それはブラッドローズの本拠地であり、未だ関係者以外その場所を悟られていない、フィオリス国最後の砦として存在する場所であった…………

どうも、作者の蒼月です。

なんか、明日までは時間があるからこの時間に投稿しそうですが、金曜からはまた夜の更新になりそうです。

ここ最近、リアルの生活が忙しくてなかなか小説が書けてませんが、頑張らないとなぁ(しみじみ)

あと、これの解説用の話を作る予定なんですが、これは字数が2000いかなくてもいいので、私の本編が書けない時に間を繋ぐ感じであげようかと思います。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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