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B and W  作者: 4492
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はじまり

21世紀末。

以前から存在を確認されていた巨大隕石が地球上に接近していた。

人類は衝突を回避しようと幾多の手段を講じたが、結果は無惨なものだった。

最終的な手段として、各国から発射された戦術核弾頭により、隕石は数多に破砕された。

そう、破砕されてしまったのだ。

ただ、人類は気付いていなかった。気付けなかった。その破砕したものが災厄を詰め込んだほうき星だということに。

選択肢の片方は地球史上、類を見ない災害及び破滅。

もう片方は・・・・やはり同じなのかもしれない。



ロシアのシベリア北東部 ベルホヤンスク山脈。

マイナス60℃近い猛吹雪の中、それは蠢いていた。

白い世界の中の黒いシミ。ただの黒い泥。一瞥すればそんな印象しか受けないそれは、隕石内部にいたモノだった。牢獄から抜け出せた彼等はまず自身の構成体の大半が失われていることに驚いた。あまつさえ、自身の制御機構すら抜け落ちて、残存する彼等と連絡、統制すら取れない。

緊急事態。

彼等は自身に残された性能全てを使い、構成体の再構築に乗り出した。

幾度も周辺の物体を取り込み、再構築を開始する。

以前なら出来た鉱石から分解、再構築の機能を消失。一部、鉱石に過剰な拒否反応が現出、樹木などは分解、再構築可能だが効率が非常に低下。動物のみ以前の効率と変わらず、利用が可能。

更にようやく再構築した構成体にも深刻な問題が生じていた。何らかの異常が発生し、日光に極端に弱くなり、さらに温度の+方向への耐性の低下が顕著になっているのだ。

数日に及ぶ、セルフチェックの結果は芳しく無かった。

兵器として開発され、思考判断は元より、自己進化、自己再生、自己増殖の機能を備えた究極体とし、幾多の戦場を闊歩したモノからは、とても考えられない程の脆弱さ。

しかし、彼等に悲嘆はない。緊急事態であることも彼等の思考をよりシンプルにしていた。

ただ、機械的に自己を再生し、この星のどこかに落下したであろう制御機構を取り込む。すべてはそれから考えればいいのだ。

移動の為には構成体の再構築が最優先であり、必須事項だ。その為、彼等は日が沈むまで洞窟で姿を隠し、夜半に動物を取り込む。それの繰り返し。

3ヶ月後、周囲の生態系が枯れ果てるまでそれは続いた。彼等はすでに移動には問題ない程、構成体を再構築していた。



隕石の破砕から1年後にロシア連邦は領土内の異変にようやく気付く。広大すぎる領土が彼等の発見を遅らせたのだ。ベルホヤンスク山脈での雪崩の頻発、生態系の変化、兆候はあった。だが、ロシア連邦は繋げることができなかった。

サハ共和国の首都ヤクーツクからの非常通信が「грязь!оползень!」を最後に途絶え、異常事態に気付いた連邦政府は至急、現地に軍を派遣した。半日が経過し、早朝、到着した兵士達が見たものは、全ての建物でドアが破壊され、生物の気配のしない不気味に静まり返った都市の姿だった。

寒極付近に位置するヤクーツクでドアを開けたまま、一夜を過ごすのはただの自殺でしかない。

さらに異常なことに路上や街頭の上にまで人々の衣服の一部が残っていた。

一体何が?不気味さを抱えたまま無人の街で手掛かりを求め、兵士達は彷徨う。

そんな中、一人の兵士がとある企業の本社ビルを探索中に防犯カメラが運良く、衣服に包まれ、無事に残っていることに気付いた。

その兵士はすぐさま上司に報告をし、状況の保全に務めた。しばらくすると上司を含む数人の士官と技術士官を伴い、指揮官の中佐が現れる。データを抜き出し、非常通信のあった時間の動画を再生した。

そこには、冗談のような真実が映しだされた。

突然、玄関ホールに津波のように黒い汚泥が侵入し、ビル内の人々を次々飲み込んで行く。ドアを破壊し、1階から2階へ、上へ上へ、全10階建てのビルを縦横無尽に隅々舐める様に明確な意志を持ち、人々を蹂躙していった。地下の金庫室に運良く籠城できた人間もいたが、分厚い金庫室のドアは、まるでペットボトルの蓋を開ける様に容易くねじり取られた。

そして、黒い汚泥はビル内の人々を残らず飲み込むと、あっという間に引いて行った。そして、飲み込み損ねたのであろう、衣服がカメラに引っかかる。そこから、映像は黒く途絶えた。

衝撃的な場面は20分にも満たない。だが、一同は皆、何も言えなかった。あっけに取られていた技術士官がペンを落とした音で、ようやく現実に引き戻された。中佐は速やかにこの映像を対策本部に送れと技術士官に命じ、そのまま、部下の士官達に他にも映像が残っていないか探索を続ける様に命じた。兵には最大限警戒し、異常があれば発砲も許可すると付け加えて。

重い足取りで中佐が指揮所に戻ると、映像を受け取った対策本部の責任者である少将から怒声混じりの叱責を受けた。

ただ、中佐はその叱責に対して何も言えなかった。自身ですら未だに信じれない状況ではあったのだから。

イヤホンから叱責が続く中、部下達の報告が次々上がってくる。一通り目を通すと手で指示をし、先程と同様に対策本部へ報告を上げさせた。

3つ目の報告を上げた辺りから叱責は無くなり、5つ目の報告からは深刻な声色で少将は中佐へ指示を出し始めた。

1時間以内に生存者及び当該物体のサンプルが確認出来なければ、至急速やかにヤクーツクを離脱。その後は、作戦に参加した者全員に必ずケミカルチェックを受けさすこと。最悪、遭遇した場合、可能ならば当該物体の生け捕りもしくはサンプル回収。そして、今から2時間後に地震でヤクーツクは壊滅的打撃を受け、有毒ガスが発生し廃棄することが上層部で決定したことを伝えた。

中佐は指示を聞くと、部下達に撤退準備を急げと伝え、外を眺めた。冬期、更に寒極付近に位置するヤクーツクの日が落ちるのは早い。日があるうちに撤退してしまいたい。あの不気味なものが再びここに来ないとも言い切れない。中佐は自身の中で言いようのない不安が渦巻き胸中を掻き毟るのを感じていた。

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