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無題  作者: あきの
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前文

県立○○西高校。

その名前は、県内の若者の間ではそれなりに知られていた。

生徒の自主性を尊重した自由な校風が売りで、のびのびとした高校生活を送れるとの評判だ。それでいて風紀の乱れも少なく、保護者からの評価ももっぱら高い。


西高校が有名なのはそれだけが原因ではなかった。西高校は立地がとても悪かった。県の端っこの、それも田舎地帯の山沿いに建てられている。そんな場所なので、交通の便もすこぶる悪かった。学校から最寄り駅まではかなり離れているし、バスの時刻表もスカスカの穴だらけ。こんな状態では入学希望者も集まりにくい。


そのため、西高校では、学校の近くに学生寮を設置することで対策している。寮に住んでいれば煩わしい通学の手間がかからなくて済む。寮制度は高等学校にしてはわりと珍しく、受験生の興味を強く惹きつけた。この寮の存在が西高校をいっそう有名にしていた。


トシアキが西高校に進学したのも、寮生活ができるという理由が大きかった。その頃の彼は、親元を離れてする新たな生活に興味津々だった。あれこれ口うるさい母から開放され、自由なペースで生きてみたかった。ちょっとした大人へのあこがれというやつだ。彼の学力では西高校はやや厳しかったが、諦めずにひたすら勉強した。その甲斐あったか、二次試験でなんとか合格できた。


トシアキが入居したのは「文就寮」という名前の寮だった。文就寮は西高校の男子生徒が生活していて、学校から徒歩で5分くらいの場所にある。鉄筋コンクリート製で、細長いアパートのような建物だ。


寮は一応学校が管理しているが、それほど厳しい規則は見当たらず、最低限の規則のみが定められている。また、生徒同士は必要以上に干渉しない。それぞれが自分の時間を満喫している。かといって全く交流がないわけでもなく、寮内でスポーツ大会などのイベントが開かれるほか、2年生までは同じ学年の人と2人1組での相部屋となっているので、他人とふれあう機会はそれなりに多い。この「近すぎず、離れすぎず、余計な気を使わなくてもいい関係」というのがトシアキにとって居心地の良いものだった。


今では入寮から1年以上たち、トシアキもすっかり寮の色に染まっている。男子高校生らしい、よく言えばのびやかな、悪く言うとだらだらとした生活を送っている。昼は部活で汗を流し、夜は寮で友達と盛り上がる。そんな充実した日々を送っていた。

ただ、ひとつだけ、まるで女っ気がないのが不満といえば不満だった。モテるほうではないのはなんとなく自覚していたが、友達の彼女の話を聞いたりしていると少し寂しい気分になる。もっとも、今の生活が十分楽しいので、わざわざ彼女を作ろうという気にはならなかった。



夏休みも中盤に差し掛かったある朝のこと。

その日はまた一段と暑かった。寮の外ではセミの鳴き声が響き渡っている。

トシアキは自室のベッドで、能天気な寝顔を浮かべて眠りほうけていた。口をだらしなく半開きにして、穏やかな寝息を立てている。

この時の彼はまだ、自分の身に起きた異変について知る由もなかった。




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