洗濯干し
雲は薄くなってきたが日の光はまだ降りない。雨の匂いが残る住宅街の ある庭先で少年が湿った布団を干していた。そしてそれを塀の上から顔だけ出して見つめる黒い帽子の男。
「なぁ……」
男が声をかける。
「わ!……って、さっきの魔法使いか。驚かさないでよ。なに?」
少年、トモルはたずねた。魔法使いが答える。
「俺はお前の妹のおねしょを防ぐ為だけにお前を日曜日に戻してやったのか?」
「それだけじゃないけど……」
「え!もうメイン終わったカンジ?」
魔法使いは、自分の帽子を両手でかかえて顔を真っ青にした。
「そんなことないよ。むしろこれから。」
「そりゃ良かった!ったく、後悔するところだったぜ!」
そう言って魔法使いは、塀をフワリと飛び越えて庭に入って来る。
「もしかして、楽しんでるの?」
「当たり前だ。あんだけ暗い顔するほどの後悔がこの日にあるんだろ?俺は楽しむ為に生きているのさ。」
「あっそ。じゃ、黙っててよ。」
その言葉を無視して気まぐれ魔法使いは、自分の言葉を続ける。
「それで、そろそろお家に入れてくれない?ほら、このカッコしてると不審者扱いされちゃうから。」
魔法使いは、キョロキョロして辺りをうかがった。
「じゃあ他の格好にすればいいじゃん。」
「やだよ。これは言わばトレードマーク。警察は警察のカッコしてるだろ。それと同じだ。」
そう言って魔法使いは、くるっとその場で一回転してみせた。
「大丈夫。誰も魔法使いの格好なんて知らないから。」
「なぁなぁ……お願いだから入れてくれよぉ。」
「魔法使いなら魔法で入れるでしょ。」
「迎えられてもない家なんかに入れるかっての。」
「へぇ。礼儀がなってるね。」
「ガキのお前に言われたくない。」
「ガキいうな。」
「生意気な…ガキめ。」