緊急事態。
急がなきゃ!急がなきゃ!急がなきゃ!急がなきゃ!
頭に焦りの文字を浮かべながら少年、夏風 灯自室のある二階から階段を駆け下りて廊下を走り寝室に飛び込んだ。そして残酷な惨状を目の当たりにした……。
「遅かった…」
目の前の布団には安らかに眠る小さな女の子が眠っている。彼女はトモルの妹、夏風 蛍。4才の年少さんだ。その顔は不思議と幸せに満ちている。それは良いことだろう。人の幸せな時が一番だから。それは素敵なことだろう。人は笑うために生まれてきたのだから。しかしその幸せには、大きな大きな犠牲があった。
掛け布団が濡れている。それは恐らく……。
「おねしょ……」
そう。おねしょである。彼女は、レディとはいえ まだ4才。無理もない。昨日の土曜日に彼女は、オレンジジュースをコップ2杯、ゴクゴクと飲んでいた。前の晩に「トイレ行っておきなさい。」という母からの言葉は、既に眠ってしまった彼女の耳には届かなかった。
こうなるのは、誰の目にも明らかである……そしてトモルがそれを前に悲しんでいる間にもソレが確実に規模を増やしている。
「は!」
トモルは規模の拡大に気付くなり妹の両脇を持ち上げてトイレに向かった。
「ほたる。起きて。トイレいくよ!」
妹の脇を抱えてトモルは、ほたるを起こす。
「おにぃちゃん。どうしたの?」
眠気まなこのほたるは起きて自分が運ばれていることに気付いた。
「トイレ!トイレだよ。ほら!」
「うん。」
「一人で大丈夫ね?」
「うん。だいじょぶ。」
ほたるは、そう言ってトイレの中に入っていった。
これで布団にアレが広がることは防がれた。トモルは、ほたるがトイレから出てくる前に小さな布団を2枚 、洗剤少々を洗濯機に入れてスイッチを押しタオルとパンツを用意して待機した。