雨 のち くもり(もしくは晴れ)
暗い雲が覆う空の下、少年と男は歩いている。先程まで雨が降っていたのだろうか、あたりには雨の匂いが残っている。小さくて黄色い傘を持った少年とオンボロで真っ黒なコートと帽子をまとった男は、ピチャピチャと水たまりを鳴らしながら歩みを進めていた。
「晴れたな。」
男が言った。
「まだ、くもりだよ。」
少年が答えた。
「雨がやんだら、晴れたって言うだろ?」
男が軽い口調で返した。
「それは『雨がやんだ。』って言うんだよ。晴れちゃいない。」
少年は、針で刺すような口調で言った。
「そうか?なら、そうなのかもな。」
男は鼻で笑って、答えた。
「それは、そうとおじさん。」
「どした?」
男は、とぼけたように言った。
「なんで付いてくるの?」
少年は歩きながら言った。
「え?だって、今日は日曜日だぜ。それも俺様のお陰でな。」
男は変な事を言った。
「まだ証拠がない。それと日曜日だからって子供に付いてきていい法律もない。」
少年は言った。
「証拠だって?法律だって?イヤだね〜。最近のガキは。ショーコ、ショーコ。ホーリツ、ホーリツって…まるで警察じゃないか。」
男はそう言って高らかに笑った。
「別に疑ってるわけじゃなくて、初めて会った人をすぐには信じられない。」
「なるほど。それもそうだな。でもソレって疑ってないか?」
「知らないよ。そんなこと。」
「それもそうだな。確かにそうだ。そんで、これからどうするんだ?」
「家に帰ってる。」
「ほう。どうりで住宅街に入った訳だ。」
「それで……いや。言わない。」
少年は何かに気付いたようで口を閉ざした。
「なんでだ?俺は今、ヒマなんだ。何か話してくれよ。」
男は困ったように言った。
少しして男が何か思い付いたようで、
「そうか。俺が魔法使いだから証拠になりそうなモノを言ったら先回りしてその通りにされてしまうと思ったんだな。あったまイイな。ガキのくせに。」
と少年の思った事を当ててみた。
「そーだよ。あと、ガキって言うな。」
少年は、不機嫌そうに言った。
「お前だって俺のコト『おじさん』『おじさん』って失礼なヤツだな。」
「だっておじさんだもの。」
少年は真実を言った。
「はぁ…ニンゲンは見た目で判断するからな。仕方ない。そうだな…俺様のコトは…これから『お兄さま』と呼べ。」
「やなこった。どこのラノベだよ。」
「ラノベ?良くわからんが、もしそう呼ばないならお前のコトをガキって呼ぶぞ。」
男は勝ち誇った表情で言った。
「それはやだな。じゃあ名前を教えてあげる。僕の名前は『夏風 灯』。呼び捨てでいいよ。」
「だからなぜお前は上からモノを言うんだ。じゃあやっぱり俺様のコトは『気まぐれ様』と呼べ。」
「なんで様付けで呼ばなきゃならないのさ⁈」
「魔法使いだから。」
「やなやつ。」
「あ!『魔法使い様』でも良いぞ。ガキ。」
「もうなんでもいいや。着いたよ。」
少年は止まって目の前の家を指差した。
「ココがお前んちか?」
魔法使いが尋ねた。
「入ってくるなよ。」
少年は答えず魔法使いに釘を刺した。
「はいはい。」
魔法使いは、そっぽを向いて答えた。
「傘、返すよ。はい。ありがと。」
少年は傘の持ち手を魔法使いに向けて言った。
「どーいたしまして。お前、ガキのくせに少し礼儀が分かってるんだな。」
「当たり前だろ。」
「そりゃ失礼。」
そう言って魔法使いは傘を受け取り少年が家に入って行くのを眺めていた。