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歩いて止まって、また歩く。
真っ暗な空の下、少年と男が歩いていた。空は黒い雲に包まれてザーザーと雨を降らせている。
雨は、小さな黄色い傘とボロボロの黒いコートとハットをボトボトと叩き少年と男は水たまりをバシャバシャと鳴らしていた。
ふと前を歩いている少年が口を開いた。
「いいよ。やっぱり。」
「なにが?」
男は歩きながら尋ねた。
すると少年は止まって男の方を向いて
「傘だよ。傘。おじさん、そのまま雨を浴びているじゃないか。悪いよ。」
と言った。男は、またニンマリと笑って
「大丈夫だ。このコートとハットは、防水加工をしてある。」
と答えた。
「そう。じゃ、この傘、借りてるね。」
「どうぞ。お好きに。」
少年と男は、また歩き出した。