くもり のち 雨
夜はそれほど深くない。
夕日が地平線に沈んでいるが、まだオレンジ色の光が空を照らしている。
しかしどこか空はどんよりとしていた。さっきまで赤く染まっていた雲たちが今度は暗い闇に染まり始めたからだろう。
そんなどんよりとした空の下で少年が一人ベンチでうつむいていた。その顔色はこの空よりも暗い。
少年はときどき顔を上げてそしてまた直ぐに首を振りながらうつむいた。
少年の座るベンチは公園にあった。もうこんなに夜が近いから公園にはひとっこ一人、いはしない。だから少年のその様子を見て不審に思う者などいないのだ。
少年が顔を上げるのも7回目になろうとした時、少年の目の前に男が立っていた。
「わっ!」
少年は驚いた。何せ今の今まで人の気配など無かったから。
そんな少年をよそ目に男は少年に切り出した。
「何をそんなに落ち込んでいるんだ?君の顔ほど暗いモノを俺は見たことがない。」
少年はそれを聞くなり顔を伏せ
「はぁ〜。」
と大きなため息をついた。
そして少ししてからゆっくりとした口調で答えた。
「落ち込んでいるんじゃないよ。後悔しているんだ。」
「ふぅーん。」
男は少し口角を上げて相槌を打った。
「なにさ?ほっといてくれよ。僕はしばらくこうしたいんだ。」
少年は槍で刺すかのような口調で言葉を投げた。
「それでいいのかい?」
男は今度はニンマリと笑いながら嫌味そうに言った。
「どうすることも出来ない…本当に。本当に今からじゃどうすることも出来ないんだ。」
少年は哀しげに言った。
「『今から』じゃ間に合わない?」
「そうさ。」
「『前から』だったら間に合った?」
「そうかもね。」
「じゃあ、どれくらい『前から』だったら絶対に間に合った?」
「そうだな…たぶん前の日曜日くらいからだったら間に合ったかな…」
「じゃあ戻ろう。」
「は?」
「戻るのさ。前の日曜日に。」
「なに言ってるの?」
「『前』の日曜日に戻ると言ったんだ。」
「おじさん。バカだね。タイムマシンなんてあったら僕はこんなに苦労しないよ。」
「あんなコテコテしたものじゃないよ。ちょっと簡単な呪文を唱えればあっという間さ。」
「呪文?」
「One More Sunday!! 『日曜日をもう一度』という意味だ。」
「わん もあ さんでい? 騙されないよ。痛々しい。人の弱みに漬け込んで。大人がすることじゃないよ。」
「こう見えても俺は魔法使いってヤツなんだ。」
「言われて見れば…そんな格好しているかもね。」
「『かも』じゃない。そんな格好なんだ。その証拠に君は今、笑ってる。」
「あ。」
「つべこべ言わずに言ってみるんだ。さぁ!早く!」
「One More Sunday!! 」
その言うなり空が三回、回転し突然雨が降り出した。
「最悪…」
「まぁそう言わずに。」
男は、またニンマリと笑った。