恐怖の終末です
短い上、少しグロいかもです。(Rー15で収まる程度だとは思いますが、お気を付け下さい)
「ウウウッ……」
刻は夜明け直前の薄明かりに満ちる世界。先程まで大地を不気味に照らしていた紅い月もそろそろ沈み、逆の空から新たな日を刻む太陽が顔を出す。そんな時、レッドゴブリンロードは遂に恭弥の前にてその身を大地に沈めた
「いやあ、中々楽しかったですよぉ。ありがとうございました」
真新しい血の滴る漆黒の剣をだらんと垂らしながら恭弥は満足そうな笑みを浮かべて立っていた。
「オノレ……ニンゲン……」
地に倒れたレッドゴブリンロード傷だらけの体を引き摺り、息も絶え絶えに顔だけを上げて恭弥を睨み付ける。その姿はあまりにも痛々しく、体のどの部位も血で染まっており、逆に血が噴出していない場所を探す事の方が困難なほどだ。そんな一つ違えば出血多量で死んでいるところを、恭弥の絶妙な力加減で何とか生かされている。
「アハハ、そんな怖い顔しないで下さい。この世界に来て初のまともな戦闘でしたので少し張り切り過ぎちゃっただけじゃないですか。それに貴方も楽しかったでしょう?」
恭弥はその瞳を真正面から受け止め、そう言って逆に微笑み返した。そのあまりな態度にレッドゴブリンロードの瞳が更に険を増すが、恭弥の微笑みは絶えない。
「さて、ではそろそろ死んで下さい。貴方もそのままだと苦しいでしょう」
そう言って恭弥は微笑みを浮かべたまま片手で呪怨の黒剣をクルリと回転させて生物の肉を断ち切るのに適した形へと持ち替えた。
「あ、そうそう殺す前に一つ先程の貴方の質問に答えておきましょう」
恭弥は何かを思い出したかのような態度を取り、ボロ雑巾の如く倒れ伏すレッドゴブリンロードの顔の近くにしゃがみ込み、その微笑みを残虐なものへと変えて言い放った。
「僕がここに来た理由。それは特に何もありません。強いて言うなら殺したかったから、ですかね」
その言葉にレッドゴブリンロードは愕然とした。
ーー特に理由は無い。なら自分の仲間達は何故死なねばならなかった。それにも理由は無いと言うのか。
「キ、キサマァァァァァァ!!」
ーーこの世界は弱肉強食だ。殺さねば死ぬ。それはどうしようも出来ないこの世の摂理だ。しかし、この殺戮は違う。自分が生きるためでも何かを守るためでもない。ただ一人の人物が自身の興を満たすためだけに今まで必死に生きて来た者の命を面白半分に奪ったのだ。許せるわけがない。
レッドゴブリンロードは最後の力を振り絞り、こんなボロボロになっても折れる事の無かった剣を振りかぶる。その一撃は今までのどんな攻撃よりも鋭く、速い。しかし……
「お疲れ様でした。安らかに眠って下さい」
斬ッッッ!!
残虐の微笑みを浮かべたまま呪怨の黒剣を振るった恭弥は、レッドゴブリンロードを股間から頭頂部にかけて一直線に斬り上げる。
ドサッと重量のある肉の塊が落ちる音に混じり、ピコン♪と気の抜ける音が脳内に響く。
「ん〜、やはり死に際はどんな生物でも美しいものですね」
静寂に包まれる中、一人の狂人の満足気な声が不気味な程透き通って辺りに響く。
***
昨夜に開始された恭弥とレッドゴブリンロードの戦い。蓋を開ければ一方的なものだった。中々伯仲した戦いに見えたこの戦いだが、思い直してみればレッドゴブリンロードが恭弥相手にダメージを与えられたのは最初の不意打ち一撃だけであった。その後の展開は恭弥によるただの一方的な甚振りで、レッドゴブリンロードの攻撃のことごとくを回避しては傷の無い部分をわざと手加減して斬りつけ、斬りつけた後はまた回避して、の繰り返しであった。決着がついたのがこの時間になったのもそのような恭弥の気紛れによるものでしかない。恭弥は殺そうと思えばレッドゴブリンロードなどいつでも殺せたのだ。狂井恭弥とレッドゴブリンロードの間にはそれほどまでの圧倒的実力差があった。
ーーーーーーーーーー
狂井 恭弥 (キョウヤ・クルイ)
LV:52
HP:916/1713
MP:990/990
STR:1972
DEF:786
SPD:2250
INT:680
MND:99999+etc……
パッシブスキル
異世界言語
制限解除
超直感
魔力適合
全属性適正
消費魔力量激減
必要経験値激減
獲得経験値激増
状態異常無効
超速自動回復
武技術の心得
血契現界
スキル
超位隠密
超位鑑定
魔力付与
全属性魔法
加速思考・極
並列思考・極
総合武技術・極
血液操作
狂化
限定突破
称号
【狂い踊りし者】【精神狂い】【鮮血の狂帝】【魔物の殺戮者】【特異殺し】
ーーーーーーーーーー
「ほほう、これはまたかなりレベルが上がってますねぇ」
決着がつきレッドゴブリンロードに止めを刺した恭弥は、脳内に響いたレベルアップ音に導かれるようにステータスを開いた。そして、そこに記載されている62と言う数字を見て嬉し気な表情になる。
「ん?何かスキルや称号などが色々と増えてますねぇ。それにステータスのMNDの上がりが高すぎます」
異世界から来たばかりの恭弥には当然この世界のシステムがどのようになってるかは知らないので、これがこの世界の普通であったとしても、疑問に持たざるをえない。
恭弥は興味深げにステータスの隅々を観察する。するとーー
【狂い踊りし者】
狂い踊るような残虐な戦いをした者に送られる称号。ステータスのSTR、SPD、MNDを大きく上昇させる。スキル【狂化】を獲得する。
「なるほど、調べたいものに意識を集中させると、それの説明を確認出来ると言うわけですか」
気付いたら行動は早い。恭弥は新たに獲得した物を片っ端から確認を行った。
【精神狂い】
正常な精神を持たない者に送られる称号。ステータスのMNDをカンストさせる。常時状態異常狂気が付与される。
【鮮血の狂帝】
一定期間内に一定の数の生物から膨大な量の血を流さした者に送られる称号。パッシブスキル血契現界を獲得する。スキル【血液操作】を獲得する。
【魔物の殺戮者】
魔物を大量に殺戮した者に送られる称号。魔物に属する全ての存在に与えるダメージを上昇させる。上昇値には個人差あり。
【特異殺し】
称号【特異個体】を持つ者を殺害した者に送られる称号。【特異個体】を持つ者へのダメージを大きく上昇させる。【特異個体】を持つ者からのダメージを大きく軽減させる。上昇値軽減値には個人差あり。
パッシブスキル:血契現界
血液を自身への有効な性質へと変換出来るようになるパッシブスキル。血が辺りを満たす事でHPやMPが自動で回復する。称号【鮮血の狂帝】により獲得。
スキル:血液操作
血液を自分の思うがままに操る。称号【鮮血の狂帝】により獲得。
スキル:狂化
一時的に全ステータスを倍に上げる。その代償として発動中は理性を失い、状態異常狂気となる。称号【狂い踊りし者】により獲得。
「ふむふむ、なるほど。称号って言うのは特定の条件を満たすと獲得出来て、それによる効果をステータスに反映出来ると。中々に凝った仕様ですね」
恭弥はクックッ、と笑いながらステータスを上から下へと確認して行く。
「よし、折角なんですからもっとステータスを調べて見るとしましょう」
「ギィ……」
恭弥がそう呟き集中モードに入ろうとした直後、恭弥の後方から小さな鳴き声が聞こえた。
「うん?……ああ、そう言えばまだ放置してましたね。途中で巻き込まれて死んだ奴等もたくさんいたので、もうとっくに全滅してるかと思ってました」
振り返ると、そこに全てを諦めたような表情をしている2体のゴブリンがいた。その内の片方はホブゴブリンのようで、手の中では小さなゴブリンが震えていた。辺りに他のゴブリン達が見えないと言う事は、運良く巻き込まれないで済んだのはこの2体だけであったのだろう。他の者は恭弥のレッドゴブリンロードの戦い(主に恭弥に盾にされたり、遠距離道具として使う為に首を斬り落とされたり)に巻き込まれとっくに死んでいるようだ。常時発動している超直感にもこの2体以外の反応は確認出来ない。
「おやおや、そんな怯えてしまって。可愛いらしいですね」
恭弥はそう言って微笑みながら立ち上がり、呪怨の黒剣を握る手に力を込めた。
「ギィギィ!」
恭弥が近付くとホブゴブリンの方が何かを訴えるような声を出して来た。
「えーっと……もしかして子供だけでもいいから見逃してくれ、みたいな事を言ってるんですか?」
恭弥が聞き返すと、ホブゴブリンの方はこちらの言葉を理解しているようで、頻りに頷いた。
「そうですか、感動しました。いいでしょう、正直あなた方程度なら捨て置いても変わりませんし、構いませんよ。逃げたければ逃げて下さい」
そう言って恭弥は自身が浸入して来た森の方向を指差す。
「行くなら速く行ってください。さもないと気が変わって殺しちゃいますよ?」
「ギィ!」
恭弥がそう言うと、ホブゴブリンは慌てて子ゴブリンの手を引いて恭弥の指差した方向へと走り出した。
「あっ、すみません、気が変わりました」
その瞬間ホブゴブリンの頭はスパッと音をたてて胴体と別れた。ホブゴブリンの首は何が起こったのか分からないと言った表情で地面へと落ちて行き、最期に我が子の顔を見てから息を引き取った。
「知っていますか?大人より子供の血の方が綺麗なんですよ?」
続いて子ゴブリンの方へと向き直り、まだ状況の飲み込めていない子ゴブリンに剣を振り下ろす。
「ギィーッ!」
子ゴブリンは手足を斬り落とされ、腹からは臓物を撒き散らす。そして、痛みに叫びながらその短い生涯を終えた。
「うん、やっぱり首を斬り落として一撃で殺すより、こうしてバラバラにした方がたくさん血が見れますね」
恭弥は剣に付いた血を振り払いながら、たった今殺した子ゴブリンが垂れ流している血を見下ろして不気味に笑う。
「さて、では一先ずこの場を去りますか。ステータスの気になる場所の確認は後でゆっくりとしましょう」
恭弥は血を払い終えた呪怨の黒剣を鞘に納め、鼻歌を歌いながらゴブリンの集落から撤退する。後に残ったのは血の海に沈んだ無数のゴブリン達の死体と、大地を濡らす夥しい血痕だけであった。そんな地獄のような光景の中には最早、動く影は一つたりとも存在しなかった。