恐怖の幕開けです
駆け出した恭弥は片手に持った呪怨の黒剣を手首だけでクルリと回転させ、まるでクナイを持つかのような形に持ち替えた。そして超位隠密を発動させつつ、前世で身に付けた気配を極限まで無くす技術を使い、ゴブリンの背後に素早く回り込む。
(レベルは向こうが上ですけど、ステータスでは僕の方が上ですね……一撃で仕留めてみせます)
そして、まるで獲物を捕らえる蛇のごとき動き口を塞ぐ。その名から声タイプの能力だと思われる鬼の断末魔を防ぐためだ。それに続き、流れるような動作を以って逆手に持った呪怨の黒剣でゴブリンの首を勢い良く掻っ切った。
手に伝わる確かな肉を断ち切った感覚。
「ギィ?」
ゴブリンは己の身に起きた事を理解する間も無く首から大量の血を噴出させて地面に倒れた。同時に恭弥の頭に響くピロン♪と言うコンピューター音。
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狂井 恭弥 (キョウヤ・クルイ)
LV:6
HP:220/220
MP:144/150
STR:170
DEF:98
SPD:180
INT:135
MND:86
パッシブスキル
異世界言語
制限解除
超直感
魔力適性
全属性魔法適正
消費魔力量激減
必要経験値激減
獲得経験値激増
状態異常無効
超速自動回復
天布の才
武技術の心得
スキル
超位隠密
超位鑑定
魔力付与
全属性魔法
加速思考・極
並列思考・極
総合武技術・極
限定突破
称号
(無し)
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「おやおや、一気にレベルが5つも上がってしまいました」
恭弥は殺したゴブリンに腰掛けながらステータスを見て楽しそうに笑う。ゴブリンの死体はドクドクと血を流して地面を赤く染め上げているが、恭弥はその光景に心地良さそうに微笑みながら上昇した自らのステータスを眺める。
「スピード?でいいんですかね。それの上がりはいいですけど、マインド?これの上がりは微妙ですねぇ。何か法則性でもあるのでしょうか?」
恭弥は自身のステータスを見ながらステータスの上昇幅について考察して行く。
(考えられるのは戦闘方法ですかね。今回の戦闘は僕は気配を消して背後に回り込み、一気に殺しましたのでそれでSPDが大きく上がったって事なら考えられます。それに、それならMNDは多分魔法とかに対する抵抗力を表しているのでしょうから、上がり幅が低いのも納得出来ますし)
数十分の思考の末、レベルが上がる時はそれまでの戦闘スタイルでステータスが大きく上がったり逆に上がりが小さかったりとするのだろうと結論付け、満足そうに笑った。
「アハハッ、殺せば殺すだけ強くなれるなんて、なんて素敵な世界なんでしょう!本当にあの神様には感謝せねばなりませんね!」
恭弥も男なので当然強さへの憧れはある。だが恭弥の場合それは狂いに狂った精神と歪に歪んだ感情によりその思想はより危険で凶悪な思想へと至る。
「ではもっともっと殺してみましょう」
恭弥は玩具で遊ぶ幼子のような面持ち次なる獲物を求め、感知に力を入れる。するとほどなくして新たな気配がたくさん集まって場所を発見した。
「ん〜、向こうの方にゴブリンらしき反応とそれより僅かに大きい反応が固まってますね。ゴブリン達の集落みたいなものがあるのでしょうか?行ってみましょう」
恭弥は鼻歌を歌いながら感知に捉えた気配へ向かってゆっくりと歩き出した。
***
「おっと、あれですね」
森の中を歩いて進む事数十分。恭弥は遂に感知にかかった気配の正体をその目に捉えた。
視線の先、数百メートルにあるのは先程恭弥が殺したゴブリンと同じような姿形をした集団である。集団の中にはボロボロの剣や弓で武装している者もおり、そう言ったゴブリン達は他のゴブリンよりも少し大きめなエネルギーを持っているようだ。
見ると、そこにはとてもじゃないが建物と呼べないような粗末な造りをした物体が幾つも点在しており、そこをゴブリン達が頻りに出入りしている。
「ん?あれはゴブリンじゃありませんね」
少しの間観察していると集団が存在する場所の中心に他より多少マシな造りをした粗末な小屋のような物を見つけた。その小屋の前には明らかにゴブリンよりも大きな体を持つ存在が立っており、よく観察してみるとそいつらも頭から短い角を覗かせているため、ゴブリンと同種での存在であると推測される。しかし、超直感の感知で確認出来るエネルギー量はゴブリン達の比では無く、個体にもよるが大体通常のゴブリンの2〜3倍くらいの高さを誇っている。そんな奴等が見える限りで4体。そして視線には捉えられないが小屋の中にはそれより更に大きなエネルギーを持つ存在も1体確認出来た。
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ホブゴブリン
LV:19
HP
MP
STR
DEF
SPD
INT
MND
スキル
称号
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「うーん……鑑定は距離があると完璧には見え無いんですね」
鑑定の結果、ホブゴブリンと言うこれまた有名な魔物であると判明したが、距離が離れ過ぎているためにステータスを完璧に確認する事が出来なかった。
(さて、どうしましょうか……レベルを見るとホブゴブリンもそんなに強くは無さそうですが、何分数が多いですね……ですが一体一体を確実に暗殺して行けばあるいは行けるかも知れませんね)
恭弥がまだ使いこなせていないという事もあるが、超直感も万能では無いのでここから見ているだけでは敵の正確な数は分からない。見える限りだけでは50体くらいの群れだが、その事を踏まえるとまだ少し余分にいると考えるべきだ。恭弥は暫く観察を続ける事にした。
***
「よし、やりましょうか」
暫く気配を消して観察をしていた恭弥は、そう言って徐に立ち上がった。辺りは既に暗くなって来ており、夜の闇が恭弥を包み隠す。
恭弥がこの世界で目覚めた時間は、恭弥の感覚的に地球で言う15時頃だった。それが正しいとすれば今は大体20時と言ったところだろうか。僅かに肌を撫でる風は森特有の冷たさを持っており、恭弥の体温を少しずつ奪って行く。
この気温は亜寒帯地域の春に当たる季節にそっくりで、それなりに寒いのだが、長袖になっていれば我慢出来ない程のものでも無い。
「先ず初めに周囲のゴブリンをなるべく多く仕留めましょうか。その後でそれに反応したホブゴブリンを仕留められれば後は楽ですね。
唯一気掛かりなのはホブゴブリンより強いエネルギーを持つ親玉の姿が見えなかったと言う事ですが……まぁそれもどうにかなるでしょう」
数時間の観察の結果、この集落にいるゴブリン達の気配は77体と判明した。内訳は剣や弓で武装したゴブリンを含めてゴブリン70、ホブゴブリン6、そして親玉だろう謎の敵1と言った感じである。
確認した中ではホブゴブリンの最高レベルは25で、ゴブリンの最高レベルは12だった。恭弥のレベルはまだたった6だが、それでもゴブリンと言う種族の基準がさっき殺したゴブリンであるならば十分に勝てるレベルだ。しかしホブゴブリンと親玉の正確な強さが不明な以上、ある程度の注意は必要だろうと恭弥は結論付けた。
「ふふっ、この場を鮮血で染め上げたらさぞや綺麗な事でしょうね。楽しみです♪」
恭弥は不敵な笑みを浮かべながら超位隠密を発動させる。そして、念を押して気配を殺すと、ゆっくりとゴブリン達の集落へと歩みを進める。その足取りは死神が獲物を刈り取るがの如く静かで、同時に獲物を仕留める獅子が如くとても荒々しかった。
***
「先ず一匹」
恭弥は初めに他のゴブリン達から少し離れた場所にいた1体のゴブリンに音も無く近付き、左手で口を塞ぎ、同時に右手で逆手に持った呪怨の黒剣を喉へと滑らせる。
「二匹……三匹……」
次いで、近くを通りかかった剣を持ったゴブリンと弓を持ったゴブリンに襲い掛かり、前世で身に付けておいたCQCにて弓を持つゴブリンを素早く気絶させる。
隣にいた仲間が唐突に倒れた事に驚いたもう一方のゴブリンが我に返って声を出すよりも早く呪怨の黒剣で喉を切り裂き、死体を粗末な建物の裏へと素早く運び込む。そして気絶している弓を持ったゴブリンの脳天に呪怨の黒剣を振り下ろし、脳漿を撒き散らせながら殺害。
「四匹……五匹……六匹……」
その後、少し離れた位置にある建物の裏で談笑をしていた3体の槍を持つゴブリンを一つの流れの中で全員の喉を切り裂き一瞬で仕留める。
「七匹……八匹……九匹……十匹……」
物音に気付いてやって来た無装備のゴブリン4体をCQCで一瞬にして落としながら建物の裏へと引き摺り込み、そのまま全員の喉を掻っ切って殺害。ここまでにかかった時間は僅か1分足らずであった。
(アハハッ!楽しいですねぇ!この手に直接伝わる肉を断つ時の感覚、飛び散る血潮と臓物!これです!この感覚が最高に気持ちいいんです!)
恭弥は返り血で真っ赤に染まる手を見ながら、恍惚の笑みを浮かべる。夜空に浮かぶ月は血に染まったかの如く真っ赤で、その光に照らされる恭弥の姿は狂気に侵された悪魔の様相を醸し出していた。
恐怖の夜はまだ終わらない……。