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狂人は異世界で狂い踊る  作者: 夜桜
狂人街へ行く
18/25

検証してみましょう

投稿開始二話目です!ここからは差し替えでは無いのでのんびりと書いて行く事になりますが、どうかお付き合いください

翌日明朝。人々が起き始め活動を開始させる頃、恭弥とルナの姿は既に街を囲む外壁から数キロ離れた先にあった。


「ふぅ、街から結構進みましたけど目的地は街から約1日程の進んだ距離って言ってましたね。地図も受け取りましたが、まだ僕はこの世界の地理をよく理解出来ていないのでルナ、よろしく頼めますか?」


「ん、分かった……この場所は多分、ロッキー荒原だと思う……」


「ロッキー荒原?」


「ロック山脈に続く道がある荒原……あまり危険な魔物は存在していない、けど……偶にロック山脈に生息しているロック鳥がやって来る事がある場所……」


この場所はヴィクトル平原と呼ばれるヴィクトルム周辺の舗装されて安全な地帯である。低位の魔物程度なら現れる事もあるが、大抵の場合はヴィクトルムの騎士団の者が定期的に巡回警備をしているため、その低位の魔物が現れる事すらも稀であった。


「なるほど、なら殆ど僕たちの害にはなりませんね。不安要素はそのロック鳥ですが、その点はどうですか?」


「ロック鳥はレベル70〜80前後の大きな魔鳥……私達の敵じゃ、ない……」


「なら問題ありませんね。迷わなければ余裕を持ってそのロッキー荒原とかに辿り着くでしょう」


恭弥達がヴィクトルムを出発してからそろそろ3時間が経とうとしている。常人より圧倒的な体力を誇る彼等は一度の休憩も取ること無く進んでいるため、この速度のままだと今日の夜には目的地に到着するだろう。


出発する際の受け付けを担当したマリナは、やはり不安と期待が混ざり込んだ複雑な顔をしていたが、恭弥とルナは敢えて余計な会話をせずにさっさとギルドを後にした。

答えは己の目見た結果で判断しろ、と言外に告げる恭弥の背中はマリナにはとてもたくましく見えた事だろう。


〜〜〜〜〜

〜〜〜


あれから更に5時間が過ぎた。その間にめぼしい魔物の襲撃は無く、順調な旅路と言えるだろう。

お昼に一度の休憩を挟んだだけの二人は、まだまだ体力に余裕がありその後は一度も休む事無く進んでいた。


「殺風景な景色になって来ましたねぇ。人の手があまり入って無さそうです」


「うん……ここはもうヴィクトル平原を抜けた地帯だから、ね……あれ、が、あの高い山がロック山脈……ロッキー荒原はその手前から麓まで続く地帯だから、もう直ぐ……」


2時間程前にヴィクトル平原を抜けた恭弥達。既に景色からは美しい緑が無くなり、代わりに剥き出しになった地表と、ポツリポツリと生える弱々しい草木が現れ始めて来た。


「うん?ルナ、止まりなさい。敵ですよ」


恭弥の言葉に従いピタリと停止するルナ。辺りを見渡してみると、少し先から此方に向かって走って来る二足歩行の犬のような魔物が4匹いた。


ここら一帯は最早殆ど人の手が入っておらず、魔物も平気で出没する。幸いな事にその分、魔物が潜めるような障害物は無く、低位の魔物が見晴らしの良いところで馬鹿正直に襲って来るだけの地形である。そのため、ここは初心者の冒険者が魔物相手の実践を積むには丁度良い所なのである。

尤も、恭弥達の足で半日かかるこの距離まで練習に来る者など、よっぽどの事がない限りいないのだが。


「あれはコボルト……ゴブリンよりちょっと強いだけの低位の魔物……」


「そのようですね。せっかくですから新調した武器のテストを行ってみましょう。ルナは下がっていなさい」


「うん」


ルナが下がるのを見届けた恭弥は、一歩前に出てコボルトと対峙する。そして、マジックポーチから手始めに妖刀・血時雨を取り出した。

その瞬間、血時雨から発せられたナニカが恭弥の中へと流れ込み、恭弥を蝕まんとする。


「むっ、この感覚は呪怨の黒剣の時と同じですね」


その感覚に懐かしいものを覚えていると、恭弥を蝕まんとしていたナニカは一瞬にして恭弥の中から弾き出された。


「予想通りです」


恭弥は己の思った通りの事象が起きた事に満足気に笑う。

恭弥の考えていた内容はこうだ。呪いとは武器の持つ何らかの魔法系スキルか、あるいは状態異常の一種であると考えられる。呪いを持つ武器はそれ自体が強力な能力と確かな意思を持っており、己に触れる不届き者を呪いと言う現象を通して殺害しているのではないだろうか。


仮にその仮説が正しいとすれば、魔法的な攻撃の場合はカンスト済のMNDで、状態異常なら状態異常無効で抵抗(レジスト)出来るのでは無いか?それを確かめるためにわざわざガイアスから使い道の無い呪いの装備を譲り受けたのだ。


(この考察が間違っていたら所詮僕はそれまでだったって事でしたが……どうやら間違ってはいなかったようですね。呪いは魔法の一種か状態異常で決まりです)


恭弥は血時雨を片手に、振り心地を確認しながら内心で賭けに勝った事にほくそ笑む。


恭弥は知らない事だが、この時の恭弥の行動は長い年月をかけて注がれて来た呪いの装備の謎の解明を一気に早めたものだった。呪いとは一体何か?その命題をこの世界の学者達は何十年とかけて調査して来たが、それは呪いの持つ割りに合わ無い危険性により一向に進まなかった。しかし恭弥の行った検証により、呪いとは魔法の一種、またはただの強力な状態異常の二つにまで絞られたのだった。これを知った学者はきっと愕然となるだろう。しかしそれは恭弥の知った事では無いのであった。


「まず一匹」


呪いの正体を看破した恭弥は、一瞬でコボルト達の目の前に移動すると、ヒュンと言う風切り音と共に血時雨を振り抜いた。

血時雨の進路上にあったコボルトの頭はスパンッと小気味の良い音を立てて斬り落とされ、切り離された首と胴体からは噴水のように血が噴出する。その血はズズズッと音を立てて血時雨に吸い込まれて行き、それに応じて赤黒い刀身が脈打つようにドクンと一拍。


「ほう、これが血時雨の能力ですか。確かに僅かに力が増した気がしますね」


「「「バウッ!バウッ!」」」


恭弥が呟いていると、仲間を殺された事に激怒した他のコボルト達が、怒りの声をあげて恭弥へと襲い掛かる。


「おやおや、そんなに僕と戯れたいんですか?」


コボルト達は手に持つ錆びてボロボロの剣や槍を使って恭弥に切りかかるが、恭弥はそれをひらりひらりと躱しながら楽しそうな笑い声をあげる。


「次はこれを試してみましょう」


突き出された槍をくるりと回転する事で回避し、その流れの中で体制を整えられていないコボルトを蹴り飛ばしながら血時雨をマジックポーチに納刀、代わりにデザートヴァイスを抜き放つ。


「ん?これは持つだけでは呪われ無いんですね」


これは銃弾の代わりに負の感情を放ち、その感情が大きければ大きいほど反動に使用者の命を削ると言う呪いを持った銃だが、どうやら他の物とは違い所持しているだけの分には呪いはかからないようだ。


「まぁ、撃ってみれば分かるでしょう」


恭弥は蹴り飛ばしたコボルトに狙いを定めて引き鉄を引く。その瞬間、恭弥の魂に直接響く不快感が。しかしそれが魂に直接影響を及ぼす事は無く、恭弥を襲う不快感は恭弥の中かはあっさりと弾き出された。


「ほう、これが生命力を喰われる感覚ですか」


ドパンッ!響き渡る音と共に放たれた恭弥の狂気を凝縮した弾丸は、進路上のコボルトを跡形も無く吹き飛ばし、その先にあった地面を何百メートルと抉り、遂には恭弥達の目には見えない所まで飛んで行ってしまった。


「……これは加減を覚えないといけませんね……」


恭弥の持つ負の感情は地表の形をあっさりと変形させてしまう程の深く純粋な闇であった。

凄まじい破壊力を持っているが、このままの威力では、ダンジョン内等の狭い空間で放った場合には周囲を破壊してしまい、恭弥達自身を生き埋めにしてしまう。


「これは暫く封印かですね……今回のダンジョンでは使えません」


恭弥は残念そうな溜め息を吐きながらデザートヴァイスをマジックポーチにしまう。そして続いて取り出したのは吸血の薔薇棘呪槍(ローゼンブラッド)

取り出した瞬間に持ち手から茨が現れ恭弥の手に巻き付かんとする、これがこの槍が持つ呪いの吸血能力だろう。しかし、巻き付いたそばからその茨は消滅させられて行き、恭弥の手にその棘を巻き付かす事が出来ない。全て恭弥により無効化されてしまっているのだ。


「逃がしませんよ」


呪いの調子を確認し無害だと判断すると、先程のデザートヴァイスによる一撃に怯えて逃げ出した残り二匹のコボルトに狙いを付ける。


「こんな感じでしょうか?」


吸血の薔薇棘呪槍(ローゼンブラッド)の持つ、穂先を地面に突き立てて魔力を込める事により呪いの刃を広範囲に出現させる能力を発動させ、逃げるコボルトの前方にそれらを出現させて逃げ道を奪う。


「ほう、刃は刃でも薔薇を彷彿させる刃ですか。ならこの能力は《呪薔薇の庭園(ローゼンガーデン)》とでも呼びましょう」


刃を出現させる場所はある程度なら思い通りにする事が出来、一匹のコボルトを出現させた刃で四方八方から突き殺し、もう一匹のコボルトを逃げられないように刃の檻で囲む。


死んだコボルトからは血が噴出し、血が薔薇の刃に触れると、そのそばから吸収されて行く。血を吸った薔薇は色をその血の色と同じ色合いに変色させて行き、やがて全身を同じ色に染め上げると、それらは魔力となって薔薇棘の呪槍(ローゼンブラッド)の力へと還元されて行く。その感覚は先の妖刀・血時雨と似ており、血を吸う度に力が強化されて行く感覚が伝わり、ドクンと槍身が脈打つ。


「これで最後です」


吸血の薔薇棘呪槍(ローゼンブラッド)をマジックポーチに仕舞い、続いて取り出すは腐蝕の呪鞭(アシッドウィップ)

呪薔薇の庭園(ローゼンガーデン)吸血の薔薇棘呪槍(ローゼンブラッド)を地面から離しても暫くは持続するらしく、コボルトを囲む薔薇の刃の檻はまだ消えていない。


「これは完全に状態異常の腐蝕ですね。ルナと出会った森に酸を吐いてくる魔物がいましたが、その時に食らった酸と同じ感じがします」


それはLV40程度のアシッドスライムと言う雑魚の魔物だったのだが、スライムを見たのが初めてだった恭弥は思わずその体に触れてしまったのだ。その時は状態異常無効で効果を無効化させて何の被害も無かったのだが、その感じとこの呪いは同じような感じがした。つまりどうにせよ恭弥には通用しなかったと言うわけだ。

これによりガイアスから譲り受けた武器の全ては恭弥に害とはなら無い事が判明。結果としてただでとても強力な能力を持った武器を四つ入手した事となる。その結果に恭弥は満足そうにすると、腐蝕の呪鞭を(アシッドウィップ)憐れなコボルト目掛けて構えた。


「長鞭を使うのは久しぶりです、ね!」


そう言いながらも慣れた手つきで鞭を放つ恭弥。投じられた鞭は変則的に動きながらコボルトの首へと巻き付き、腐蝕の呪鞭(アシッドウィップ)の持つ腐蝕の効果でコボルトはドロドロに溶けて無くなった。


「これは誤って味方に当たったら危険ですね。乱戦時はなるべく使わないようにしましょう」


その効果を見届けた恭弥は、腐蝕の呪鞭(アシッドウィップ)をマジックポーチに戻すと、そう結論付ける。


「お待たせしましたルナ。ガイアスさんからいただいた武器の性能を確かめるためとは言え余計な時間を取りましたね」


「ううん……凄かった……お兄さん、最強?」


「僕が最強と言うわけではありませんよ。アレはあくまで武器の能力ですから。ですが、あの武器達に恥じない程度にはなるつもりです」


「お兄さんなら、もっともっと上になれる……私は信じてるから……」


「ふふ、ありがとうございます。では出発しましょうか。目的地は近いんですね?」


「うん……」


恭弥とルナは再び歩き始める。

以降は魔物の襲撃も無く退屈な旅路となったが、ルナ曰く目的地までは後数時間で着くはずだそうで、そこからダンジョンの入り口を探すとなると時間的に夜に近い時間での到着となる現状では厳しいらしい。

ならばと恭弥が提案したのは、ロッキー荒野に到着後、まだ僅かにでも日がある内に野営地を設置し、明日の朝から探索を開始すると言う意見。ルナもそれが良いと判断し、行動方針が決定した。


そして大体予定通りの時間にロッキー荒野へと入った恭弥達は、決めた行動方針に則り野営地を作成し、その中で就寝をする事にした。

通常であれば魔物の襲撃に備えてどちらか一方が見張りに付くのだが、ルナの高位の幻術により野営地を隠す事によりこの問題を回避。この辺りに出没する魔物程度にルナの幻術は見破れないので二人は気負い無く快眠に就く。


蛇足となるが、恭弥達がヘンダーの店で購入したテントと寝袋は実に快適であり、翌朝目覚めた二人は妙にツヤツヤしていた。

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