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狂人は異世界で狂い踊る  作者: 夜桜
狂人街へ行く
17/25

買い物をしましょう

「ほう、これは中々立派ですね」


冒険者ギルド隣の武具店。ギルドの直営店であるここには、初心者用の武器や装備から上級冒険者が扱うような、魔法が付与された武器や装備などが所狭しと置いてある。


「いらっしゃい」


入ると、ガイアスにも負けず劣らずの筋骨隆々の大男がカウンターの奥から声を掛けて来た。


「こんにちはグレンさん。此方は今日冒険者登録をされたキョウヤさんとルナちゃんです。本日は二人に合う防具を探しに来ました」


「お、マリナちゃんだったか。よく来たな。今日登録したって事は初心者用の防具でいいか?」


最初は無愛想だったものの、マリナの姿を見るとその厳つい顔に笑みを浮かべ、紹介された恭弥達を見定めるようにして見てきた。


「どうも、ご紹介に預かりましたキョウヤと申します。

本日探しているのはダンジョンに通用するような防具ですので、貴方の見識にお任せ致します」


恭弥は丁寧な動作で挨拶をしつつ、グレンの座るカウンターへと近づき、懐からガイアスから受け取った紹介状を取り出してそっとカウンターへ置いた。


「あん?これはガイアスからの紹介状か。なるほどな、あいつがこれを渡すって事はそれなりに実力はあるようだ。俺はグレン・マクドゥーバだ。あいつとは以前パーティを組んでた仲でな」


「グレンさんは元S三級冒険者なんですよ。今のギルドマスターが、ギルドマスターの席に着いた時に一緒にこの街に来られた方で、このようにギルド直営店の武具店の店長として我々を支えてくれてるんです」


グレンの自己紹介にマリナが補足を入れる。よっぽど尊敬しているのか、さっきまでより少し口調が早口になっている。


「おや、そうでしたか。それなら期待出来そうですね。

僕の要望は動きを阻害しなくて丈夫な上鎧と下鎧、それと靴ですね。鎧と言いましたが出来れば金属製じゃなくて糸や魔物素材で作られたタイプの物が望ましいです」


恭弥の要望を聞いたグレンは、ちょっと待ってろと言い残しカウンターの奥へと引っ込んで行った。


この要望は、恭弥がこの世界に来た一週間ちょっとの間に対峙した色んな相手との戦闘から導き出した最適スタイルである。

恭弥の最も得意な戦法は暗殺。そのためには音や気配を完璧に断つ技術と、音を出さない事を優先とした衣装が必要となる。

技術は完璧な恭弥だが、衣装に関してはこの世界に来てからずっと着ている今の服装しか無い。それはどう考えても戦闘向けとは言えない服装なので、その手の為の服装が必要となるのだ。


「待たせたな、こんなのとかはどうだ?」


待つこと10分程、ようやく戻って来たグレンの手には幾つかの衣装が握られており、それを人二人程度なら余裕で寝れるだろう長さを誇るカウンターの上に順に並べて行く。


恭弥は広げられた商品に対して、超位鑑定を発動させた。


ーーーーーーーーーー

暗闇の衣


深い夜を思わす衣。辺りの暗闇が深いほど素早く動けるようになり、あらゆる生物に見つかり難くなる。しかし、その代償に明るければ明るいほどに動きが鈍り、あらゆる生物に見つかり易くなる。

ーーーーーーーーーー


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身躱しの衣


動き易さを追求した衣。動き易さに補正が入るが、その反面防御力に劣る。

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疾風のロングパンツ


機能性を重視ししたズボン。速度と動き易さに補正が入るが、防具としての防御力はほぼ皆無。

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シャドウジーンズ


暗闇に溶け込む隠密向けのズボン。防御力は殆ど無いが、速度に大きな補正が入る。また、装着者の気配を僅かに希薄にさせる。

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冒険者の靴


歩き易さを追求した靴。長い距離を歩く冒険者や旅人向けに改良を重ねられており、無駄な体力の消費を抑える

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ゲイルシューズ


風属性の付与がされた靴。速度、ジャンプ力、動き易さにそれぞれ僅かな補正が入る。防具としての防御力はほぼ皆無

ーーーーーーーーーー


「うーん……悩みますね……」


超位鑑定の結果を見た恭弥は、珍しく悩む素振りを見せた。それは金額的な理由もあるが、それ以上にダンジョンに生息する魔物の情報が不足していると言う事があった。


(能力だけを見るなら、暗闇の衣とシャドウジーンズと、ゲイルシューズですが、それだと完全に変質者ですねぇ……まぁ、それは構わないんですが、暗闇の服のマイナス効果がちょっと嫌ですね)


暫く悩んでいた恭弥だったが、やがて決心したのか、選んだ装備を手に取りグレンへと差し出す。


「ふむ、身躱しの衣に疾風のロングパンツ、それにゲイルシューズか。本当にこれでいいか?」


「ええ、構いません。お願いします」


これを選んだ理由は、暗闇の衣の持つマイナス効果と性能を天秤にかけた結果、まだこの世界に詳しく無い恭弥としては少しでも動きが鈍るのは望むところで無いからでと考えたからである。ズボンに関しては大きく速度が上がると言う効果に、多少ならともかく大きな補正が入ると、慣れた親しんだ動きがし難くなる考え、それを恐れたためである。無論、なった場合でも直ぐにそれに適応出来るのだが。それに加え元々気配を消すのが完璧な恭弥からしたら追加効果の気配を希薄にすると言うのも不要だったと言う事もある。

ゲイルシューズは単純に性能が冒険者の靴より圧倒的に優れていると言う理由から選んだ。冒険者の靴の追加効果である疲労軽減も、元より常人離れした体力を誇る恭弥からしたらあってもなくても大して変わらない程度の物なので、どう考えても冒険者の靴を買うメリットは無かったのだ。


「了解だ。このレベル帯の装備だと値段は大銀貸8枚って所だが、ガイアスからの紹介状があるのを踏まえると大銀貨5枚に銀貨6枚でいいぞ」


「おや、それはありがたい。では此方でお願いします」


恭弥は腰に下げたマジックポーチから言われた硬貨を取り出してカウンターに置き、代わりに購入した装備を受け取る。


「おう、確かに頂いたぜ。まいどあり」


ニカっと笑い、そう言うグレン。恭弥はぺこりと軽く会釈をし、店を後にする。


***


「キョウヤさん、ルナちゃんの装備は良かったんですか?」


「ああ、その事ですか。大丈夫です、ルナは今着てる服が装備ですから」


「ん、この服、並の鎧より頑丈……」


「ああ、魔法装備だったんですねそれ。確かに不思議な形をしています」


魔法装備とは、その名の通り魔法の力が宿った防具と名称であり、恭弥が買ったような些細な補正が入る装備を付与装備と呼ぶ。区別の仕方としては、人の手で作れる魔法付与された装備を付与装備、神や高位精霊によって作られた人の手では再現不可能な装備を魔法装備と言う。


大体的に見ればどちらも魔法の力が宿った装備なのだが、その性能には雲泥の差が存在する。

魔法装備の中には装備自体に意思が宿った意思ある装備(インテリジェンスアイテム)や、神の力が宿った神器などと言った存在するのに比べ、付与装備はどこまで極めてもそれは所詮人の手によって作られた物なのだ。神や精霊には及ぶべくもない。勿論、凄腕の鍛治師が作り、凄腕の魔導士が付与を施した物は下手な魔法装備より上の性能を誇るが。


「こちらが野営道具や薬品などを扱ってる道具屋です」


そうこう話している内に目的の場所に着いた。と言っても、さっきの武具店からはギルドを挟んだお隣さんなのだが。


「おや、マリナちゃん。いらっしゃい。今日は何を買って行くんだい?」


中は武具店と同じくらいの広さであり、大きな棚が幾つも置いてあった。そこには色んな名前の薬品が綺麗に並べてあり、効果毎に区切りが入っている。

奥のカウンターにはローブを着た老齢の女性が座っており、マリナを見ると孫が来た時の祖母のように嬉しそうに笑って迎える。


「こんにちはヘンダーさん。今日はギルドとしての買い物じゃなくて、冒険者登録をされたキョウヤさん達の買い物の付き添いです」


「おや、そうだったのかい。ここは、ポーションやテントとかを扱ってる店だよ。お兄さんは何をお求めかね?」


マリナに紹介された恭弥達へと目を向けたヘンダーは、笑顔を浮かべてこの店の説明を行う。


「そうですね、では体力を回復出来るポーションと魔力を回復出来るポーション、それに野営用に広めのテントを一つ、寝袋を二つお願いします」


恭弥はガイアスからの紹介状をカウンターに差し出しながらそう告げると、ヘンダーは少し驚いた様な表情になって、次いで先程以上に嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「おやおや、あの子からの紹介状かい!こりゃあたっぷりとサービスしないとね!ちょっと待ってな!」


「ヘンダーさんはギルドマスターやグレンさんがまだ新人の頃からの知り合いで、グレンさんと同じでギルドマスターがここを任されると知ってわざわざこの街に引っ越して来てまで、ここで道具屋を開いてくれてるんです。付与魔法も得意なので、グレンさんが仕入れて来た装備に魔法を付与したりと、公私ともに付き合いがあるんですよ。ギルドにも良く来られますよ」


「あの頃のガイアスちゃん達は可愛かったねぇ、今でこそみんな立派になってくれてるけど、最初は怪我や失敗続きでよくあたしの店にポーションを買いに来てたよ」


マリナの解説に、恭弥が頼んだ商品を探していたヘンダーは手を動かしながら昔を懐かしむかのように目を細めて宙を仰ぎ見る。


「そうなんですね。今でも公私ともに付き合いがあるのはとても良い事だと思います。僕にはそんなに長く付き合いの続く友人なんていなかったので羨ましいです」


それは親しくなった者ですらも、あらゆる理由によって恭弥自身が殺していたからなのだが、それは恭弥以外に知る者はいない事実である。


「そうだったのかい……でもお兄さんはまだまだ若いから、この先出会いなんて幾らでもあるさね。っと、はい、これがポーションの類さね。テントと寝袋は奥の方にあたしのオススメの物があるから、今持ってくる。ちょっと待っといとくれ」


それぞれ赤色をした液体の青色をした液体の入ったビンがカウンターに置かれる。その後ヘンダーは奥の方へと引っ込んで行った。

恭弥達はヘンダーに言われた通り大人しく待つ事にし、暇を潰すことも兼ねてそ超位鑑定を発動させた。


ーーーーーーーーーー

ライフポーション


赤い色合いをした液体。複数の薬草が混ぜ合わされて作られたポーション。HPが一定値回復する。効果の出方に個人差あり。


製造素材:いやし草、甘露草

ーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーー

マナポーション


青い色合いをした液体。複数の薬草が混ぜ合わされて作られたポーション。MPが一定値回復する。効果の出方に個人差あり。


製造素材:月光花、魔力草

ーーーーーーーーーー


「いやし草に甘露草、月光花に魔力草ですか。さっきギルドの掲示板をちらっと見た時に常備依頼になってましたね」


「ん……その四つは昔からポーション類の素材だった……私が住んでた村の近くでよく取れたから覚えてる……」


恭弥の小さな呟きを聴きとめたルナがそう教える。マリナは興味深げに棚を見回しており、ヘンダーは品物を取りに奥の方へと行ったきりなのでこの会話を聴いている者はいなかった。もし聴かれていたら二人の兄妹設定に矛盾が生じてしまうところだったので一安心と言ったところか。尤も、そこら辺の判断を恭弥が誤る事は先ず無いので、心配するだけ杞憂だったりするが。


「待たせたね。これがあたしオススメの野営道具さね」


待つ事数分、両手に畳まれたテントと小さく収納した寝袋を持ったヘンダーがふらふらと危なげな足取りで戻って来た。


「ヘンダーさん、大丈夫ですか?」


「なぁーにこれしき!まだまだ余裕さね!」


マリナが心配そうに声を掛けるが、ヘンダーは大丈夫だと答える。顔は隠れて見えないが、恐らく笑っているのだろう。しかし、本人は大丈夫だと思っていても、体は正直で、遂に足をもつれさせて転びそうになる。


「危ない!」


悲鳴のような声を上げるマリナ。だが、その横を一陣の風が吹き抜ける。


「お婆さん、無理しないで……」


そう言いながら転びかけたヘンダーを支えるのはルナであった。

ヘンダーが転ぶのを察知したルナは、小柄な体躯を活かして走り出し、カウンターを最小限の動きで飛び越えてその先にいるヘンダーをすんでの所で支えたのだ。


「おや、これはすまないね……やっぱり気持ちは若くても、寄る年波には勝てなんだ。ありがとうね、お嬢ちゃん」


「ん」


ヘンダーは無念そうにそう言うと、ルナにお礼を言って立ち上がる。ルナは、短く返事をし、完全に立ち上がったのを見届けると、再びカウンターを飛び越えて恭弥の元へと戻って来た。


「よくやりました、ルナ。僕じゃあんな細かい動きは出来なかったので助かりましたよ」


「ん、これから買う物、傷付いたら困る……」


恭弥が撫でると、ルナは気持ち良さそうに目を細める。最早お約束の状況である。


「ほんとすまんねぇ。お礼と言っちゃあなんだけど、値段は少しサービスさせて貰うからねぇ」


「ふふ、お気遣い感謝します。ルナもお礼を言いなさい」


「ありがとう……」


ヘンダーが申し訳なさそうに言うが、恭弥達は気にしてないと言う態度で逆にお礼を言う。その様子に、マリナとヘンダーは目を丸くさせて驚く。


「おや?何か?」


「いえ、冒険者の方でこんな丁寧な方は初めてで少し驚いてました……キョウヤさん達が変わった方だと言うのは知っていましたが……あ!変わったって言ってもいい意味でですよ?とにかく丁寧な方だと言うのは分かっていたんですが、他人にそこまで丁寧に接せられる方なんて本当に初めてです」


「いやはや、本当に良い子達だねぇ……マリナちゃんは本当良い人達を連れて来てくれたよ」


恭弥が尋ねると、マリナとヘンダーはそう言って互いに笑い合う。恭弥はそうだったんですかと微笑みを浮かべながら、さり気なく超位鑑定をヘンダーが持って来た道具に掛けた。


ーーーーーーーーーー

快適テント(大)


野営時に設置する簡易住居。時属性の空間魔法にて内部を広くさせたテント。開くと微力の結界が張られるようになっており、低位の魔物の襲撃から身を守る。

ーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーー

快眠寝袋


睡眠時に使う簡易寝床。高級な綿で内部を作っており、これで寝る者に快適な睡眠を与える。しかし、あまりに快適なため、一度寝たら中々抜け出せ無い。

ーーーーーーーーーー


「これは良さそうな物ですね。早速購入させていただきます」


「おや、そうかい。もう少し悩むかと思っていたよ」


「ふふ、僕、自分の眼には自身があるんですよ。これは良いものだと一目で分かりましたよ」


実際は超位鑑定のおかげなのだが、ルナ曰くこの手のスキルは世間一般には知られてないようであり、恭弥にしてもわざわざそれを言うつもりも必要も無い。


「良い目利きさね。お兄さんは商人に向いてるかも知れないねぇ」


「お褒めいただき光栄です。それでは値段をお聞かせ願えますか?」


「やっぱりその丁寧な言葉使いはなれないねぇ。まぁ良いかい。テント一つで金貨2枚、、寝袋一つ大銀貨4枚、ポーション類はどちらも一つ大銅貨3枚だよ。だけどガイアスの坊やからの紹介状と、あたしを助けてくれたお礼も踏まえて、実際はその半額で売ってやろう」


「それは助かりますね。では、テント1つと寝袋2つ、それにライフポーションとマナポーションはそれぞれ20個ずつお願いします」


「はいよ、じゃあ全部合わせて金貨1枚と大銀貨4枚、それに銀貨6枚だよ」


「ん、お金……」


「はい、丁度いただいたよ。ありがとね」


言われた代金をルナがマジックポーチから取り出してカウンターの上に背伸びして乗せる。それを受け取ったヘンダーは代金を数え、笑顔でそれを受け取った。


「さて、これでだいたい必要な物は揃いましたか?」


「ん……水や火は魔法で出せるからいらない……あ、携帯食料も買わないと……」


「ああ……ならそれは帰り道で買って行きましょうか」


「ん!」


恭弥は受け取ったテントと寝袋、ポーションをマジックポーチに次々と突っ込むと、ヘンダーに軽く会釈をしてから店を後にした。


「また来てね」


ヘンダーがその背に向かってそう声をかけると、ルナが小さな手をバイバイと振って応じた。


「最後まで気持ちの良いお客さんだったねぇ」


後に残ったヘンダーは今来た二人は何かしらの方向で絶対に大成するだろうなと思いながら、昼の温かい気温を全身で感じながらそう呟いた。


***


「さて、これで買い物はお終いですね。僕達は帰り道で適当な食料を調達してきますね」


「分かりました。では、明日の朝にまたギルドに顔を出して下さいね。ギルドマスターが言っていた依頼書を作成しておきますので。ですが、本当に大丈夫ですか?キョウヤさんとルナちやんの強さは直接見ましたので疑ってはいませんが、危険度未知数のダンジョンは本当に危険な場所です。熟練の冒険者の方々でさえ、そこで命を落としているんですよ?」


「心配無用……私とお兄さんは、その冒険者より強い……」


「ですが……私はやっぱり心配です。夢に満ち溢れた新人の冒険者の方々が、依頼先で次々と亡くなって行くのを、私はずっと見て来ました……キョウヤさん達にはそうなって欲しくありません……」


「ご心配痛み入ります。ですが大丈夫ですよ、僕達は死にません。危なくなったら直ぐに逃げますしね」


表情を暗くして語るマリナに、ルナと恭弥は自信満々な態度を取るが、それでもマリナの表情は優れない。まだ若いながらも、その間にマリナは何人もの帰らぬ人を見送って来たのだろう。


「キョウヤさん……ありがとうございます。その言葉信じてますからね」


「ええ、信じて下さい」


そう言いつつも暗い表情のままのマリナに、恭弥は優しく笑いかけながら言い聞かせる。


「私達は今までマリナが見てきた人とは違う……」


「キョウヤさん、ルナちゃん……」


一歩前に出たルナは、それだけ言うとそれっきり黙り込んだ。しかし、それだけでも言いたい事は十分に伝わった。その証拠にマリナの声には幾分かの力強さが戻っている。


恭弥とルナはそれ以上何も声をかける事無く、佇むマリナに背を向けて帰路へと着いく。


ギルドに来てから色々な事があり、気付くともう半日近くの時が経過していた。いつの間にか辺りにはうっすらと夕暮れが射し込んでおり、大通りを歩く恭弥とルナを陽射しが包み込む。


こうして今日も日が暮れて夜の帳が訪れる。

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