転生って本当にあるんですね
転スラから一転、まったく別物に!
真っ暗な世界。辺りを見回してもそこにあるのはただの闇だけ。どれだけ先を見ても、どれだけ辺りを見回しても、そこにあるのはやはり闇一色。
「はて、ここは?」
そこに一つの影があった。真っ暗な闇の世界に不思議とその影の形だけははっきりと見えている。
影は立ち上がる。その姿は成人男性に少し足りない程度の背丈を持つ人型であった。
「気付いたようじゃな」
影が立ち上がった瞬間、辺りを光が埋め尽くし、影の側にはいつからいたのか、純白のトーガを纏った老人が立っていた。
「貴方は?」
そう声を出した影の姿は、いつの間にか影では無くなっていた。
影の正体は20歳くらいの成人したての男性で、整ってはいるもののまだほんの僅かにあどけなさを残した中性的な顔立ちをしており、よく見なければ一見女性と見間違えてしまいそうだ。身長は男性にしてはそれ程高く無く、168cmと言ったところだろうか。少し長めの黒髪を背中で一本に纏めたその中性的な男性はいつの間にか近くに立っていた老人に驚いた様子を見せながらも問いかける。ただし、その男の双眸は非常に冷たく、普通にしているだけのように見えても、何処か近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
「ワシか?そうさなぁ……ワシは主等で言う神のようなものじゃな」
老人はそんな不気味な男に臆する事無く、彼の問いに少し考える素振りを見せてから自らを神と名乗った。
「神、ですか……すみません、まだ混乱していて事態をよく飲み込めていないんですが」
「そうじゃろうな、安心するが良いワシは幾らでも待っとるからの」
老人は顎に生えた立派な髭を弄りながらそう答えた。
***
「ふぅ……少し落ち着きました。お待たせしてすみません、ご説明をお願い致します」
数分後、男はそう言って口を開いた。一見、さっきまで変わったところは無いのだが、老人はそれを疑問に思う事無く好々爺然とした笑みを浮かべながら頷く。
「うむ、では説明するぞい。先ず初めにお主は先程死んだ。通常であれば死者となった者の魂はそのまま冥界に運ばれるのじゃが、極稀にお主のように冥界へ行かず魂が姿を保ったままこの場所に呼ばれる者がおる」
「はぁ、魂ですか……それに僕は死んでしまったのですか」
男は老人の言葉に微かな驚きを見せ、ついで自らの体に目をやった。
胸の辺りに刺繍がついた黒いTシャツにありふれたジーパン。それにTシャツの上から羽織っている黒いコート。自分の記憶に当てはまる服装に自分が死んだと言う事を実感出来ない。
「自分が死ぬ瞬間って言うのを見てみたかったですねぇ……」
「ん?何か言ったかの?」
「あ、いいえ何も。それで僕はどうなるのでしょうか?」
思わずと言った風に呟かれた男の声は幸いにも老人に聞こえる事は無かった。男は本当に何事も無かったかのように老人へと再度質問をした。
「おっと、そうじゃったな。続きを説明するぞい。
冥界へと行かずこの場に来た魂は残念ながらもう冥界には行けぬのじゃ。そう言う決まりじゃから、ワシ等の力を持ってしてもその事実は変えられぬ。じゃから代わりにその魂をワシ等の力で救済しとるのじゃ」
「そうなんですか。ではその救済と言うのは具体的にどのような事なんですか?」
男は老人の言葉になるほどと頷きながら話を聞く。
「お主は中々冷静じゃのう。普通であればこの状況に陥った者は大抵暴れるか、現実逃避を行うかのどっちかなのじゃがな」
老人は男の冷静さに感心し、男を褒める。
「いえ、そんな。僕はただ現実を受け入れているだけですよ」
男は苦笑しながらそう答えた。だが老人は男のその切り替えの良さに更に感心し、嬉しそうに説明を続けた。
「説明を続けるぞい。救済じゃが、それはお主達に分かりやすい言い方で言うと異世界転生と言う奴じゃな」
異世界転生。その単語は男にも聞き覚えがあった。主にライトノベルなどの舞台となる設定にあり、異世界転生をした主人公は大抵の場合その世界に大きな影響を齎したり、たくさの女の子に囲まれハーレムを築いたりしている。
男自身、そう言うタイプの小説は勿論読んだ事があったが、周りが言う程魅力的には感じなかったし、まさかそれが自分に訪れる事なんてまったく考えてもいなかった。
「この異世界は一種のサービスも兼ねておってな、異世界へと渡る際にその者にはクジを引いて貰い、それに合った特典を授けておるのじゃ」
老人の説明は続き、展開は男でも知っている所謂テンプレなものへと進んで行った。
「なるほど、理解しました。つまり僕は死んでしまった上に通常の死者が行く冥界と言うところにも行けない。なので神様が自ら特典付きで僕を異世界へと転生させてくれると言う事ですね」
「うむ、そうじゃ。理解が早くて助かるの。では早速じゃがクジを引いて貰えるかの」
老人がそう言うといつの間にか男の前には商店街にあるようなガラガラタイプのクジが存在していた。
「それには金と銀と黒の玉が入っておる。黒、銀、金と言う順に良い物になっておるが同じ色でもそれぞれ別の特典が入っておる。例え黒であったとしても最低限自らの身を守り、普通に暮らしていけるようになっておるので安心するが良い。言っておくが、異世界転生をしないと言う選択肢はここに来てしまった以上出来無いので、申し訳ないが理解しとくれ」
「分かりました。せっかく第二の人生を頂けるのですから是非もありませんよ」
男はそう言ってクジに手を当てた。そして思い切りぐるぐると取っ手を廻した。
コロン♪
そして出て来たクジの結果は……?