第07話 行動開始(1)
この世界には、亜人と呼ばれる人がいる。
特徴として、獣の身体の一部分が人の体に現われる人の総称である。
云えば、けも耳しっぽの方々だ。
二足歩行の、獣や爬虫類の獣人とは区別され、人として扱かわれる。
亜人は人、獣人は魔物。
これがこの世界の常識だ。
ちなみに獣と魔物は区別される。選別方法は実に曖昧だが、害獣は大概魔物扱いされる。
他、RPGゲーム然り、ドロップアイテムを残し死体が煙の様に消える不思議生物も魔物扱いだ。
また、獣は殺害しても経験値を取得できない。
害獣の一部も経験値は取得できないが、その危険性から魔物と呼ばれている。
『さて、そろそろ頃合いか』
アルクは常々思っていた。
父の治めるこの村は比較的平和な村だ。
食料に困る事も無く、国や政府のお偉いさんに目を付けられる特徴も持っていない。
亜人の人達に対する偏見も他の村に比べて強いと云う事は無い。
貧民と呼ぶ様な人もいない。
が、しかしだ。
この国、というか世界の大多数の国々では亜人への差別は酷いものがある。
悪ければ奴隷扱い。最も軽い部類のこの国でも一般住民より一段下にみられる。
農家であっても小作人以上にはなれない。
言ってみれば、アルクはその雰囲気が気にくわない。
国や世界にたてつくのは得策ではない。
しかし、方策が無いではない。
『革命は論外だ。楽しくない』
彼は目的を忘れない。危険は侵さない。
『この村が有名になるのは困る。下手に発展させて目に留まる愚は侵せない。
その後の対処も大変だ。国や世界へのアプローチは必要最低限に抑えたい』
彼は密かに準備をしていた。
村をより居心地良いものにする計画を。
そして、その影響から村を護る計画も。
「コオリ、ぼくは気持ちが悪い」
「急に如何したの。具合悪いの?」
当然の反応だった。彼の行動は度々可笑しい事があった。
「行くぞ」
「ど、何処行くの。大丈夫なの?」
彼は村外れに向けて歩き出した。
其処には亜人の人達の集落がある。
◇◇◇◇◇
「コオリよ、ぼくはやって来た!!」
「アルク、気を確りして!あなたの名前はアルク、覚えてる?」
たいがいだ。
「コオリよ安心しろ、ぼくは正常だ。通常運転だ」
「テンションが普通じゃないよ。絶対何かよくない物を口にしているよ」
二人はいつも通りだ。
大通りには三人の子供が、石蹴りをして遊んでいる。
歳は皆、アルク達より若い、七、八才程だ。
アルク達の突然の登場に驚き、立ち尽くしている。
「やあやあ我こそは村長が一子、名をアルクと申す。尋常に勝負されたし」
アルクは子供達に向き、口上を起てる。
「何を言ってるのか解らないよ。大丈夫?戻ってきてアルク」
亜人の子供達は動かない。
「返答は無しか。いたしかたない。先手必勝!行くぞ!」
ドバキャ!!
アルクはもんどりうって地面を転がる。
「アルク、早く戻ってきて!」
容赦の無い蹴りをアルクに浴びせてコオリは懇願する。
アルクは身動き一つしない。
「大丈夫?如何したの、何があったの?」
子供達は呆然としている。
「……ょ、よい、攻撃だった。まさか我が気付かぬ内に背後を捕られるとは…」
「よかったー、………いや、よくないよ。まだ戻ってきてないよ」
子供達もまだ戻ってきていない。
その場は、外と隔絶された混沌な世界と化した。
◇◇◇◇◇
「どう、面白かった?」
「「「ごめん、よく分からなかった」」」
亜人の子供達は揃って口にする。
「コオリ、如何しよう、あんまりつかみが良くなかったみたいだ」
「つかみが何なのか分からないけど、アルクは何がしたかったの?」
コオリに純粋で常識人な十才の女の子だ。
「いや、決闘ごっこにかこつけた演劇で笑いを取りたかったんだ」
「私には説明の一つも無かったよ?」
「説明したら面白くないだろ」
アルクは真剣な顔で話しをしている。
「ごめんね君たち。でも安心して、お兄ちゃんは危険な人じゃないから」
亜人の子供達に頭を下げるコオリ。
「このお兄ちゃん少し可笑しな所もあるんだけど、危険ではないんだよ」
「コオリさん、あんまり強調すると、ぼくが本当に危険な人に聞こえるから気を付けてね」
作戦その一は成功だろう。
演劇スキルは役に立つ。
変な緊張も無く、仲良くなる切欠ができた。
そんな彼の思惑を知る由もない子供達は打ち解け、共に遊び家に帰る。
今日も楽しかった。
彼は知らない。
演劇スキルは、今日発動していなかった事を。
あれはただ、素の行動であった事を。
翌日からアルク達は亜人の子達と遊ぶ様になった。
鬼ごっこ、かくれんぼ、ケイドロ、縄跳び、等々、アルクは知っている遊びを教えていく。
道具が必要であれば作って持っていく。
仕事中であれば手伝い。草取りのこつ等を教える。
それが何日か続き、少しづつ村でも噂になっていった。
ある日の帰り道。
「ねえアルク、何で急に亜人の子達と遊ぶ様になったの?」
コオリの疑問も最もだ。十才になるまで、亜人達に近寄る事すらしなかったのだ。
何かあったと思うのも当然だった。
「別に急じゃないよ。どちらかというと、ようやく遊べる様になったって云うだけだよ」
コオリは反すうする。
アルクは人を馬鹿にした様な言い回しをする事はあるが、騙す様な事は言わない。
「うん、でもよかったね。アルクも楽しそうだし、色んな子と遊べて私も楽しいよ」
コオリは聡明だ。
「まあこれから少し大変かもしれないけど、気持ちが悪かったからよかったよ」
「うん、ちゃんと手伝うから、絶対除け者にしたりしないでよ?」
彼を十全に理解できなくとも、彼を十全に信頼している。
「「じゃあ、おやすみー」」
楽しい一日が暮れていく。
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